K-side
「もしもし・・・?ゆか、だけど」
「おー、ゆかちゃん。どした?」
その、愛しくて、ふわりと暖かい声を聴くと
思わず涙がこぼれそうになる。
———なんでこうも切なくなっちゃうんだか———
「・・・なんか、ね。なんとなく」
「なーんじゃそりゃあー」
———ま、それはのっちのことが好きだから、なんだけど———
ははは、ってそんな笑い声が聴こえてきて、
あたしはそんなのっちの笑顔を想像してみる。
うん、なんとなく幸せ、だよね。
好き、だけどさ。
正直、わかんない。
これって、恋?
いや、でもさ。
のっちは女だし。
ちなみにあたしも女だし・・・?
まず、恋愛対象として・・・っておかしいよね?
とりあえず、考えよう、うん。
うん、だからそれは親友、ってこと・・・?
いや、でもそれでも足りないんよねー。
それこそ、親友以上に想うこの気持ちって何?
Perfumeとゆう中での第二の家族、って感じ・・・?
いやいや、それならあ〜ちゃんはどうなる・・・
「ゆかちゃん?」
「ん?・・・っぁ、ああ、なんでもない、ごめん」
しばらく考え込んでたから、無言だったみたい。
そんな、心配そうな口調で話すのっちがやっぱりあたしの胸を締め付ける。
「のっち?」
「んん〜?」
「ゆかね、のっちの声、好き」
「はあ?な、な、な言ってんの〜?」
声が好きって言っただけなのに
ここまで動揺するなんてね。
ほんとのっちっておもしろい。
- ってほんとはこんなこと言って、自分が余裕持ちたいだけなんだけど。
「照れちゃって〜」
「そ、そ、そりゃ照れるでしょ」
「こえ・・・声、がね、聴きたいなーって思って」
「のっちの?」
「そ。のっちの声、聴きたくなって電話しちゃった」
ゆかちゃんってば、そうゆうとこ小悪魔なんよねー。
とため息混じりに小声でぶつぶつ呟くのっち。
あたしに聴こえないように配慮してるつもりなんだろうけど
ばかのっち、全部聴こえてるよ。
「でもね・・・?」
「ん?」
「声、聴いたら・・・会いたくなっちゃって・・・」
なみだ・・・零れ、ちゃった・・・。
「ゆかちゃん・・・?」
「っ・・・ん?」
「いや・・・大丈夫?」
「・・・・・・・・」
なんだか、大丈夫、とは応えづらくて。
嗚咽するほどじゃなかったから、電話だし泣いてることが
のっちにばれることはまず無いんだけど、雰囲気で勘付かれたかもしれない。
「会おうよ」
「え?」
「今、家?」
「うん・・・」
そこから、一歩も動かないように!
そうやって念押しするとのっちは電話を切った。
—PM11:30
終電はもうすぐ。
こんな時間に女の子は外出しちゃ危ないのにな・・・
はあー。
まだ、あたしだけしか居ない部屋にため息が一つ。
なんで、会いたいなんて言ったんだろ?
なんで、のっちのためなんかに泣いてるんだろ、あたし・・・。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ピンポーン。
しばらくすると静まり返った部屋にチャイムの音が響いた。
急いで玄関に向かったは良いものの、なんだかドアを開きづらい。
「ゆかちゃーん?・・・居るんじゃろー?」
返事をまだしてなかったから、不安げなのっちの声があたしを呼ぶ。
覗き穴を覗くと、あれえ?と頭を掻くのっちが見えた。
「っ・・・はぁー」
大きく深呼吸する。
なんで、こんなにためらってるの?
ただ単にのっちが家に来た、それだけじゃん。
大丈夫、涙はちゃんと乾いてるし、目が赤くなってないこともチェックした。
笑顔でいらっしゃい、ってそう言えば良いだけなんだ。
あとは、こんな夜遅くにゴメンね、って。
よし、これだけ準備したんだから大丈夫だよ・・・
がちゃ。
ドアを開けた。
「っわあ!びっくりしたあ」
「いらっしゃい!」
ほら、ちゃんと言えた。
そうやってあたしはいつも通り、のっちを玄関に入れる。
のっちは居るんなら居るって言ってからにしてよねー、とぶつぶつ文句を言いながらドアを閉める。
「のっち、ただいまゆかちゃんちにやってまいりましたー」
玄関でおどけた振りをして不格好な敬礼するのっち。
鼻が赤い。
息も少し切れ気味。
やっぱり、走ってきてくれたんだろうな・・・。
人のためなら何でも出来る。
だけど、見返りなんて求めない。
「ゆかちゃん・・・?」
「・・・あっ、うん。寒いでしょ?中、入ろ?」
また、ボーっとしてたあたしは我に帰り、のっちを中へと促す。
3人がけのソファにのっちを座らせ、あたしはあったかいココアを用意する。
「はい」
「おー、サンキュー」
のっちはさっそくカップへと口を付け、あちっ!と小さく叫んだ。
ああ、微笑ましい。
いつまでもそんな光景を見ていたい・・・
のっちが側に居て、のっちが笑って、ゆかちゃん、って呼んでくれて・・・
「ゆかちゃん・・・?どうしたの?座らないの?」
「っあ、うん。そうじゃね」
だめだ、ボーっとしすぎだ、今日。
あたしはのっちの側に腰掛ける。
肩は触れそうで触れないくらいの距離。
だって、くっついちゃったらどきどきして大変だと思うから。
「今日、のっち泊まっちゃうよ?」
「え?」
「いーじゃん、終電もうないしぃ・・・やなの?」
って、そんな不安そうな顔して、そんなか細い声出すのっち。
だめだよ、そんなの反則だよ。
「や、じゃないよ」
「マジ!?やたー!」
のっちはカップをそばにあるテーブルに静かに置くとやりました!と言わんばかりにバンザイした。
眩しいくらいの笑顔があたしの目を捉えて離さない。
その視線に気付いたのっち。
のっちは笑うのを止め、ふうとため息を吐いた。
「ゆかちゃん、今日、変」
のっちはそういうと両手であたしの頬を包んだ。
目と目が絡まる。
自然とのっちの手が触れている辺りが熱くなってくる。
あの八の字眉ののっちがまた口を開く。
「いくらのっちがバカだからって、いい加減気付くよー?」
「・・・・・・」
「だんまりはずるいぞー。なーんか言えー」
口を尖らせた笑顔ののっちはあたしの頬を撫でるのをやめ、つねった。
わざと笑ってくれてるのも、わざとふざけたみたいに話してくれてるのも・・・
全部のっちの優しさだって、分かってる。
「・・・ごめん、ごめんね」
「・・・・・・」
もう、だんまりはずるい、って言ったくせに。
何か言え、って言ったくせに。
なんでそんなに悲しい顔するの?
目の前にはあたしをつねることも止めてしまったのっちが居た。
「ほんと・・・ごめん」
ごめん、好きになって。
こんな気持ちはあたしにとってものっちにとっても
お互いの心を傷つけるもの、でしかないのに・・・。
「・・・ゆかちゃん、もっと頼ってよ。やっぱ、こんなんじゃ、頼んない?」
のっち・・・。
あの泣きそうな顔で抱きしめられた。
優しく、でも力強く。
この匂い、のっちの匂い。
こうやって抱きしめてもらって初めて分かる、君のぬくもり。
だけど、だめなんだよ。
「だめだよ・・・、あたしなんか・・・に優しくしちゃ、だめだよ・・・」
「なんで?」
だめだよ、勘違いさせちゃ。
あたし、こう見えても惚れやすいんだからさ。
「・・・のっちのこと・・・す、き、になっちゃうよ・・・」
あー、言っちゃった。
もう、戻れないや。
- あれだけ、のっちは恋愛対象じゃないって思い込もうとしてたのに。
声を聴くたび、ゆかちゃんって呼ばれるたび、触れられるたび、抱きしめられるたび、生まれてくる暖かい気持ち。
それはすべて「愛」なんだ、って・・・
やっぱり、誤魔化しきれないや。
「・・・それって本気?」
やっぱりね。
のっちはビックリしてるんだよね。
そりゃそうだよ。
あたしとのっちは友達だもん、親友だもん。
決して「恋人」という関係にはどう足掻いたって行き着けないんだ。
「・・・軽蔑、するよね?」
そういうと首を横に振るのっちの振動が伝わってきた。
ばか、そういうときは縦に振るんだよ。
「ゆかちゃんはさー、勘違いしてる」
のっちは抱きしめるのを止めて、両手であたしの肩を抱いた。
そして、君はその次にきっとこう言うはずだよ。
ゆかちゃんがのっちを好きになるはず無い、って。
その好きは、なんかの間違いだ、って。
「・・・ゆかちゃんは、のっちがそんなことに軽蔑する人間だと思って好きになったの?」
予想外だった。
なんか、のっちがどや顔でこっちを見てる。
悔しくてのっちの顔を見ていられなくて、下を向いた。
そんなことで、良いこと言ったつもり?
違う、って首を横に振るけど・・・説得力無いか。
なんたって、軽蔑する?なんて聞いたあとだし。
「のっちのこと、好きなんだ。へえー」
顔を上げればニヤつくのっち。
ああ・・・なんか、むかつく。
だから・・・
「まだ、好きとは言ってない!なっちゃうかも、って言っただけ!!」
のっちの腕を振り解き、むすりと足と腕を組んで座りなおす。
こんなの、ただの子供だよ。
そう、自己嫌悪に陥るも素直になれないあたし。
「元気に・・・なった?」
視界の右端からのっちがひょっこり顔を出した。
やっと、いつも通りのゆかちゃんだね、って笑った。
優しそうな顔をしていた。
「・・・ぅん」
「そか、そか。よかった」
のっちってこんなに大きかったんだ、カッコよかったんだ。
今さらだけど、涙がこぼれた。
のっちは頭を撫でて、指で零れ落ちたそれをふき取ってくれた。
「ありがと」
「いえいえー、どういたしまして」
べこっと頭を下げるのっち。
なんかね、のっちってやさしさの塊みたい。
でもね・・・まだ、聴いてない一言があるんだ。
———好き———
まだ、のっちはその言葉を言ってくれてないでしょ・・・?
やっぱり、それはさすがにあたしの勘違いだったのかなあ・・・?
「のっちはさ・・・」
「うん?」
「ゆかのこと・・・好き?」
もう、怖くは無かった。
あたしがこの気持ちを打ち明けたところで、この関係が
これ以上壊れることはないんだって、のっちが教えてくれたから。
もう、のっちの気持ちがどこを向いてようがあたしは怖くないんだ・・・。
「うん、好きだよ。でもさ・・・」
のっちはそういって柔らかくはにかんだ後、口を尖らせて続けた。
やっぱり、その好きはLOVEの好きじゃない、って言うのかな?
最後まで期待させるのって、なんか、ずるいよ・・・
「ゆかちゃんはまだ・・・のっちのこと好きじゃないんじゃよね・・・」
不安は一気に打ち砕かれた。
さっきのことか。
のっちって変なとこは真に受けちゃうっていうか・・・
それはあたしが悪かったんだけど。
「それはさ・・・言葉のあやっていうか・・・成り行きって言うか・・・」
さっき強めに言い過ぎたせいであたしも素直になりづらい。
のっちの目を見れずに俯き加減で言い訳を並べた。
「・・・それじゃー・・・のっちが好きにさせてあげよっか?」
おずおずと控えめに聞いてきたのっちが居た。
言ってる言葉と口調がつり合ってないよ。
そんなのっちが愛らしい。
「もうちょい、カッコよく言えんのー?」
すこしイタズラっぽく言いながら顔を上げると
キス、された。
「・・・んっ」
それはほんの一瞬だった。
そして気が付けば、唇と唇がつきそうでつかない、
お互いの吐息が間近に感じられる、そんな距離にあたしたちは居た。
「ねえ、ゆかちゃん・・・」
「ん?」
「のっちとほんとのキスしたい?」
顔を少し赤くさせたのっちが色っぽい。
のっちって挑発するの、上手くなったんだ。
さっきといい、今といい・・・
「したいかも」
完敗だね。
そこまで言うんなら、やってみてよ。
あたしを好きにさせて?
のっちの虜にさせてみて?
「今日、のっち泊まっちゃうよ?」
そう言って、あたしの唇を撫でた。
さっきも聴いたよ、その言葉。
(続く)
最終更新:2009年02月23日 04:01