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SIDE-N


大音量で鳴る携帯の着信で目が覚めた。
隣にいるはずの彼女はすでにベッドから出て、仕事に向かう準備をしている。
身体が重い。
正直動きたくなかったが仕事があるし、そして何よりもこの着信音は彼女だ。
グッと手を伸ばして小さなテーブルに置いてある携帯を取ろうとした。
が、さっきから準備の為に部屋をうろうろしている彼女に先を越される。
彼女はディスプレイを見て迷わず携帯に出た。

「もしもし、あ〜ちゃん?おはよー」

私の携帯なのに、と思いながら身体を布団の中に戻す。
起きる機会を失った。
携帯から洩れる彼女の声を子守唄に、瞼は自然に閉じて行く。

「…うん。ゆかはもう結構大丈夫だけどね。のっちは…ふふっ、わかった伝えとく。うん、じゃあね…はーい。」

携帯を閉じる音とともに頬に少し痛みが走る。


目を開けると、彼女が私の頬をつねっているとわかった。

「痛いんですけど。」
「…はよ起きんさい。」

私が一応目を覚ましたと確認すると、彼女は再び準備を始めた。
ベッドから出るのにグズグズしていると、彼女は笑いながらとんでもないことを言った。

「はよせんと、あ〜ちゃん部屋に乗り込むって言ってたよ。」

それは困る。
だって今私は。

「服だけでもはよ着んさい。風邪引くし…」

そう。裸だ。
勢い良くベッドから飛び出し、急ピッチで準備した。



「あ〜ちゃんおはよぉ」

二人でマンションの下に降りると、すでにワゴン車が停まっていた。
その前には彼女が立っている。

「のっち、あんたまた寝坊?」

きつい口調で言う彼女は笑顔だった。
いつも彼女のこの笑顔で、普段の私たちに戻って行く気がする。
どちらも彼女を求めているのに。

「ゆかちゃんが一緒にいてくれたから良かったけど。」

少し胸が痛んだが、彼女に続いて黙って車に乗る。
三人が乗ったらすぐに発車した。

「ゆかのせいかも。」

彼女の一言で心拍数が上がる。

「なかなか寝かせなかったから。」

何を言い出すんだ。
彼女の意図がわからない。

「何して起きてたん?」

当然の彼女の疑問。
私は身体が固まってしまっていた。
彼女は何て答えるか。

「色々…おしゃべりしてた」
「へー…何の話?」
「恋ばな…あ、あ〜ちゃんの話もしたよ」
「何それ、めっちゃ気になる!!」
「だーめ、秘密だから言わん!」
「えっ…悪口とかですか?」
「そんな訳ないじゃろ!」


真ん中の席で二人のやり取りを聞く。
どの話も嘘じゃない。
全部本当の話。

「えーほんま何の話なん!?」
「だから言わんって!良い内容じゃったから安心して…だよね、のっち」
「あ…うん。」

急に話を振られて生返事。

「のっち話聞いとった?」
「聞いとったよ。でもちょっと…眠くて。」
「あんたはほんとに…ゆかちゃんは目パッチリしとるよ?」
「なんかごめん…」
「…大丈夫なん?」

いつもと違う様子の私を心配してくれる。

「大丈夫だけど…着くまで寝るわ」
「そう?席替わる?」

その優しさまで、何故か辛くなる。

「別にいいや…ありがと」

目を閉じると、さっきまで気づかなかった違和感を感じる。
これはもしかして。

「すみません、運転手さん。窓開けてもらえますか。」

実際は匂いもしないのに。

「本当に席替わらんでええん?」
「いいの。ここでいい。」

本当はここがいい。
微かに感じたあの芳香が彼女には伝わらないように。



つづく






最終更新:2009年02月23日 03:33