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今日は卒業式。
先生の予言通り大学も無事合格して春から花の女子大生。
今は式も終わり、クラスのみんなは泣き通し。
もちろんあたしもグジュグジュに泣きっぱなし。
ゆかちゃんも鼻をすすりながら、他の子の卒業アルバムに寄せ書きを書いてる。

「あ〜ちゃん。あ〜ちゃん。」
ゆかちゃんに呼ばれた。
「のっちに卒アルに寄せ書き書いてもらお?」
って言いながらあたしの返事は聞かず、卒業アルバムとあたしの手を取って先生を探しに出た。

意外にも先生はすぐに見つかった。
山の様に積まれてる卒業アルバムに埋もれて職員室にいた。
あたしたちに気づいて先生が声を掛けてくれた。
「おぉ〜、樫野さん、西脇さん。卒業おめでと〜」
あのケロケロ声で能天気にあっさり言われてしまった。

「・・・のっち、すごい卒アルの山じゃね。これ全部書くん?」
ゆかちゃんがその卒業アルバムの山を触りながら先生に尋ねた。
「あ〜、そうなのよね。一人に書き出したら止まんなくなっちゃって・・・。しかもみんなそこに置いてどっか行っちゃったの。まったく最後の最後までこういう扱いかよって思っちゃったよ」
ゆかちゃんが先生が寄せ書きをした後の卒業アルバムを覗き込んで、呆れながらこう言った。
「のっち、あんた『卒業おめでとう。のっち先生より』ってしか書いてないけぇ。もっと書くことないの?」
先生は困った顔で卒業アルバムの山を指差し、
「え〜だってぇ。あとあんなに書くのよ?ひとりにいっぱい書いてたら日が暮れちゃうじゃろ。それにもうすでに手が痛いのよ」
もう変な期待はしてないから別にいいけど、そりゃ、そうじゃね・・・。

あたしたちは先生にアルバムを預けて教室に戻った。
1時間くらいしてそろそろ、先生書けたんじゃない?ってゆかちゃんが聞いて、一緒にアルバムを取りに行こうと思ったら同じクラスの子に声を掛けられた。
「あっ、いたいた。ゆかちゃんーあ〜ちゃんー。のっちから卒アル預かってきたよ〜」
えっ、先生に直接渡してほしかったけど、まっいっか。
その子にお礼を言ってアルバムを受け取った。


「あ〜ちゃん、見てよこれ。」
先生からゆかちゃんへのメッセージ。
『樫野さんへ。卒業おめでとう。もう女子大生になるんだから野菜は食べれるようになりましょうね。のっち先生より』
ゆかちゃんはもっと感動すること書けよ〜ってブーたれた。

期待はしてないけどやっぱり期待しちゃう・・・。
先生が何て書いてくれたか、すごく気になる。
あの時ちゃんと気持ちにケリをつけたはずなのに・・・。
すごく緊張してきて、手が震えてきた。
震えた手でアルバムをめくった。
先生からあたしへのメッセージはこう書かれてた。

『西脇さん卒業おめでとう。先生の言った通り大学受かったでしょ?合格おめでとう。
それと3年間”先生”って呼んでくれてありがとう。”先生”って呼ぶのは西脇さんしかいなかったから、すごく嬉しかったです。
先生は西脇さんが”先生”と呼んでくれるたびに自信を取り戻せてました。ありがとう。
西脇さんはたぶん先生にとって特別の生徒だったと思います。大学に行っても勉強がんばってね。
そして素敵な恋をして、西脇さんを愛して守ってくれる人と幸せになって下さい。
3年間ありがとう楽しかったよ。大本彩乃』

読んでるうちに自然と涙が溢れてきて、最後の方が文字が滲んできて上手く読めなかった。

      • 先生!!!
なんなん?これ?

「・・・あ〜ちゃん!なにしてるん?はよ、のっちのとこ行きゃなきゃ後悔するよ!」
一緒に読んでたゆかちゃんが促してくれた。

あたしは走った。
先生を求めて走った。
会って何を言ったらいいのかとか、そんなこと考える隙も無く無我夢中で走った。


先生は中庭のベンチにポツンと座って缶コーヒーを飲んでた。
あたしは息を切りながら近付いていった。

あたしに気づいた先生は笑顔で右手をヒラヒラ振ってきた。
そしてその手でベンチをポンポン叩いて、ここに座れば?って合図をした。
あたしはその合図通りに先生の隣へ座った。
あたしはまだ息が切れてる状態。

「大丈夫?走ってきたの?」
先生は笑顔で尋ねてきた。
「・・・はぁ、はぁ、あっはい」
あたしは息切れしながら答えた。

「なんか飲む?」
「やっ・・・だ、大丈夫です」
「そう・・・」
少しの沈黙。この沈黙が怖い。
何を言えばいいのか用意してなかったあたしは焦った。

沈黙を破ったのは先生だった。
「・・・卒アル読んだぁ〜?」
「あっ、はい・・・」
「ごめんね〜、なんかあれキモかったっしょ?」
先生は顎を触りながら苦笑して言った。
「そ、そんなことない。そんなことっないです、全然キモくなんかないです。むしろ・・・」
言葉が詰まって上手く言えない。早く嬉しいって言わなきゃ。
そう思ってたら、先生が先に言葉を淡々と進めていってしまった。

「・・・・あれ書いたこと全部本当なんだ。西脇さんが『先生』って呼んでくれるのすげー嬉しかった。
生徒にあだ名で呼ばれると、上の先生に怒られたりしてて結構ヘコんでたんだよね。あー、あたしやっぱ教師向いてないのかな?って思ったりしてさ。
だから『先生』呼ばれるたびにマジで自信取り戻せたんだよ。たぶん西脇さんがいなかったら今まで教師続けてられてたかも、わからんくらいだったと思う。
そう考えるとあたしにとってきっと、西脇さんは生徒の中で一番特別な存在だったんだなって感じたんだ。」


ほとんどアルバムのメッセージと同じ内容だけど、面と向かって口に出して言われるとさらに先生の3年間分の『ありがとう』が直に伝わってきた。
ただただ、素直に先生の気持ちが嬉しかった。
だってずっとずっと先生の特別な生徒になりたかったんだよ!?
バカ、こっちこそ『ありがとう』だよ。

あたしはまた先生の前で泣いてしまった。
先生のコトで初めて嬉しくて泣いた。
「あぁ〜、西脇さんは泣きべそちゃんじゃな〜」
先生は子供をあやすように言ってまたハンカチを渡してくれた。

先生のハンカチを借りて涙を拭いた。
何も言わないで先生は、あたしの涙が止むまでそばにいてくれた。
あたしも先生も何も言わないで時間は過ぎていくけど、今のこの沈黙は怖くない。
むしろ心地よい優しい沈黙が流れてる。

泣き止んだあたしは立ち上がり、先生の前に立って右手を差し出した。
不思議な顔をする先生。
「握手!」
「え〜、触られるの嫌じゃなかったの?」
わざと意地悪く言ってくる先生。
あたしもムキになって右手を上下にブンブン振って抗議する。
「あ、握手は別なの!!」
先生はフフってハノ字眉で笑いながら、握手をしてくれた。

もういいかな?と思って手を離そうとしたら、先生の手に急に力が入って放してくれなかった。なんで?
「・・・先生?」
先生は俯いてるので表情が読み取れない。
どうしたの?先生。
表情が見えないことを良いことにあたしはずっと言いたかった、あるお願いをしてみることにした。
「ねぇ、先生?最後にひとつだけワガママ、きいてくれますか?」
「・・・いいよ」
先生はまだ俯いたままで返事した。

「・・・あ〜ちゃんって・・・呼んで?」

先生はあたしの方を向き目を合わせて、とびっきりの優しい笑顔で最後にこの言葉をあたしにくれて、手を放した。

「3年間楽しかったよ。ありがとう、あ〜ちゃん」


先生と別れて教室に戻ったら、ゆかちゃんが待っててくれた。
もう外はすこし薄暗くなっていた。
春だって言うのに日が沈むのは、まだ早いみたい。

「のっちに気持ち・・・伝えたん?」
あぁ、一度も相談してないけど、あたしの気持ちわかってたんだね。
見守ってくれてたんだね。ありがとう、ゆかちゃん。

「・・・ううん。言ってないけど、でも、もういいんよ」
「ほんとに?・・・いいん?」
「うん。いいんじゃ!なんかもうスッキリしたから。良い思い出って感じ?」
「そっか・・あ〜ちゃんがいいって言うならあたしはもう何も言わんけぇ」
ゆかちゃんの優しさに感激して、あたしは飛びついてありったけの感謝の気持ちを伝えた。
「ゆかちゃん大好き!!大学は別でも連絡取り合って、ずっとずっと遊ぼうね」
「そんなん当たり前じゃ!ゆかとあ〜ちゃんの友情は不滅じぇけんww」

二人でキャッキャとハイテンションで帰りの仕度をし、教室を出た。
校庭まで歩くといきなり、ゆかちゃんが誰もいない方に向かって叫び出した。

「あーーー!!!ほんとはまだ卒業したくなーーーーい!!!」
「高校生活チョーーーー楽しかったーーーーー!!みんなと別れたくなーーーーい!!!」
「まだ女子高生でいたーーーいよーーー!!セーラー服脱ぎたくなーーーい!!!!」

あたしがポカーンとしてるとゆかちゃんにはやし立てられた。
「ほら、あ〜ちゃんも叫ぶー。今、制服着れるうちに青春っぽいことしとかなー、大学生になってやったらただのイタ子よ?」
「えっ〜w、何て叫べばいいん?」
「今思ってること叫べばいいんよ。」


今、思ってること?


「せんせーーーい!!!すきーーーー!!だいすきーーーー!!!」


— Fin —





最終更新:2009年02月23日 03:21