グッと何かを堪えているかのようなのっちの表情に
私とゆかちゃんは言葉が出なかった。
時計の針の音だけが部屋を支配する。
「……っ…!」
何も答えないのっちに、ゆかちゃんは堪えきれず涙を流し始める。
「…のっち…答えて…。」
私は声が震えるのがバレないように、小さく再び問いかけた。
俯いていたのっちの大きな瞳が私をとらえる。
『もっ…分からん…。…分からんのっ…よ…。』
話し始めたのっちの目からは、大粒の涙がボロボロとこぼれだした。
『私が、ゆかちゃ…をっ…どんなに、好きっ…でも…』
言葉とともに…
『どうせ…またっ…。私は…信じて、やれん…からっ…!』
我慢していた涙を、気持ちを。
すべてすべてのっちは溢れさせた。
『もうっ…愛し方も、何も…分からんっけぇ…っ…。』
そう吐き出すと、のっちは手で顔を覆い、声をあげて泣いた。
隣にいるゆかちゃんをチラリと見る。
ハッとしたかのような表情で固まってしまったまま。
私は、失った声を取り戻すかのように声を振り絞った。
「…でもゆかちゃんは…あんたじゃなきゃ、ダメなんよっ…!」
のっちは肩を動かし泣くばかりで何も答えない。
その時、私の隣の影が動いた。
「……!」
ゆかちゃんがのっちを抱きしめた。
「っち…のっち…。」
体が勝手に動いていた。
腕の中で震える私の愛しい人。
ゆかは、一体何を勘違いしていたのだろう。
「のっち…ごめ、…ごめんねっ…。」
のっちはあの時、一生懸命に私に気持ちを伝えてくれた。
そして私たちは結ばれた。
どれだけ不安だっただろう。
どれだけ怖かっただろう。
そんなのっちに嘘をついて傷つけて。
苦しかったのは、ゆかじゃない。
のっちの方だったんだ…
ずっとずっと。
最初から、ずっと…。
「ごめっ…、のっちごめんねぇっ…!…」
私は回した腕にぎゅっと力をこめた。
のっちは私の背中に腕を回してはくれない。
そっと顔を覗き込む。
『………。』
その目は力なく、弱々しい。
「のっち…。ゆかのそばに…おってよ…。」
涙が枯れたのっちは、俯くままだった。
のっちに抱きついたゆかちゃんに、さっきのような荒さはなく。
あぁ…本当にのっちのことが愛しくて仕方がないんだなと思った。
愛し方は人それぞれで。
愛のカタチは人それぞれで。
のっちがゆかちゃんを傷つけること、どうしても許せなかった。
だけど…これが二人の愛の証なんだね。
この短時間で初めて見た二人の表情で、私はすべて気づかされたような気がした。
背中に腕を回したまま、のっちの顔を覗き込むゆかちゃん。
そして黙ったままののっち。
二人のこれからを、私には見届ける義務がある。
私は二人とともに、これから先もずっとずっと歩まなければならない使命があるのだから。
『のっち…。答えてあげて…?』
私の言葉でのっちは顔をあげ、目の前のゆかちゃんをじっと見た。
「…っ…!!」
のっちは一瞬口を開いたが、首をブルブルと横に振り、また涙を流した。
そんなのっちの涙を、ゆかちゃんは優しく拭った。
『ゆかは…のっちじゃなきゃ、ダメなんよ…?…』
小さな子どもが母親を見つめるかのような瞳で…
『何も考えんでいいけぇ…。』
のっちはゆかちゃんの言葉をじっと聞いていた。
『ゆかは…のっちがおらな、息もうまく出来んのんよ…?』
そう言うと、ゆかちゃんはのっちの頭を撫でた。
のっちが私に気持ちを伝えてくれた時…。
あの時…のっちは突然夜中に家に来たんだっけ…。
『好き、なんよ…。もうどうしようも、ないんよっ…!』
あの時の、のっちの言葉が蘇る。
『何もせんで、いいからっ…。ただ…ただ、のっちのそばに…いて下さいっ…!…』
はぁはぁ息切らして…。
大きな目にいっぱい涙溜めて…。
私はそれを思い出しながら、何も言ってくれないのっちの頭を撫でる。
そしてのっち両手をぎゅっと握った。
「のっち…」
大好きな、その大きな目をじっと見る。
…今度は、私の番…。
「何もせんでいいから…。ただ、ゆかのそばに…いて下さい…。」
のっちはぎゅっと唇を噛んだ。
(続く)
最終更新:2009年02月12日 17:00