久しぶりに、アラーム音を聞かない朝。
ベッドの中で半分寝かかっていた夜中、
マネージャーから連絡があり、今日が一日オフになったと聞かされた。
時計を見ると11時前。
突然のオフ。
何をするかも考えていない。
何か、食べようかなぁ…。
最近忙しく、家には寝に帰るだけだったのもあり、食材が何もないことくらい冷蔵庫を開けずとも分かった。
とりあえず顔を洗って歯を磨き、部屋着のスウェットのまま、マフラーを巻いてコンビニに向かった。
桜の咲く時期も近い。
そのわりに、何だか今日は肌寒い。
私は、マフラーに顔を少しうずめた。
コンビニに着き、菓子パンと缶のホットココアを手に取り、私は足早にレジに向かう。
ふと、アイスのコーナーが目に入る。
そういえば…、何か新しいアイス出たって言ってたっけ…
そんな事をひとり思い出し、アイスを手に取った。
ココアを飲みながら家に帰る途中。
若いカップルが私を見ているのに気がつき、歩く速度を速めた。
すっぴんでスウェット、これでアイドルかよ、なんて自分で自分に突っ込みを入れて苦笑いした。
玄関の鍵をガチャリと回す。
…え?
開くはずの扉は…、閉まった。
鍵、かけ忘れたっけ。
もう一度、ガチャリと回す。
開かれたドア。
あっ…
キレイに並べられた誰かの靴が、すぐ視界に入った。
と同時に、奥からパタパタと走ってくる足音と近づく影。
「どこ行ってたのっ…!」
そのままその影は、私の胸に飛び込んだ。
その衝撃で、玄関のドアにもたれる形になる。
「何でいないんよ…。どこ行っとったん…!」
眉間にしわをよせたその顔が、グッと近づけられる。
『コンビニ…、起きてすぐご飯買いに行ってただけだよ。』
ポンポン、と頭を撫でてみた。
ぎゅっとしがみつき、私の首に顔を埋めてくる。
「…ほんまに?」
『ほんとだよ。』
そう答えると、突然口を塞がれた。
深く…深く…。
私のすべてを埋め尽くすかのように、深く。
私も彼女の舌の動きに合わせて、舌を絡ませた。
「何で…のっち、甘い味するん?」
しかし彼女はキスで満足した顔にはなってくれなかった。
「起きたとこって…言ったのに…。」
私はすでに、彼女の言いたいことをすぐに理解できるまでになっている。
そして、彼女の扱い方を理解している。
私は彼女を、再び自分の胸にグイッと引き寄せた。
『ゆかちゃんに会いたいなって考えながら…、ひとりでココアを飲んで外歩いてた彩乃ちゃんは…』
少し体を離し、指で彼女の唇をなぞる。
『どれくらい、寂しかったでしょうか…。』
言い終えると、そのまま彼女の口の中に指を入れた。
彼女は素直に舌を絡めてくる。
指を抜いて、かわりに私の舌を入れた。
「ばか…。ゆか、連絡したのにっ…!」
そう言いながらも、抱きついてきた彼女の表情は、とても満足気だった。
部屋に入り、ソファに並んで座る。
「のっちぃ…。」
途端に体を寄せてくる。
『なぁに?』
「お揃いの、何かさぁ…。」
彼女はどうやら、お揃いの指輪が欲しいらしい。
私たちは付き合って一年の記念日に、一度別れてしまっている。
記念に指輪が欲しいとお願いされたのは、ちゃんと関係が戻ってからすぐのことだった。
『そうだね。…今から買いに行こうか?』
仕事が忙しく買いにいけず、時間だけが過ぎていた。
指輪があれば、彼女も少しは安心してくれるかもしれない。
私たちはすぐに家を出た。
彼女が前から決めていたショップに入り、指輪を眺める。
隣の彼女の目はキラキラ輝き、すぐにひとつの指輪を指差した。
[Y&A]
ゆか と あやの
ありきたりだが、裏に文字をいれてもらうことにした。
『………!』
出来上がりを待っていると、突然腕を引き寄せられ、耳打ちをされる。
「ゆか達、今どう見られてるのかな?」
えっ…と思ったが、私はすぐに理解できた。
女の子ふたり、そして変装も何もしていない。
そして[Y&A]。
考える私を見て、彼女はクスッと笑った。
こういう刺激が、彼女は好きだ。
小悪魔だなとか何とかひとりで考えながらも、彼女が笑っているのならそれでいいと思い、私も笑った。
指輪を受け取り、私の家に戻る途中。
大通りの歩道の上、腕を組み歩いてたいた彼女が突然立ち止まった。
時刻はお昼を回ったところで、人通りはどんどん増える。
「ねぇ、今ゆかに指輪つけて。」
『えっ…今?…ここで?』
「…嫌なん?」
あきらかに彼女の目つきが変わったのが分かった。
私は素直に箱から指輪を出し、差し出された右手の薬指に、指輪を通した。
「ありがとう、のっち。」
満足げな声が聞こえた。
道行く人は、立ち止まる私たちを避けるようにして通る。
私は恥ずかしくて、俯いてしまう。
「のっちもほら、手、だして。」
彼女は私の指に指輪をとおしかけ、一旦やめた。
思わず私が顔をあげると、ニヤリと笑い、一度その指輪にキスをしてから私の指にはめた。
「……っ……。」
そのまま私の指を見ながら、彼女がぼそっと何かを呟いた気がした。
『…え?』
「お揃い、だね。」
向けられた笑顔は、とても満足げだった。
「ふふっ…」
私たちは再び家へと歩みを進めた。
その手には、しっかりと彼女の指が絡んでいた。
最終更新:2009年02月23日 03:39