目線を下に向け黙ったままののっちは、抜け殻のようだった。
今までのっちを支配していた感情が、すべて抜けたのだと思った。
もう、二人に私の助けは必要ない。
私は黙って二人の様子を見ていた。
「のっちがいることが…ゆかの幸せ…だよ…。」
ゆかちゃんのその言葉に、のっちはかすかに頷いた。
『………。』
見つめ合う二人。
空気を察した私は、そっと病室を後にした。
屋上に行き、空を見上げ大げさに息を吸い込んだ。
ふと電話が鳴った。
もっさんからだ。
『ゆかちゃん、ちゃんと明日から戻れるけぇ。大丈夫だよ。』
時間はお昼を回ったところだった。
安心して、ようやくお腹がすいてきた私は、仕事の前に一旦家に戻った。
時間はかかるかもしれないけど…あの二人なら、きっと大丈夫…。
笑い合っていたあの頃の私たちに戻るには、時間はかかるだろう。
いや…本当は、もう戻れないのかもしれない。
でも、私にはそんなことはどうでも良かった。
ただ、のっちが私から離れていくことが、怖かった。
あれだけ私を支配していた。
もう私はのっちなしでは生きていけないのだと、本気でそう思った。
「のっちがいることが…ゆかの幸せ…だよ…。」
私の言葉に、のっちがかすかに頷いた。
その時、私の中に何か妙な感覚が走ったような、そんな気がした。
『………。』
私の背で、ドアの開く音がした。
あ〜ちゃんが出て行ったのだと思った。
それを合図に、私はゆっくりとのっちに唇を合わせた。
初めてキスした時のような、甘い感覚。
「のっち…。」
もう一度、今度は深く口付ける。
触れたのっちの舌先が、ほんの少し動いたような気がして、
私は舌の動きを速めた。
『んっ…。』
のっちの舌が私の舌に絡まるのが、今度ははっきりと分かった。
ードクッ
その瞬間、私の体の中を何か不思議な感覚が、確実に支配していった。
「ふふっ…。」
私はのっちをぎゅっと抱きしめた。
「ゆかの…、のっちはゆかのだよ…。」
信じてみようと思った。
好き、とか、嫌い、とか
そんなことは今さらもう考えられない。
私とゆかちゃんは、もう二人でひとつなんだと、わけが分からないけれど、妙に納得している自分がいた。
「のっち…。」
ゆかちゃんの舌が私の舌先に触れる。
さっきの荒々しいものとは違う。
私がピクッと反応すると、一気に舌全体を絡めとられた。
『んっ…。』
漏れ出す吐息とは反対に、キスが深くなるにつれて
私の心は何だか穏やかになっていくようだった。
前のように微笑み合うには、時間がかかるかもしれない。
だけど、私がいることでゆかちゃんが幸せなのなら…
きっとそれが私の幸せでもあるんだ…。
信じてみよう。もう一度。
「ふふっ…。」
突然口の中に、ゆかちゃんの吐息が広がった。
「ゆかの…。のっちは、ゆかのだよ…。」
ゆかちゃんは遠い目をして、微笑みながら、私の頭を撫でた。
ーコンコン
『ゆか、入るわよー。』
おばさんの声がして、私は慌てて立ち上がる。
「のっち朝からありがとね。」
ゆかちゃんは、さっきとは別人のような笑顔を作る。
おばさんに挨拶をし、私は病室を後にした。
あれから一週間が経った。
ゆかちゃんは予定通りに仕事に復帰し、また三人での活動を再開させた。
病院で、あの後二人がどういう結論を選んだのか
はっきりとは聞いていない。
だけど、漂う空気、態度、それが全てをものがたっていた。
「のっちぃ…っ…!」
『んん…ごめんってば…。』
聞こえてきた二人のやりとりに、読んでいた雑誌から視線をあげる。
ゆかちゃんはのっちの腕に絡みつき、ぷくっと膨れている。
どうせまたのっちがくだらんことしたんだ。
そう、二人はうまくいっている。
「かしゆかちゃん!」
ほら、今だって。
ゆかちゃんがスタッフさんに話しかけられても、のっちは穏やかな表情をしている。
幸せかー…いいな。
私も良い恋、しないとなぁ…。
私はクスッとひとりで笑い、再び雑誌に目を落とした。
バラエティーの収録の合間。
控え室に戻ってすぐ、私はのっちの腕をぎゅっと掴んだ。
「のっちぃ…っ…!」
台本があるとはいえ、他の人に告白をする、なんてどうしても許せなかった。
『んん…ごめんってば…。』
眉をハの字にして謝るのっち。
…物足りんのんよ。
「かしゆかちゃん!」
ほら、今だって。
私が他の人と話をしても、穏やかな表情をするだけ。
もっと見てよ…
ねぇ、もっと私を支配してよ…。
あれから一週間が経った。
私たちは、少しずつ普通の空気で過ごせるようになっていった。
「のっちぃ…っ…!」
ただひとつ、ゆかちゃんの嫉妬深さが目立ってきた気がしたが、
今まではその嫉妬さえも、私が封じていたのだ、と思った。
「かしゆかちゃん!」
私がそばにいることで、ゆかちゃんが幸せなのなら
私はずっとそばにいるよ。
とても穏やかな気持ちだった。
その日の晩、家に泊まりにきたゆかちゃんは、部屋に入るなり私をベッドに押し倒した。
『ちょっ……!』
「何?嫌なん?」
ゆかちゃんの手が、舌が、私の体中を休むことなく責め立てる。
『あぁっ…!』
「もう濡れてるじゃん。」
入り口を指でなぞりながら顔をのぞき込まれる。
「ゆかで、いっぱいになりたい?」
『はっ、恥ずかしい、よっ…!』
「…なりたくないの?!」
ゆかちゃんの目つきが少し変わった気がした。
「言って…。なりたい、って言ってよ。」
『んぁっ…。ゆか、ちゃんで…いっぱいにっ…なりたい…っ!…』
ゆかちゃんはクスッと満足そうに笑い、そのまま続けて私を三度絶頂へと連れていった。
『はぁ…はぁ…。』
呼吸の乱れが落ち着いてきたころ。
トイレに行こうと思い、ベッドから出ようとしたその腕をグッと掴まれた。
『……?』
「…どこ行くん?」
振り返ると、瞳を揺るがすゆかちゃんがいた。
『トイレだよ?』
私はゆかちゃんの頭を撫で、ベッドを出た。
重い体を起こし、再びベッドに戻ろうとトイレのドアを開ける。
『…!!!』
誰かが私の胸に飛び込んできた。
ううん、誰か ではない。
ゆかちゃんだ。
「…遅いよ。」
『えっ…。』
そのままトイレで再び、私は絶頂に昇らされた。
ベッドにもどり、穏やかな表情で眠っているのっちを見つめていた。
私は、獣のように何度も何度ものっちを求めた。
何度手にしても、口にしても、足りない。
もっと欲しい。もっともっと、のっちが欲しい。
そして、もっともっとのっちの中を私でいっぱいにしたい。
埋め尽くしたい。
そんな感情が、どんどん膨らんでいた。
「………。」
眠っているのっちの両手首を持ち上げ、タオルで縛る。
『んっ…。』
眠りながらも微かに反応を見せる。
「ふふっ…。」
のっちの夢の中さえも、私でいっぱいになればいい。
「…ゆかの。ゆかの、のっち…。」
私はそっとのっちのおでこに唇を落とした。
『んん…。』
のっちを傷つけて振り回して…
だけど全部全部手に入れつつある今…。
結局すべては、ゆかの思惑通り…。
本当に黒かったのは…
のっちではなく…
最初から、
ゆかの方、だったのかもしれない…。
「…ゆか、の。ふふっ…。」
最終更新:2009年02月12日 17:31