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梅雨に入ってから、もう二週間。屋上にはずっと行けてない。
そうじをしながら、あーちゃんはうらめしそうに空を見上げる。
「なぁんか雨って嫌いよ。こっちまで暗い気分になるけん」
「まぁまぁ、雨も必要なんよ。雨が降るけぇ、晴れの日が楽しいんよ」
のっちはそう言うと、黒板を消し始める。
「なんなんね、大人ぶってから」
あーちゃん、相当機嫌悪いみたい。
ちっちゃい子がだだをこねるみたいに、その場にへたり込む。
そういえば、のっちとあーちゃん、最近ずっとこんな調子。
私は黙ってそれを見てるしかなかった。
私がなんとかしなきゃ。

「もう少ししたらカラッと晴れるようになるけん、それまでは辛抱せんにゃあ。今日は帰りにアイスクリームでも買おうか」
「あっ、いいねそれ!」
のっちはにっこり。黒板を消しながらこっちを振り向く。
「私、いやじゃ。アイスはお腹冷える」
あーちゃんはへたり込んだまま、私に背を向けてそう言う。


嫉妬、してるんだ。
あのくもり空の日以来、私とのっちはどこか通じ合って、前より仲良くなったから、
のっちをとられたような気がして、それが気に食わんのじゃね、あーちゃん。
けど私はずっと、そんな思いをしてきたんよ。
仲良しののっちとあーちゃん。私はその傍らでいつもにこにこしていた。
けど、そうするのが辛い時期もあったんよ。
ワガママじゃろ、それは。

そんなことを思っていると、あーちゃんは急に立ち上がる。
「もう、帰るね」
鞄を持って、走り去る。
私とのっちは茫然として、顔を見合わせる。
言葉にしなくても、気持ちは伝わるんだ。私は自分を責めた。

気まずい空気が流れる。

「あーちゃんはね…」
のっちが黒板消しを持ったまま、口を開いた。
「あーちゃんは、ゆかちゃんのことが、好きなんよ」
私の頭の中が、真っ白になった。


「えっ……?」
「だからね」
のっちは黒板消しを置いた。
「私と二人のときは、あーちゃんはいつもゆかちゃんのことばっか話すんよ。あんなとこがかわいい、こんなとこがかわいいって」
私は忘れかけていた記憶をたどり始める。
「あーちゃんはね、告白したら、ゆかちゃんに嫌われるかもしれんけぇ、ずっと気持を抑えとったんよ。私はゆかちゃんの太陽になれたらいいけんって言って。太陽は弱いとこ見せちゃだめじゃけぇって、あーちゃん、いつも笑っとった」

あーちゃんがのっちと出会ってから、どことなくあーちゃんは私から距離をとるようになっていた。
私はてっきり、あーちゃんはのっちが好きなんだと思っていた。
それならそれで、私はあーちゃんを応援しようと思っていた。
だからのっちへの想いを必死に抑えていたのに…。

「それでね…」
途端にのっちの顔がくしゃくしゃになる。


「あたしはね……、あーちゃんのことが好きだったんよ…」
私はのっちを見つめる。
「でもね、あんなに毎日毎日、ゆかちゃんが好きなんだって話されたらさ、苦しくて。それで私はね…、私は月でいいやって思った。あーちゃんのそばにおれたら、もうそれでいいって……」
のっちは自分の髪をくしゃくしゃにする。
「そう割り切ったはずだったのにさ、何か今度は…、あたし……、ゆかちゃんのことが気になり始めて…。どうしちゃったんだろうって、何度も忘れようとしたのにね…、なのにね…、あたし……」

のっちが壊れそう。
私は口を開いた。
「もう、いいよ、のっち」
私は自分のロッカーから置き傘を取り出した。

あぁ、私たち3人はお互いに叶わぬ恋をしていたんだ。
それぞれが切ない思いをして、苦しんでいたんだ。
あーちゃんが太陽。のっちが月。それなら私は地球かな。
決して重なることができない3人。

のっちが声を洩らす。
「あたしは………、2人とも失いたくないよ…」


「のっち」
私はのっちの手を引いて、屋上へ向かう。
絶対そこにいるはず。
屋上につながる重たい扉を開く。

あーちゃんは雨に打たれて、屋上の真ん中でうずくまっていた。
私は急いで傘を開く。
のっちと私は、あーちゃんのそばに駆け寄る。
「あーちゃん…」
あーちゃんはこっちを向いた。目が赤い。
「太陽だって、いつも笑っとれるわけじゃないんよ。こうして、雨の日やくもりの日に、休憩しとるんよ。じゃけぇ、あーちゃんも無理せんで。うちらは3人で1つ。3人で支えあおうよ」
あーちゃんのつけてる香水がほのかに香る。なつかしい香り。

小さな傘に、3人が入りきれるわけがなくて、3人ともびしょぬれ。
それでも心はあたたかい。

帰り道に飲んだコーヒー牛乳は、なんだか少ししょっぱかった。







最終更新:2008年10月10日 14:15