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ふぁー、よっく寝たわぁ。
んー、っと伸びを一つ。

さぁ今日も気合入れて頑張らんとね!

そう思って立ち上がろうとした。

立ち上がろうと、した。


した、んですけど?



…。


……。


なんか、おかしくない?

景色低くない?


不安に思って足元を見た。



…。

やだなぁ、もう。起きたつもりで、まだ寝てるんね。
そうそう、あたしってそういうとこあるもんね。




……。



うっそだぁ…。

まさか。


まさか。



あたし、起きてる?

っていうか。


ねぇ、これ現実!?


「いやぁぁぁぁあああ!!!」

って叫んだつもりが「ふぎゃぁぁぁああ!!」って聞こえるんですけど。



なんで?どうして?なに?これ?

犬?猫?獣?


落ち着いて、落ち着いて、あたし!

とにかく現状を確認しよう、そうしよう!

そっと自分の手のひらを見る。

あ、ピンクの肉球…



そっか、さっき「ふぎゃぁぁぁあああ」って聞こえたしね。
うん分かってるよ、大体。

猫なんでしょ?

あたし、猫なんでしょ?


え?

っていうか、なんで?

なんで、猫になっとるんよ!!!!


「うぅん、もう。どうしたん?あ〜ちゃん」


布団の中がモソモソと揺れてる。

あ、忘れてた。あまりのショックで。

頼りになるかわからんけど、頼ってみるか…。



あたしは布団のふくらみに向かってジャンプ!


おおお!

すげぇ!すごいよ!猫!

なんなん?超カラダ軽いんですけどー!


ちょっと感動。

あ、でも。そんな場合じゃないんよね。
とにかく、布団の中身にパンチ。


…。

「すぅすぅ…」


寝とる。


「にゃにゃ!」

ちょっと強めに叩く。
っていうか、今あたし「にゃにゃ」って言った?

うへぇ、言葉も喋れんし。



あぁ!もう!起きてよ!


八つ当たり気味に、枕の辺りから布団の中に進入して背中をバリバリ引っ掻いてやった!!



「ぎゃーーーーー!!」

「ふにゃーーー!!」


「ちょ、あ〜ちゃん痛い痛い痛い!ごめんなさい、起きる、起きます!」


ふん、わかれば宜しい。


うぅ、とか、ひゃー、とか言いながら、おにぎりが起きた。


「っていうか、あれ? あ〜ちゃんドコ? っていうか、猫?」


あたしは黙って見上げる。


「ね、猫さん。あの…。えーと。どっから入ったん?」


あたしは黙って見つめる。


「っていうか、あ〜ちゃんドコ行ったか知らん?」


じー。


「あの。…いや、まっさかねぇw」


じー。


「あ、そうじゃトイレ、シャワーかも知れん!」


のっちはおずおずとあたしから視線を外すと、立ち上がって家中ウロウロしだした。

ソファの上にはあたしの鞄があるし、玄関には昨日履いてたヒールが並んでる。
しかも、ベッドの周りには昨日のっちに脱がされてそのままの下着とパジャマ…

なぜか怒りが込み上げて来るわ。

今度からちゃんと言わんといけんね、物は大切にしなさい!って。
ちょっと違うけど、とにかく恥ずかしいわ!!



「あ〜ちゃ〜ん。ドコー?」

まだ、のっちはあちこち探してる。

…のっち。あんた、あ〜ちゃんが自分から進んで冷蔵庫に入ると思っとるん?
っていうか、入れると思うん?


ボサボサ頭のおにぎりめ。
後で説教じゃ。


なんとも言えない情けない表情ののっちがトボトボと戻ってきた。


のっちはあたしを見つめるとボソボソ喋りだした。
何ね?もっとしゃっきり喋らんね!

「えぇっと。………いやいやいや。いくらなんでもそれはないでしょ」


じー。


「う。うおっほん!……あ、あの…、猫さん?」


じぃぃぃーー。


「えーっと、まさかとは思うんですけろ…」


じぃぃぃいいいい。





「…あ、……あ〜…ちゃん?」


「にゃぁ!」



!?


あ、すごい顔。目落ちちゃいますよー。


「あ〜ちゃん?」

「にゃぁ」


「にしわきあやかさん?」

「にゃ」


「ちゃあぽんのお姉ちゃん?」

「ふぎゃ!」


しつこい!おにぎりのくせに!!


「わ、わ、わ!ご、ごめんなさい。てか、ほんとにあ〜ちゃんなん?」

「にゃー」


「えーーーー!!うそ!!なんで?ねぇなんで!?」

「にゃにゃにゃふみゅーにゃ」


「わ、わからん…。のっちの愛をもっても、さすがにニャンコ語はわからん…」


うーん。どうしたら良いんだろう。
あたしだって何でこんなことになってるのか解らないのに。

のっち落ち込んでる?

そうっと、のっちの膝に前足を置いてみる。


一瞬ビクっとしたのっち。だけどすぐに、そっとあたしの前足を撫でる。


おおう。気持ちい。

むぅ。気持ちいい。


あたしの変化に気が付いたのかのっちが、あたしをヒョイと抱き上げた。


「……。あ〜ちゃん。ほんまにあ〜ちゃんなんよね?」


「みゃあ」



こんな風に抱き上げられて、間近でのっちに見つめられると変な感じになる…

「あ、ヒゲがヒクヒク動いとる…。かわいぃ」


はぁ!なに言いよるんね、こんな時に。
全身で抗議を示そうとした、その瞬間。

「ふみゅうぅ」


うわ!変な声でた。のっちそこダメ。ダメだってば!

「肉球もぷにぷにしとる。気持ちいいん?」

「みゃぁ」



「かわいい!かわいいよ!すごくいい!」

「最高だ!最高にかわいい!これぞ、のっちの望んだ究極の愛の形かも知れん!!!」


のっち、あんた…

こんの変態クネクネおにぎりめ!!


あたしは思いっきり、仰け反ってのっちの顔に向けてパンチ!

アイドルだとか言ってられん。あ〜ちゃんの存在が危機なんじゃ!!


「ぎゃー!痛い痛い!ごめんなさい!!」


ふん。わかれば良いんよ、わかれば。
ところで、のっち何か思い当たる事ないん?

のっちはあ〜ちゃんが引っ掻いた左デコを撫でながら言う。


「でも、なんであ〜ちゃん猫になっちゃったんだろうねぇ」

思い当たる節がないから、あ〜ちゃんも困ってるんだし
なによりあ〜ちゃん、人間に戻れるの?

あー、一生このままだったらどうしよう…

なんか泣きそうなんですけど……


だってこのままじゃ、仕事も出来んし、学校にも行けん。
お父さんやお母さん、ちゃあぽんやたかしげにも会えん…。

ゆかちゃんは、きっとわかってくれると思うけど
ちょろやフー君が居るから、もうゆかちゃんの家には行けんだろうなぁ。


のっちだって、人間じゃないからってあ〜ちゃんを見捨てたりはしないと思うけど
でも二人で築き上げてきた恋人の関係では居られなくなっちゃうよね…


なんてしみじみと自分の境遇を嘆いていたら



「やっぱり、アレのせいなのかなぁ」



は?


アレって何なん?


全身毛羽立てて唸っている、あたしに気づいたのっち。


「フーーーー!!!」


「あ、いや、違うんよ。落ち着いて、あ〜ちゃん。のっちもう痛いのは嫌!」


「フーーーー!!!!」


「あ、あのね。怒らんで。のっち昨日寝る前に、裸でスヤスヤ寝てるあ〜ちゃん見て…。なんか。こう。けしからん気持ちになったんよ。猫みたいな猫耳と尻尾生やしたあ〜ちゃんを…想像したらなんか、ほらもう…ね?愛しいでしょ。そんなん。かわいすぎるじゃろ!!とか、考えてたら興奮しちゃって。一度でいいから、あ〜ちゃんを猫的なネコにして下さい、なんて神様にって痛い痛い痛いよ、あ〜ちゃん痛い!!!」




………。一時間後。


はぁ。暴れるだけ暴れたら落ち着いた。

部屋の隅っこで「痛いよぅ。痛いよう」ってシクシク泣いてるのっちを見たら
ちょっとやり過ぎたかなって思ったんだけど…。

しょうがないじゃろ。

神様とか本気で信じてるわけじゃないけど。
のっちがしょうもないこと考えたりお願いしなければ、こんな事にはならなかった気がする。


はぁ。でもしょうがないか。

トコトコ近づくあたしに気づいて「ひぃ」とか言ってるし。
情けないけど許してやるか。こんなんでも、その、好きな人だし。


「にゃ」

「うわ」

のっちの膝に乗って、ウインナーみたいだけど愛しい指をそっと舐める。


「…あ〜ちゃん」

「にゃぁ?」

のっちの左手が、あ〜ちゃんの顎の下を優しく撫でる。
猫ってほんとにコレされると気持ち良いんだなぁ。





「ごめんね?あ〜ちゃん…。のっち責任取るよ!あ〜ちゃんこの家で一緒に暮らそ?」

…。

「ずっとずっとずっと。のっちが傍におる!そりゃ、もう皆にはあ〜ちゃんとして会えんくなるけど」

…。

「おばあちゃんになっても、ずっと傍におるけぇ!」

…。

「のっちには、あ〜ちゃんしかおらん。どんな、あ〜ちゃんでも一緒にいたいよ」


…何を言うとるんよ、この子は。

そんなんあ〜ちゃんの時に言ってほしかったし。

大体、無理じゃろ。のっち、ずっとはおれんよ。



「大丈夫だよ。ずっと一緒にいよ?」


はぁ。もうズルイなぁ。そんな真剣な目で言われたら「ずっと」を信じちゃいそうだよ…


「ね?」

「みゅぅ…」



「ふふ。なんか安心したら眠くなってきちゃった。考えてばっかりでも仕方ないし、あ〜ちゃん一回お昼寝しようよ!」


まぁ、いっか。
なんか色々ありすぎて疲れちゃったし。

のっちの腕に抱えられてベッドに戻る。

「あ〜ちゃん、猫になっても温かいねぇ」

ニコニコしながらのっちが言う。
仕方ないから、のっちのお腹の上で丸くなって…


ーーーー3時間後ーーーー




「うぅぅぅ。く、くるしいぃ」

ん?どうしたん、のっち?

何やらのっちが呻いているから、ゴロンと体を横にのけた。

「のっち?」

へ?今、のっちって言った。
あ〜ちゃん、人語喋ったよね!

「のっち!」

「え?あれ?あ〜ちゃん?」

「も、戻ってる? のっち。あ〜ちゃん戻ってる?」

「うん!戻っとる!!あ〜ちゃんのおっぱいも」


ばき!


「イタ!」


「ばか!ばかばかばかばかばか!!!」

もう嬉しいやら頭にくるやら、なんやらかんやらでわからん。
良かったあ。本当に良かった。

そう思ったら涙が出てきた。


「あ〜ちゃん…」

のっちにギュっと抱きしめられる。

「良かったぁ…。元に戻れて本当に良かったね」

「…うん。…ひぃっく……よがった…」

「あんね、あ〜ちゃん。さっき寝る前にのっちが言ったこと本気だよ?」

「……。」

「のっちはずっとあ〜ちゃんと一緒にいたい。それは忘れないでね」


「ばか」

「うん」


「ふふ。もう、変なお願い事とかしないでよ?」

「えー!って、うん。しない……たぶん」

「たぶん?」

「しません」

「よろしい!」


「のっち、お腹すいた…」

「ご飯、カレーにする?」

「しない」

「えー」





こうして、二人のとある一日は過ぎていったのだった。
けれどこれに懲りずに、密やかにお願い事をしているおにぎりが居るとか居ないとか…
それが現実になるお話はまた別の機会に…



(終わった?)





最終更新:2009年01月28日 20:48