『ゆかちゃん…お願い…。』
「…嫌だ。」
彼女はソファの上で、向かい合うようにして私の膝の上にのって、どいてくれない。
『お願い…。』
私たちがもとの関係に戻ってから3ヶ月。
揃いで買った指輪も、もうずっと昔からはめられているかのように
しっくり指に馴染んでいる。
寒い季節は去り、外から差し込む光が春の訪れを告げていた。
部屋は、先ほど彼女がつけた香水の甘い香りが漂う。
だが、光に照らされる彼女の顔は、とても険しい。
「何でよ。」
昨夜泊まりきた彼女。
仕事が終わったのが夜中で、何だかんだですぐ朝。
また仕事に向かう時間がやってきた。
『何でじゃないでしょ?…仕事、行かないと。』
もうすぐ迎えが来る。
「…行かん。」
今日の彼女はいちだんと聞き分けがない。
まるで子ども。
『ゆかちゃんのファンが、待ってるぞー?』
私はおどけてみせた。
「…うるさい。」
途端に彼女の目つきが変わるのが分かった。
深く深く唇を奪われる。
彼女の嫉妬深さは、日に日に目に見えてひどくなっていた。
「ゆかのこと、好き?」
彼女は、気持ちを確かめるのが好きだ。
『好きだよ。』
あと、二回…
「…嘘だ。」
『嘘じゃないよ。』
ほら、…もう一回。
「ほんとに、好き?」
『のっちの中、ゆかちゃんでいっぱいなん、知ってるくせに。』
彼女は目を細め、満足げに笑った。
私も少しずつ、彼女の扱いを理解してきた。
『…のっち今日、指輪左手にしとくね。』
ばか…と呟く彼女。
私も、彼女が満足する言葉を自然に選べるまでになっていた。
「出来んよ…。」
私の言動で激しく怒ったり、笑ったり。
普段の彼女ではなくなる。
彼女はきっと、私を独占したくてたまらないんだ。
『出来るよ。今日はラジオだけじゃけぇ。』
見つめた彼女は、またとても満足そうで。
彼女が笑顔なら、それでいいと思った。
私がそばにいることが、彼女の幸せなんだ。
彼女は一度、私の首筋に顔を、髪をこすりつけてきた。
「ふふっ…。」
彼女は少し微笑むと、私の上から離れて立ち上がった。
そして私たちは、外の世界に出た。
その腕には、しっかり彼女の腕が絡んでいた。
「クスッ…。」
彼女がまた、少し笑ったような気がした。
これが、きっと私の幸せなんだ。
最終更新:2009年02月23日 03:42