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  • Side K-


何も手に着かないあたしは大学に来ているにも関わらずベンチに腰かけ授業をサボっていた。
ちょうど日影のその場所は物思いにふけるには絶好の場所で。

N『ゆかちゃん?』
ふいに投げ掛けられたあたしの名前。
声に導かれるまま振り向くとそこには見覚えのある姿があった。

あっ…。

予期せぬ突然の出来事に身構える暇すらなく固まったままのあたしにのっちが優しく微笑む。
N『昨日は…、どうも。』
ペコリと照れ臭そうにはにかむ貴女に心がざわつく。
K『あ…、うん。』
それしか言えず視線を外しただ時間の過ぎ行くその流れに身をまかすあたし。
何か言わなきゃ、なんて事は微塵も頭になかった。
何も言う気はなかった。

二人を支配する沈黙にあの日の記憶が重なる。
あの時も二人を沈黙が支配していた。
でも今は落ちる火玉もなく、動き出すきっかけはあたし達が作るしかなくて。
N『あ〜……、元気してた?』
きっかけを作ったのはきみ。
K『うん…。』
それを上手く繋げられないあたしは己の不甲斐なさに空を見上げる。

目を細め流れる雲を追いかけ思考を止める。
N『あの…さ?昨日大丈夫だった?』
K『何が…?』
思考を雲に預けたままのあたしは思いの外上手く振る舞えてる気がする。
N『いや、……なんかあったかなぁと思って…さ?』
K『あぁ、帰った事?』
のっちの優しさがあえてぼやかしていた輪郭をあたしは容赦なく浮き彫りにする。
どうせ避けて通れないならもういっそ早目に終わらすに限る。

K『ただ急用思い出しただけだよ。』
そう言ってのっちの瞳をみて微笑むと彼女は困ったような顔をした。


納得のいかないその瞳は揺らぐ事なくあたしを捕らえている。
K『何〜?ホントだってばぁ。』

作り笑顔のあたしの瞳はきっと笑ってないね。

のっちの瞳から一瞬足りとも視線をそらす事なく矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
K『まぁねぇ〜、あのタイミングだとなんかのっちから逃げてるみたいだもんね。……でもホントなんでもないよ?』

のっちは知ってるかな…?
女の人は嘘をつく時相手を見つめ視線を外す事がないのを。
もしそうならばれてしまう。

あたしの嘘が。

怖くなったあたしは視線を足元に落としまた思考を停止させる。
N『うん…。何もないならいいんだけど。』

あたしとのっちの間を薄い空気の壁が隔てる。
目に見えないそれが今は心地良くて少し安心する。

多分、あたし達は何の会話もないままでも一緒にいれる人種だと思う。
けれどそれはきっと今のあたし達には相応ではなくて、沈黙が似合う二人じゃなくて。


K『ねぇ…。』
本能が揺さぶるまま唇が音を奏でる。
K『今度、花火しようか?』
それは自分でも予想外の音色を奏でた。

N『うん、いいねぇ。』
貴女の奏でる音が優しく耳に響く。

出来ればずっと聞いていたい衝動を抑えるのが辛かった。
下を向いたままそんな自分に苦笑し立ち上がる。

K『…じゃあ、また…ね。』
背を向けるあたし。
N『待って。……だったら今日やろうっ。』
いつの間にかのっちの手があたしの腕を掴んでいた。


  • Side N-


私に背を向ける君はそのまま消えてしまいそうで思わず腕を掴んだ。
このまま見送るにはあまりにも頼りない背中が私を揺さぶる。


K『今日……?』
振り返った君の表情は何色にも染まってなくて感情を読み取れない。
それでも引く事は出来ないから。
N『うん。あっ、き、今日が都合悪かったら明日でも明後日でも……。』
クスクス笑う君に正気を取り戻した私は掴んでいた手を離した。

K『”いつか”じゃダメなんだ?』
少し困った顔が可愛くてこの腕の中に引き寄せて閉じ込めたくなる。

N『うん…。』
そんな衝動は私の視線に託され君に絡み付く。
K『……。』
私の視線から逃げるように体を反転させる君。
拒絶されたようで胸が少し苦しくて。

K『花火ってさぁ〜。』
N『うん?』
心に立ち込める不安の色を振り払うように言葉を軽く発音する。
K『もう売ってるの?……あるなら今日でもいいけど…。』


よしっ!!

ゆかちゃんの言葉に発狂寸前の自分を抑え彼女の横に並ぶ。


N『売ってるんじゃない…?』
いたって普通に冷静に上ずった声で振る舞う滑稽な私。

K『ほんとにぃ〜?』
横に並んだ私にからかうような眼差しをくれる君に体温が上がるのを感じた。
N『た、多分…。』
K『頼りないなぁ〜。』
からかうのを楽しがってるようにも見えて依然体温の上昇が止まらない。
きっと首まで真っ赤になってるよね…。


それから二人で花火を探しに大学を抜け出した。
完全なサボりでなんだかいけない事を共有出来て少し嬉しくもあった。
その甲斐あって、なんだかんだ簡単に花火は発見出来た。
もしこれが宝探しならつまらない事この上ない展開だけど、宝なら他に見つけてあるから少しも悔しくはない。


N『ごめん、部屋あんまり片付いてなくて…。』
K『……うん、だね。』
N『ハハハ…。』
冷や汗がドッと吹き出た。

部屋片付けときゃよかったよ……。

人知れず落ち込む私をよそにベランダへと君は迷いなく進む。


花火をやろうにもいい場所もないし、じゃあうちのベランダでって事になって。
それなら出来る花火も限られてくるよね、って話になり私達は迷わず線香花火を選んだ。

君が何を思ってこれを選んだのかは聞けないけど、私と同じ理由なら嬉しいな……。


N『ごめん、アロマキャンドルでいいよね?』
K『逆にお仏壇に使うようなロウソク出て来てもおかしくない?』

確かにね…。
クスクス笑う君に少しほっとし、キャンドルをベランダに起き火をつけた。
幸い風もなくほのかな香りさえ感じられるほどで。

ゆかちゃんが花火を手に取りそれに火を燈した。

あの時がフラッシュバックする。
嫌でも高鳴る鼓動に不自然さを隠せなくなる。
チラチラ、君を見ては目が合いそうになって慌てて反らす。

K『花火、火着いてないよ。』
N『えっ?!……あぁっ。うん。いや…っ。』
落ち着け私っ!

思えば思うほど普通には振る舞えないものだよね。

K『……意識しすぎ。』
N『えっ?!』
K『…………あの時の続きする?』
N『!!』

続きってなんだっ!?
そもそもそんな雰囲気微塵もなかったじゃん。
いやいやそこはどーでもいいよっ!

するのしないのっ、あなたはのっち!!

あ、議長ネタとかかましてる場合じゃなかった。
って冷静に突っ込んでる場合じゃないでしょ?!
ちょっと待て。
まずは落ち着け。
よし、深呼吸深呼吸…。
K『な〜んてね。する訳ないじゃん。』

えぇっ!?しないの……っ?!

右往左往する私とは対象的に、寂しげな顔が目に飛び込んで来た。

(続く)





最終更新:2009年02月12日 15:02