先生の前で泣いた後の3ヶ月間、先生に対する気持ちを整理しようと思いわざと先生を避けた。
でも意識してるのはこっちだけだから、先生は別に普通の態度。
その間に先生の左手の薬指に、指輪がたまに現れるようになった。
さすがに先生も授業中に付けてるとからかわれると学習したらしく、それ以外の時間に付けている。
そのうちに先生の結婚と退職の噂が学校中で飛び交うようになった。
詳しいことはわからないけど、どうやら結婚相手が海外に転勤で先生もそれに付いて行く形みたい。
—カッカッ、カッカッ。
—カッカッ、ボキッ。
—カッカッ、カッカッ。
いつまでたっても先生の授業はみんな自由すぎてうるさい。
「あの〜・・・ちょっと、みんなぁ〜し、静かにしてほしんれすけど・・・」
「のっち〜!!また噛んでるよ!!しっかりww」
「あぁ〜、からかわないで下さい・・・。てか、何度も言いますけど、一応あたし先生なんで『のっち』じゃなく先生って呼んでくらさい・・・」
「だってのっち、先生って感じがしないけぇ。いいじゃんこのままでwww」
「そうだ!のっち、あんた結婚すんでしょ?」
あるクラスメイトが先生に質問。
「・・・あの、先生のこと『あんた』呼ばわりですかwあたし以外の先生に言ったら説教レベルですよ?」
「んなことわかってるよ。のっちだから言えるんじゃんw。そんなコトよりどうなのよ?結婚すんの?しないの?」
まるで芸能リポーターのような聞き方だ。
「・・・し、し、しますよ。悪いですか?」
やっぱり、するんだ・・・結婚。
「じゃあ、学校辞めちゃうのも本当なの!?」
おそらく先生のファンクラブと思う子が切羽詰った感じで叫んだ。
「・・・みんな、インターネット並みに情報早いですね。実はまだ・・・正式に決まってないんれすけど、一応みんなと一緒に3月で・・・この学校を去る予定れす。」
先生は淡々と噛みながら教室全体を見渡してしゃべった。
噂は本当だった。改めて先生の口から直接聞くと、あ〜現実なんだと思いたくないのに思わされた。
みんな、本当はずっと先生にこの学校にいて欲しかったって雰囲気。
卒業しても学校に遊びに行けば、先生会えるって楽しみをみんな待っていたんだよ。
先生、知らないでしょ?みんなにこんなに想われてること?
「・・・しっかし、よかったね〜。のっちを貰ってくれる物好きな人なんていたんだねww」
誰かがこの寂しく切ない雰囲気を察してか、明るく先生に言葉を投げかけた。
「・・・あのね〜。君たちはどんだけあたしのことバカにしてんれすかw!?」
「結婚式は呼んでね〜」
「は?何でですか?生徒は呼びませんよ。てか、式は挙げません」
「え〜なんで?金がないとか?www」
「うっさい!!授業に戻ります!」
先生の結婚、退職話に時間を取られて授業がまったく進まず、気づいたらチャイムが鳴った。
と同時にみんな慌しく帰りの仕度の準備。
「先生!!」
教室から出ようとする先生を呼び止める。
キョトンとハノ字眉の先生。
でも次の瞬間にはとっても優しい顔で、
「西脇さんだけだよ。『先生』って呼んでくれるの〜」
先生に自分から声を掛けるは3ヶ月ぶり。
「ん〜。なんか西脇さんとじゃべるの久しぶりじゃね?なに?」
幸せそうな顔で久しぶりとか言わないでよ・・・。
決心が揺らいじゃうじゃない・・・。
でも、もうこれは前から決めたことなの。
この言葉を言って先生への気持ちにケリをつける為に声をかけたの・・・。
「・・・先生。結婚おめでとう」
先生のあの大きな瞳をまっすぐに見て笑顔で言った。
「おぉう・・・。ありがとう。急になに??ちょっとビックリだよw」
先生は照れながら顎を擦って答えた。
「急、じゃないよ・・・。前からちゃんと、言おうと、思ってたんです」
やばい、ちょっと泣きそうにそう・・・。でも我慢しなきゃ。
「そっか、ありがとね」
「先生・・・海外行ってちゃんと生活できるんですか?英語しゃべれるの?」
涙目を堪えて一生懸命笑って会話を続ける。
「なにぃぃ、西脇さんも先生のことバカにするんですかぁw。でも、海外=英語ってのは甘いですよ、西脇さん。先生が行くのは上海です!!」
そんなえばって言わなくても・・・。
上海か〜上海ってどこ?異国ってことはわかるけど、場所がわからん。
「・・・そうなんだ。気を付けて下さいね。先生、抜けてるとこあるから・・・」
「あはは、ありがとう。なんかあたし先生のくせに、みんなに心配かせてばっかじゃね〜」
ハノ字眉の先生を顔を見るのが辛くなってきた。
早くこの場から立ち去らないとまた泣き顔を見せてしまう。
「あっ、じゃ。さようなら」
そう言って自分の席に戻ろうとして先生に背を向けた。
「西脇さん!」
先生があたしを呼び止めた。
「えっと、ありがとね。・・・大学受験がんばってね。西脇さんなら必ず受かるよ」
必ず受かるって何でわかるんよ。数学教師から占い師にでも転職したん?
バカ、『ありがとう』ばっか言うな、もう優しくすんな。
あたしはおじきをして自分の席に座って、誰にもわからないようにマフラーに顔を埋めて声を殺して泣いた。
これでもうほんとに終わったんだ。
ばいばい、先生。
最終更新:2009年02月12日 17:21