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あたしは高校三年生になった。
あと一年で高校生活が終わってしまう。
先生と同じ場所にいられるのもあと一年。

なのになんでまた、うちのクラスの副担じゃないの!?
ほんと泣きそう・・・。
唯一の救いは数学教科担任が先生だったこと。
あたしは先生と少しでも一緒にいたくて荒技を決行した。

それはわざと数学の赤点をとって補習を受けること!
これを考えついたときはあたしって天才って思ったもん。
でもこんなことしたら大学の試験に不利だし、万が一留年ってこともあるかも・・・。
あっ留年ならもう一年、先生と一緒にいれる〜。
な〜んて、考えが甘かった。
あたしの荒技はすぐ先生にばれた。

「西脇さん・・・」
放課後、教室に呼び出された。
先生、いつものハノ字眉じゃなく真顔だった。
しかもめずらしくジャージじゃなく、オシャレなよそ行きの格好を着てる。

「西脇さん、Aクラスなのに赤点なん?」
「しかも問題解いた形跡ないし、適当感バリバリじゃ」
「なんで?今までこんなことなかったよね?」
      • やばい、先生、怒っとる?どうしよ・・・。

「先生への嫌がらせ?」
「えっ?」
「西脇さんはそういうことする子じゃないと思ってたんだけどな・・・」
「・・・えっ・・・」
「たまにね?・・・いるんよ。わざとテスト用紙を白紙で出す子・・・なんでか知らんけどぉ」
      • それってあたしと一緒で、先生の気を引こうとしてやった行為なんじゃないの?

「それが他の先生に知られたら、先生こっぴどく絞られるんよね。『君がちゃんと指導しないからいけないんだ!!』ってね・・・」
「違います!違います!」
あたしは全力で首を左右に振り全否定した。
「ほんとにぃ?」
「はい!!」
今度は上下に首を揺らす。
「・・・っだよね〜!!西脇さんは嫌がらせするような子じゃないもんね。疑ってごめんねぇ」
先生はいつものハノ字眉になってホッとしたように言った。
「でも嫌がらせじゃないとすると、なんでこんな点数だったん?」
ハノ字眉で尋ねてきた。
「えっ・・・と」


『白紙で出した子と一緒で下心があって、先生と長く一緒にいたいが為にわざと赤点とりました!』
なんて言ったら嫌われるに決まってるから、一番無難なこの答えを
「あの、ちょうどそのテストの時に風邪ひいちゃてて、それで・・・いつもの、調子が出なかったんです」
「そっか・・・んー、風邪引いちゃってたのか〜。それならしょうがないか」
先生はまったく疑いもせず、あたしの言葉を信じきってしまった。

「今度のテストはちゃんと体調管理もしとくんよ?」
って言ってあたしの頭を二、三度軽く触って教室から出ていこうとした時、
「先生!!なんで今日はジャージじゃないんですか?」
ずっと呼び出されてから気になってたコトを思い切って質問した。

「・・・あぁ〜、あはは。ナ・イ・ショ・・・」
唇に人さし指を当てて『シーッ』ってジェスチャー。
理由を教えてくれると思ったのに。
「えぇ〜、教えてくださいよ〜」
意外な答えを聞いて動揺をしてしまったのを隠すように、できるだけおどけて聞いてみる。
先生はちょっと困った顔で、髪が伸びておにぎりみたいな頭をかきながら言った。
「んー・・・西脇さんには、関係ないことじゃけぇ。大人の事情ってやつじゃ。・・・んじゃ、気をつけて帰るんだよ」
そしてあたしに背を向けて歩き出した。

『西脇さんには関係ないことじゃけぇ』

この言葉が耳から離れない。
頭をハンマーで殴られたみたいに、ガンガン痛い。
すごく突き放された気分。

今まで優しくしてくれたのはなんだったの?
そりゃ、先生は分け隔てなくみんなに優しいよ。
だって優しくされたら期待しちゃうじゃない。
ボールからかばってくれたり、心配してくれたり、触られたりすると、欲が出ちゃうじゃない。
相手にされてないってことはわかってるよ。
先生は友達じゃないってことくらいわかってるよ。
でもね先生、先生のせいでこんなに辛くて苦しいほど切ないんだよ。
助けてよ、ねぇ先生。


「おお、のっちが女装しちょるww」
「ほんとだ。そっちの道に目覚めたん?」
授業中なのに相変わらず、クラスの子達にイジられてる先生。
「・・・あんね〜。なんで女装になるんですか?先生は元々、女の人でしょ!?」
ハノ字眉になって猛抗議の先生。

「だってのっち今までずっとジャージだったけぇ!」
「そうそう最近になってオシャレし出したよね。今更高校デビュー!?」
「あはは。遅っww」
みんな調子に乗って先生のコトをどんどん茶化す。
「はいはい、遅いデビューですみませんねぇ。ほらほら静かにしてぇ、授業に戻りますよ〜」
授業の軌道修正をしようとする先生。

「あっ!!!わかったー!!のっち男出来たんじゃろ!!」
その言葉に反応して先生の顔は見る見るうちに真っ赤になって、おにぎりから赤飯に変わった。
「うっうっさい!!じゅ、授業に戻ります!!」
わっっっかりやすい、反応。

あぁ、やっぱりね・・・。
薄々気づいてたよ。
呼び出しがあった後からジャージ姿の回数がガクンと減ったもんね。
そりゃ明らかにジャージ→スカートになったら、男が出来たってことくらいわかるよ。
でもね先生、そういうのは隠してほしかったな。
わかってるけど、知りたくなかったよ。
でもしょうがないか・・・先生は器用じゃないからすぐ顔に出ちゃうんだもんね。

真っ赤な顔の先生を見てるのは辛いよ。
この苦しい気持ちはどうしたらいいの。

あ〜ちゃん、わからないよ。
だって教科書にも書いてないし、学校では教えてくれないじゃない。
ねぇ先生、おしえてよ。


「・・・脇さん」
「西脇さん」

いきなり名前を呼ばれて思わず椅子から飛び立ってしまった。
「おぉ。そんな急に立ち上がったらビックリするけぇ」
本当にビックリしてる先生。
あたしは何が何だかわからずキョトン。

「今日は20日だから、出席番号20番の西脇さんが黒板の問いやって」
ああ、問題解くの指されて、呼ばれたのか・・・。
って、やばい・・・先生のこと悶々と考えてて、頭が回らないよ・・・。
チョークを持った手が固まって黒板の問題とにらめっこしてたら、先生が話しかけてきた。
「わからん?」
「・・・はい」
「数学得意な西脇さんなのに〜。めずらしいこともあるんじゃね〜」
って、先生の左手があたしの頭に触れようとした瞬間、あたしは先生の左手を払いのけた。

すごく驚いた顔の先生。
そんな先生の顔が直視できる勇気は今のあたしにはなかった。
「・・・すいません。触られるの・・・嫌なんです」
先生にしか聞こえないほどの小さな声で、そう言ってあたしはクラス全員に顔を見たれないように、俯いて自分の席に戻った。

教室に変な硬い沈黙が流れる。
早くこの空間から逃げ出したいと思った時、「・・・のっち〜。セクハラはいかんよ〜」
ゆかちゃんだ。
「そうだ。そうだ、あんまり触ると訴えられるけー」
他の子たちも便乗して先生をイジりはじめた。

教室の雰囲気が柔らかく変わった。
ありがとう、ゆかちゃん・・・。

「・・・うへぇぇ。こういうのもセクハラになるん?先生、知らんかったわ。ご、ごめんね、西脇さん」
先生はオロオロして、謝った。
あたしはまだ俯いたままだった。


帰りのホームルームが終わり、教室を出たら廊下に先生が立ってた。

「あっ、西脇さん。ちょっといい?」
先生にあんなことして合わす顔がないのに、なんで話しかけてくるん?
「・・・はい」
俯き加減で返事した。
「う〜ん、ここじゃあれだから、中庭でもいこうか?」

先生に言われるがままに中庭へ行きそこのベンチに座った。
「・・・えっと。今日はごめんね」
「・・・」
「いや〜、西脇さんが触れられるの苦手って先生知らんかったから、嫌な思いさせちゃったよね。てか、今まで結構触ってたよね・・・ごめん」
「・・・」
「もう触らんけぇ。だから先生の許してほいんよ」
先生は両手を合わせて、あたしに向けてペコっと頭を下げた。

あーあ・・・先生にごめんと言わせてる自分に嫌気がさして、涙目になってくる。
「なんでぇ、先生はなんも悪くないのにそんな謝るん?」
「へ?だって先生、西脇さんのことベタベタ触っちゃったけぇ。嫌だったんじゃろ?」
また先生がオロオロしだした。

「嫌じゃないんよぉ。嫌なんは自分自身じゃ」
「え?え??」
先生があたしの言ってる意味がわかんないのは無理もない。
先生のあの大きな瞳がパチクリしてる。
「もう自分が嫌んなる・・・」
あぁ、我慢してた涙がこぼれちゃったよ。
最悪だ、先生の前で泣くなんて。
これじゃただの、目の前のお菓子を買ってもらえずぐずってる駄々っ子と一緒じゃけ。

「西脇さん!?」
先生の右手があたしの頬に触れようとした。
でもその右手はあたしが言ったあの言葉をせいで、触ってこなかった。
頬に触れず、することなくなった右手があるものを持ってきた。
それは先生のハンカチ。
先生はバツが悪い感じで「・・・これ、使って。」
あたしは無言でそのハンカチを受け取った。

あぁ、もう先生の前で泣いてもウインナーみたいな指でふいてくれないんだね。
しょうがない、そう仕向けたは自分なんだから。
もう先生を困らすのはやめよう。

決めた、もうやめよう。






最終更新:2009年02月12日 17:09