アットウィキロゴ
あたしはあ〜ちゃんが好きなんだと思う。


「ゆかちゃん、ちょっとぉー聞いとるん?」
「もっちろん。」
「うっそ、目が虚ろだった。」

あ〜ちゃんが居るのに…なんて頬を膨らませる姿の可愛らしさに少し放心。
ごめんごめんって頬をつつくとどちらからともなく笑い出した。

「でもほんとゆかちゃんが人の話を聞かずに考えごとなんて珍しいよ。なんかあったん?」
「え、そうかな?そんなことな…あるか、も。」
他の人ならともかくあ〜ちゃん相手には珍しいかもしれない。
でもあ〜ちゃんの話を聞いてないといっても考えてるのはあ〜ちゃんのことだし…ややこしっ。

視線をふよふよ泳がせていると視界の端に眠りこけるのっちの幸せそうな顔を発見…いじりたい。
「ねぇなんかあるなら教えてよ。相談乗るよ?」
いや、なんかと言ってもあ〜ちゃんのことだからなぁ…。


「あ〜ちゃんさぁ好きな人っておる?」
「今は特におらんけど。でも芸能人さんってやばいよね。
みんな超努力してて恋とか抜きにしてもすっごい尊敬する。うちなんてまだま…って、ごめん。」
「んーん。」
あ〜ちゃんはいつだって向上心が強くて勤勉だ。

「えへへ、ついつい…。でゆかちゃんは好きな人おるん?誰?どんな人?」
「ん、豪快な笑顔が素敵で、優しくていつでも明るくて」
「ゆかちゃんにしては珍しいタイプじゃね。見た目は?」
「くりっとした目にふわふわパーマの長い黒髪で」
「男の人でふわふわロングパーマ?えぇ?…あ。」


何かに気づいたようにあ〜ちゃんの動きが止まる。

「うん、“あ”。」
「あ、あの、あ…、あ〜ちゃん?」
にこりと笑うとあ〜ちゃんの頬が軽く色づく。
「え…と。」
「…だめかなぁ?」
軽く握られたあ〜ちゃんの手の上に指を重ねると空気がぐらりと揺れた気がした。
「…だ、めじゃないと思う…けど分からん。」
心底予想外って顔色。困惑するあ〜ちゃん。
あ、こんなあ〜ちゃんはダメだと思う。


「ふふ。ごめん。」
「?」
「そんな真剣に考えるとは思わんかったから。」
「…!ゆかちゃん!?」
「あ〜ちゃんかわいー。」
「知らん!」
「ごーめんって。」

よしよしって頭を撫でると拗ねた顔でこっちを睨んだ。そんな顔したってかわいいよ。
「にやにやしてる。」
「あ〜ちゃんがかわいいからさ。」
「またそんな…んもーしらん。」
ぷぃっと顔を背けて手近の雑誌を乱暴に掴んで視線を落とす。
「あーあ、ぐしゃぐしゃ。」
「ええの!」
「了解。」
つーんと意地を張ってみせてもやっぱりかわいい。

どんな顔してたってかわいいもんなぁ。まぁ天使だしね。
小悪魔は所詮虚勢の作り物。天使はなんたってたって本物だ。
これはきっと仕方のないこと。

それにしてもあたしがあ〜ちゃんにこんなに惚れこんでしまったのはいつ頃からだろう。
気がついたらそうだった、としかいいようがない。


だってあ〜ちゃんは最初からキラキラと眩しくて何よりも輝いていたから。



昔の自分といえば本当に小憎らしくて可愛げがなかったと思う。

あの日、お兄ちゃんが芸能人になりたいなんて言い出すもんだから
スクールの体験授業に付き合わされる羽目になって。


お兄ちゃんはスクールの人の説明に一所懸命話に耳を傾けていてお母さんはと言えば回りの親子の気迫に圧倒されていた。
小中学生が芸能スクールに行くとなれば費用はもちろん、幼い分日々の生活のあらゆる面で親のサポートが必要となる。
中には子どもより熱心な親だって少なくない。

それに引き換えあたしはというといつものように家族も含め自分以外の一切のものを隅のほうでじぃっと観察していた。
自分だけはその空間に染まらないように細心の注意を払って。
あ〜ちゃんもびっくりするくらい全身真っ黒だったのはお母さんへの反抗心もあるけれど
そうやって何にも染まらない黒色に自分を包んで俯瞰して観て自分とそれ以外の温度差を計ることで
少しの優越感を感じて、まるで自分が何か偉いように錯覚していたんだ。
狭い世界しか知らない小さな子供の癖に鼻持ちならない態度。


不意に肩を叩かれたのはそんな時。
ビクッとなって振り返るとそこには一人の女の子が。
「ねぇね、4年生なんよね?」
「あ、うん…。」
「うちも!他の子みーんな年上みたいじゃけよかった〜。よろしくぅっ!」
そういってニカッと笑って手を出した君にあたしの生意気な態度も乗らない気分も
一瞬だけだけど全てを持って行かれてしまった。
うん、一瞬だけだけどインパクトは十分だった。
いきなりの握手に軽いカルチャーショックを感じながらも
早口でまくし立てる姿から寸分も目を離さずに一言一句漏らさぬように集中していた。

子どもらしい溢れんばかりの生命力と根拠のない自信は無気力なあたしにとって新鮮だったのもあるけど
今思えばそれ以上にあの頃からあ〜ちゃんには人を惹き付ける何かがあったと思う。
もしかしたら出会ったその瞬間こそ…だったかも。


結局そのときは二人とも子どもだったし携帯なんて持ってなかったから特に連絡先を交換するとかもなくあっさりと別れた。
唯一交わしたこのスクールに入ろうね、なんて約束もあっけなく破られて別のところに入ることになった

…んだけどあ〜ちゃんも鞍替えしていて裏切り者同士の偶然の再会にはお互い苦笑したっけ。
そのこともあってあたしとあ〜ちゃんは他の子とは少し違う空気を共有するようになったと思う。
少なくともあたしはあ〜ちゃんを他の誰より強く意識するようになった。

あ〜ちゃんは明るいから日を重ねるごとにスクール内の知り合いが増えていって
あたしはそんなあ〜ちゃんに金魚のフンをしていたからその中の何人かと親しくなって交流の幅が広がった。
あ〜ちゃんは積極的でなんにでも手を挙げるタイプだから
ひっそりをもっとうに生きてきたそれまでとは比べ物にならないくらい
とにかくあ〜ちゃんといると何かと目立つことが多かった。

それだけじゃない。
二人は単なる仲良しじゃなくてスクールの同期で同じクラスの同級生、その上負けず嫌い同士なものだから
歌やダンスは当たり前としてぱふゅ〜むを組んでからはそれこそ毎日何かしら競っていたような気がする。
子どもだから不器用だったし今ほど分かりあえてはいなかったしね。
のっちは昔からふにゃふにゃしていたから二人の間で緩衝材になってくれていた。

そう、上のクラスにいたのっちと知り合ったのもあ〜ちゃんのお陰だ。
自分の存在を消すように黒に染まって生きていたあたしの毎日をカラフルに彩ってくれたのだって
その美しさに気づいたのだって全部きっかけはあ〜ちゃんなんだ。



なーんて、重すぎ。
のっちだったら全部全部素直にぶつけられるんだろうな、ちょっと照れ笑いしながらさ。
そういうの違和感ないから得なんだよ、のっちって。
あたしはそんなかわいいキャラじゃないって自覚がある。そんなのやってもはまらないし気持ち悪いに決まってる。
たぶんあ〜ちゃんだって困る。

あ、なんかこんなこと考えてたら無邪気な寝顔がムカついてきた。

自分勝手なんて思いながらのっちの頬をキュッと摘まんだ。


「うぅぐ…」
いくら鈍いとはいえのっちの顔が軽く歪む。
「ゆかちゃんそれちょっと可哀想じゃろ」
「笑いながら言っても説得力ゼロじゃ。」
「だってのっちの顔…おかしぃ…」
「確かに…」
「ていうかのっちのほっぺなんで摘まむん?」
「んーのっちはかわいいしあ〜ちゃんは眩しいなぁって。」
「えーなんよそれ。てかゆかちゃんがのっち誉めるなんて珍しい。」
「だって今は寝とる、らん」
視線を寝顔があった場所に向けるとそこにはにやにやした顔があった…やっちまった。
「ゆかちゃん!今なんて言った?ね?ね!」
「しーらんっ。」
「うそ。今さ誉めてたよね!のっち誉められとったよね!」
「はいはいはい。あ〜ちゃん笑わんでよっ。」
「だって、のっち超嬉しそうなんじゃもん。」
「あ〜ちゃんも聞いたよね!ね?」
「のっちうるしゃい!」
「ツンデレーション〜わかりにくいねー」
「うるさい!ゆかが好きなのはあ〜ちゃんだから!ね?」
「あ、うん。そーじゃね。」
「そうゆうことだから!」
「え!嘘だぁ!二人だけずるいよぉ!」
「本当だよーだ。」
本当だよ。あ〜ちゃん。
でも、気づかなくてもいいから、ね。




おわり。




最終更新:2009年01月28日 21:02