「のっち。早く起きないと…」
「ん…」
なかなか開かない目をこすっている私に、ゆかちゃんが声をかけた。
その甘ったるい声をもっと聞いていたくて、私はまだ寝たふりをすることにした。
わざと瞼を固めに閉じ、もぞもぞと布団に潜り込む。
「起きないと…」
ゆかちゃんが繰り返した。背後から、私と同じように布団に潜る気配がする。
一瞬寒い空気を感じたが、すぐに温かい体温がじんわりと背中に当たった。
…なになに?なんか可愛いこと言って起こしてくれるのかな?
って、ん?…私、なにも着てない。なんで?
あ。そうだ、昨日はあのまま…は、恥ずかし…。
ベッドに入ってきたゆかちゃんは、何も言わずに私を後ろから抱きしめた。
私は横向きに寝ているので、ゆかちゃんの右腕にだけ抱かれる。
「!」
抱かれた拍子に首筋に冷たい感触。ゆかちゃんの髪が濡れているようだ。シャワーでも浴びたのだろうか。
私はぴくりと動く体を堪え、寝たふりを続ける。
…がまん我慢。バレないように、もう少し我慢だ。
にしても…なんか、手首が、だるい。あと指も。昨日は結構…ね。可愛かったなぁ…。
おっとニヤけちゃだめだめ…お?おおぉぉ?
突然私の右腕が、ゆかちゃんの右手に掴み取られて自分の体に固定された。左腕は自分の体の下敷きになっていて、半端な“気をつけ”の格好になる。
「??」
そして私の両脚の間にゆかちゃんの右脚が割り込まれ、私は妙な姿勢で寝そべった。
…え、え?なんだろこの体勢??
あ。きっとあれだよあれ。『襲っちゃうぞ〜』っていうパターンだよ!
そうそう…だ、だから手が…股の、あ、間に…?
いやいや、まだ我慢だ。きっとこの後…ね。
変な状態で私は寝たふりを続ける。後ろから首と肩に優しいキスを落とされたが、気づかないふりをする。
私の、に迫ってくる手にも、必死に気づかないふりをする。
ふりをしていると、じわじわとしかし着実に、私の体を押さえつける腕の、脚の力が強くなっていった。
あっという間に、身動きが取れなくなる。信じられない力。
私の頭の中に、以前観たプロレス番組の映像がちらついた。
スリーッ、ツーッ、ワーン…
…ホ、ホールド…!?
いやでもまさかそんな…ね?あ、朝ですよ今…ね?
う、うん…手がなんか…すんごく近い、とこに…あるけど…ね?
ん?なんか歌が、聞こえる…?
私は思わず目を開いた。
「…くて」「?」「とがったぶぶ〜んを〜♪」「はぅぁ!?待て待て待て入れるないきなり入れないでっ」「ぶ〜つけて〜し」「言わないでその先怖いから言わないでってか指入れるなって!」「だってのっち起きないから、てっきり襲ってほしいのかと思って」「いやまぁ、そんな気持ちもなきにしもあらずだったけど…」「じゃそゆことで…」「ぁう!だだだからってマジでいきなり入れようとしないでっ」「だって時間ないよ?」「だってじゃなくて朝だよ朝!?遅刻するって!」「大丈夫、ゆかたちの記録をもってすれば…!」「そうだね最短5分28秒だもんねゆかちゃん計ってたもんね…ってそゆ問題じゃないからっ」「それにね、朝は感じやすいらしいよ?」「え、そうな…いやいやいや、だからそゆ問題じゃないってーもー!」「もう、何が問題なの?良いことづくしだよ!?」「どこらへんが!?いや…あのさ、なんか前も似たことされたけど今日は何なの?」「そんな…ゆかの口から言わせたいん?」「んぁ!その照れと指の動きが矛盾してんのはなんでよ!?」「…昨日の、のっちのソーセー…指がね」「ちょっと今なんか言い換えたよね!?」「指の動き、すごかったから…」「……?」「ゆかにも教えて?」「ゃあ!…ってかそんなんもう教える必要とかないってっ」「ほんと?いつも満足できてる?」「まんぞ…お願いだから朝っぱらからそゆこと話すのは…」「だってのっち、最中に聞いても答えてくれな」「そんなん言えるわけないし言う余裕もないよ!ってあたたたた…ちょ、本気いきなりは無理だから!」「あ、ごめん」「ん…ぁ…ゆ、指は全っ然…謝ってないんですけどっ」「これ?お詫びの準備運動〜」「ふぁ…変な、言い、方…」「じゃあ、ウォーミングアップ?」「よけ、エロ…ぃ…ん…」「のっちの声のがエロいくせに」「だ、誰の…せぃ…」
約1分40秒間で、私の連敗記録が更新された。
ゆかちゃんの指が私の、私の、朝から言うのもはばかられる部分をしつこく撫でさすっている。
私の両脚の間にはゆかちゃんの脚ががっちりと入っていて、股を閉じようとすると余計に開かれた。
その上、両手とも塞がっているせいで、私は直接的な刺激に上がってしまう声を抑えることができない。
そして指を動かしながら、ゆかちゃんは私にいちいち感想を聞いてくる。いつもの如く、答える余裕はない。
後ろからは首筋に舌を這わせられ、抵抗する気がどんどん削がれていった。
…や、もぅ…朝なの、に…
てかこれ…なん、つ…プロ…レスわ、ざなの…。
しか、も…う、るさいし…ぁ…ん。
ん?うるさい??
私は粉々に砕け散った理性をかき集めて、必死に耳を澄ませた。
「は…ぅん…?わおぁ!ゆかちゃん携帯!私の携帯鳴ってる!」「……」「続けないでよ!頭の上にあるから取って!」「だめ。今ゆか忙しい」「やぁ…い、忙しくしなくていいからっ。もう休んでいいよっ」「やだ。もっと働くの」「働くって…ちょ、中に…入って…んぅ…」「こやって、ね?」「ねって…ほ、本気で仕事の…連絡かもしんないから取って!」「んんーうっさいなぁもう…」(って抜かないで反対の手で取んの!?)「あ、あ〜ちゃんからだ」「!! 出る出る出るから貸してっ」「入っちゃってるのに?」「はいっち…ぬ、抜けば全部解決するんだってば!」「…えぃ」「あ!切った切りやがった!」「……」「し、しかも長押し!?電源切ったよね今!?」「えぃ」「あぁ投げっ…ん?」「ん?ゆかの携帯?」「私の切られたから…たぶんあ〜ちゃ」「もしもーし」「!!」「おはよ〜…うん…うんうん…」(出るんだ!?人のは切っといて出るんだ!?)「りょーかい…え、のっち?また二度寝でもしとるんじゃん?」(したいよ二度寝したかったよできるなら!誰のせいでこんなんなって、ると…ぅ、指…うごぃ…)「困った子じゃね〜」「ひゃ…ゃ…ちょ」「…今の?ふーくんの鳴き声じゃよ」(それ無理ムリ絶対無理ある…よぅ…ってか、ゆ…動か、さな…)「うん…え?今?ちょっと忙しくて…」(だから休ん、で…いぃ…ん)「ごめんね。じゃあまた後で〜……よし!」「よ、よしじゃない全っ然よしじゃないから!」「我ながら器用じゃね〜」「だから教えることとかないからさ…起きよう、ね?」「やだー。のっち、ゆかに教えて?」「もう、やーだ!やだは私の台詞だよ!」「……」「…だからほら、起きよ?」「…ぃじわる」「!! いじわ…」「……」「…それ、反則…」「♪」
約1時間半後。車内にて。
「もーなんで携帯切るん!?わけわからんわ」
「いやあれはのっちじゃないのっちっていうか…」
私は予想通りの人物に、予想通りの言葉で、がっつり叱られていた。
「寝ぼけのっちって言いたいんじゃろ。ほんまあり得んし…ん?珍し〜、ゆかちゃんが車でパン食べとるなんて」
「うん。ちょっと、朝ご飯食べ損ねちゃった」
隣で菓子パンを頬張るゆかちゃんを見つつ、私は心の中で盛大にため息をついた。
…こっちはお腹いっぱいだよ。2人分だったし…他にもいろいろ…
ていうか朝から…つ、疲れた…。
次こそ、次こそ勝つ…!
3度目のなんたらって言うし、ね。
ーーーーendーーーー
最終更新:2009年02月12日 16:22