武道館ライブ直前のゲネプロでのリハ中、あ〜ちゃんが体調を崩した。
ステージ脇で横になるあ〜ちゃんに声を掛けるのっち。駆け寄ってはみたけれど、あたしはただ見てるだけしか出来なくて。声も上手く出ない。
あ〜ちゃん、あ〜ちゃん?
「ゆかちゃんそっち支えて」
「あ、ああうん、ごめん」
のっちに言われるままあ〜ちゃんの体を支える。
楽屋まであ〜ちゃんを運ぶ間、やっぱりあたしは何も話せず、のっちの大丈夫、大丈夫って言葉だけが思考とは違う世界で反復していた。
控室の簡易ソファーにあ〜ちゃんを寝かせ、のっちはスタッフさんに話をしてくると言って部屋から出て行った。
ソファーの足元へ座り込み、団扇で風を送る。
顔を腕で覆い丸くなった背中を見てると、改めて自分の無力さを実感した。
───のっちはあんなにすぐ対応してたのになぁ。
あ〜ちゃんが体調を崩すのは、勿論これが初めてじゃない。あたしだってのっちだって、たまに不調な時もあって。でもその度に他の2人が支えてきた。お互いカバーし合ってきたのに。
……何で、今日は出来んかったのじゃろ
こういう時に一番不安になるなのは弱ってるあ〜ちゃんだ。あたしはそんなあ〜ちゃんをしっかり支えてかなきゃ駄目なのに。大丈夫だよ、うちらが居るよって安心させなきゃなのに。
───急に怖くなった。
あ〜ちゃんがいなくなったらどうしようとか、急に考えてしまったんだ。
ああもう自分がネガティブすぎて本当嫌になってくる。
止まらない思考を振り切って団扇を動かす手を少し早めると、あ〜ちゃんの体がゆっくりこちら側に向いた。目はまだ閉じたまま。ゆっくりと口が開く。
「…ゆかちゃん」
「ん?」
「……手ぇ、握ってもいい?その方が、安心するけぇ」
かすれて消えそうな声に心が痛みつつも、もちろんと言って団扇を持たない方の手を差し出す。
少し湿った手の平をそっと包むように握ってやると、目は閉じたまま、あ〜ちゃんの口角が上がる。
「ありがとうゆかちゃん、」
息が詰まりそうになった。
あ〜ちゃん、何もしてないよ、あたしは何も出来てないんよ。それなのに、あたしにそんな風に言ってくれるん?
頬を涙が伝わるのが自分でも解る。でもあ〜ちゃんは目を閉じてて解らないから、あたしは必死に震えを噛殺した。
咽び泣きそうになるのを一生懸命堪えた。
「……ただいまぁ、」
静かにドアを開ける音が聞こえ、のっちが戻ってきた。
未だに涙の止まらないあたしは咄嗟にのっちから顔を背けるけど、どうやら既に気付いてしまったらしい。
背後から温かい空気が近付いてくる。何かと思ったらのっちの手が頭を優しく撫でてきた。
もう、のっちまで。何でそんなに優しいの。
涙を堪えるのが辛いよ。
「……やる人間違ってない?」
「あ、そっか」
震えそうになるのを抑えてやっとの思いで声を出したら、
のっちは間抜けな声で返事をして、空いてる方の手であ〜ちゃんの頭も撫で出した。
……ちょっと、それおかしくない?
傍から見たらちょっと不思議な光景。
でものっちとあ〜ちゃんから伝わる手の温度はとても心地良くて、さっきまで頭から離れなかった思考はいつの間にか薄れていた。
やっぱり、この2人じゃなきゃ駄目だ。あ〜ちゃんとのっちじゃなきゃ駄目だよ。改めて感じる確信は、もう一度あたしに自信をくれた。
のっちぃ、あ〜ちゃん、ありがとう。大好きじゃ。
2人の体温を感じながら目を閉じて、そっと心の中で呟いた。
END
最終更新:2009年01月28日 20:16