(N)
静かに涙を流すゆかちゃんに、
言葉が詰まってしまった
なんで?なんで泣くの?
ソファーから腰をあげて、
立ち尽くすゆかちゃんに近寄った
「…なんで泣くん?」
「っ、ごめ、…なさっ」
「だからなんでよ…」
「ゆか、…のっちにっ、ひどいことした」
ぽつぽつ話し始めるゆかちゃん
聞き漏らさないよう、耳をすます
「のっち、…やだって言ったのに、
ダメって言ったのに…」
「ゆかはっ、無理矢理…」
腕をひっぱり、抱きしめた
「無理矢理なんかじゃないけえ!」
強く、叫ぶように発してしまう
「ダメでも嫌でもない!
そんな風に思わんでよ…」
ぎゅっと腕をきつくしめる
結局泣かせてしまったら、意味ないじゃないか
泣くのを見たくなくて、
ずっと笑っててほしくて、
あんな顔させたくなくて
のっちはゆかちゃんと向き合うと決めたのに
その結果がこれじゃ、最低だ
無力すぎる
「ゆかちゃん」
「…はい」
「また、しよう?」
「!……ふぇ、のっちぃ…」
のっちの腕の中で小さく震えるゆかちゃん
さっきとはまるで別人で、でも確かにゆかちゃんで
腕を緩めて隙間のなかった体を少し離し、
俯くゆかちゃんの頬に手をやりそっと撫でた
(K)
「のっちだって…体熱くなっとったよ…?」
「…うん」
「されて嫌だったこと1つもないけえ、」
「…でもダメって、」
「やっあれは、ただ…ちょっと、あの…」
「…恥ずかしかったんと…ドキドキしすぎただけじゃ」
たどたどしく話すのっち
頬を撫でる手は涙も拭き取ってくれる
「ホンマに…?」
「ホンマに」
こつん、とおでことおでこをくっつけて
のっちは深呼吸した
「だから、また…しようね」
目の前の大きな瞳は閉じられて、長い睫毛が揺れてる
ゆかはくっついてるおでこを離して、
今度はのっちの肩にくっつける
背中に両手を回して、
しがみつくみたいに抱きしめた
「なんでそんなに優しいん…?」
「…別に普通じゃろ」
ふふっと笑ってゆかの髪を撫でてくれる
「普通じゃないよ。普通は…」
こんなことまでしない
そう言いかけてやめた
ゆかはずるい
そう言って、のっちが気付いてしまったら
もう触れることはできなくなる
それを咄嗟に避けた
代わりにいっそう、腕の力を強めて
のっちを感じる
そうしていると、冷静になったはずの脈がまた
暴れ出しそうで
それを必死に押さえつけるために、唇を噛んだ
のっちの手がゆかの髪をとく
サラサラ流れる感触が心地よくて
ずっとこうしていたくなったけど
もう帰らなきゃいけないんだった
(N)
のっちにぎゅっとしがみついてるゆかちゃん
さっき感じた熱が蘇ってくる
ゆかちゃんもう帰っちゃうんだ
…やだな
サラサラの髪に指を差し込んでとくと
ゆっくり、ゆかちゃんの体が離れた
「帰らなきゃ…」
「あっ…うん、そう…だね」
体を離しても、
ゆかちゃんはのっちの服の裾を掴んだままで
のっちも、ゆかちゃんの髪を撫でたままで
「…のっちぃ」
「ん?」
「今日は…ありがと」
俯いたままそう言うゆかちゃん
お礼を言われたのがやけに照れ臭くて、
それを隠すかのように
すぐ目の前のゆかちゃんの髪に、そっとキスをした
するとバッと顔をあげたゆかちゃんは
驚いた表情を見せた
潤んだ目でじっと見つめられて
また照れ臭くて
今度はおでこにそっとキスをした
「ゆかちゃんが好きでいてくれて、嬉しいよ。
だからのっちも…ありがとう」
ゆっくり俯いてくゆかちゃん
あれ、なんか変なこと言ったかな?
なんてそわそわしてると
こつんっと、のっちの胸に頭を寄せてきた
「そんなん言われたら…離れられん…」
「えっ何?」
最後の方が聞きとれなくて聞き返すけど
ばっと、離れてしまう
「なんもないっ。じゃあ…帰るけえ」
ゆかちゃんが帰っても、
部屋にはまだゆかちゃんの香りが漂っていて
その中にいるからか、
さっき起きたことが頭から離れてくれない
落ち着いたかに思えた鼓動は、
脳内で延々とリピートされるあの行為に乗せられるみたく、
また大きな音をたてて騒ぎ出す
ゆかちゃんの体の重み
ゆかちゃんの体の熱
ゆかちゃんの舌の柔らかさ
ゆかちゃんの……
「はぁ…」
深いため息と一緒に吐き出してしまおうとするけど、
うまくいかない
洗面所に行って蛇口をひねる
勢いよく流れ出す水を手に受けて、
バシャバシャと、まだ熱い顔を冷やした
両腕を洗面台に置いて
しばらく水の流れを見てた
ふと目線を上げる
鏡の中の自分と目が合った
「…ほんまじゃ」
首筋と胸元にできた、赤いしるし
手を伸ばしながら、そう呟いた
なんだかくすぐったい、痕
自然と顔がゆるむ
こんな痕をつけてしまうなんて、
いつも冷静なゆかちゃんからは想像がつかなかった
いや冷静だと、思ってたんじゃけど、
違うみたいだ…
「…あああ〜〜〜」
いくら水で冷えても、また熱くなる
頭から離れないゆかちゃんの表情、言葉、息遣い
頭をガシガシとかきながら、洗面台に腰かけた
今日1日だけで、一生分、
心臓を収縮させてしまったみたいだった
あんなにドキドキしたんは生まれて初めてで
こんなに誰かが頭から離れんのも、
生まれて初めてで…
だんだんと乱れてくゆかちゃんを思い出しては
「ああ…もう!」
のっちはいつから
こんなやらしくなったんじゃろか
…今日からか
「…可愛いかったな、」
ぼんやり呟いたのは正直な気持ち
のっちはゆかちゃんを
どう思ってるのだろう
結局今は自分でもよくわからないままで
でもあんなことしても嫌じゃなかったし
むしろよかった
…よかったって表現はどうかと思うけど
愛しいと感じたのは嘘じゃない
色々と考えを巡らせながら1日がすぎていった
最終更新:2009年02月12日 17:02