Side A
一週間くらい前だっただろうか?ゆかちゃんがネットで面白いもの見つけたって言ってて。
仕事帰りに、ゆかちゃんちで見せてもらったんだっけ。
パソコンの画面に映し出されていた文字。
≪これであなたも若返るかも!≫
なんちゅう宣伝文句が書かれたドリンク。
かもってなんよ?かもってw
それだけ見ればただの美容飲料かと思ったんだけど。続く説明文を読んでいくと。
≪あなたは、アニメの魔女っ子のように自在に大人になったり、子供になったりしてみたいと思ったことはありませんか?
このドリンクは、そんな願いをちょっとだけ叶えてくれるかもしれない、不思議な効力をもっています。≫
だから、なんでかもなんよ…。これってアレだよね?赤い飴と青い飴的な…だっけ。そういうこと?
てかマジで?若返るってことは、子供に戻るってことじゃよね?
「あ〜ちゃん、面白そうじゃない?」
「まぁ、ホンマなら興味あるけど。さっすがにあり得んじゃろ〜。」
そう言うと、ちょいちょいとパソコンの画面を指差してくるゆかちゃん。
その先を見ると、最後に注意書きでなんか書いてある。
≪但し、本商品には当たり外れがごさいますので、ご了承願います。≫
………。
なんて、適当な商品なんじゃ。
そっか。だから、その分料金がめっちゃ安いんか…。
「当たり…ねぇ…。」
「試してみたくない?」
「って、ゆかちゃんは飲まんの?」
「…いやいや。ちゃんとあたしも飲むけぇ。」
「なんで今、間があったんよ。」
「テヘ?」
テヘて…。誤魔化し笑いも良いとこじゃ。
こういう時のゆかちゃんは絶対なんか企んでる。
別にドリンク飲んだだけで子供になっちゃうなんて、現実じゃあり得んけど。
それに、当たりなんてそうそう無いだろうし。むしろ、ただの商売文句じゃろ?
そんなに値の張るものでもないし、ここはゆかちゃんに乗ってあげよう。
まあ、お試しという事で、一番本数の少ないやつを購入することになった。
翌日。
早速届いたソレを目の前に置いて二人で眺めていた。
お試しってことで、6本入り。3本ずつ二人で飲む事になった。
「…コレもし当たりが出たら、どうやって元に戻るんかねぇ?」
「ん〜?ちょ待ってね?」
ふとしたあたしの質問に、ビンやら箱を見て説明文を読んでいるゆかちゃん。
「あ。あったあった…。」
どうやら、効き目は一日でなくなるみたいだから、放っておけば良いらしい。
でも、やっぱり最後の文章が…。
≪もし戻らない場合は…≫
できるだけ、この状況にはなりたくないわぁ。
だって、こんなん恥ずかしくて出来ん。
「とりあえず、1本飲んどく?」
ゆかちゃんの言葉に何も言わずに、ドリンクを睨みつけていた。
「あ〜ちゃんwそんな警戒せんでも良いじゃろ?」
「だって、ホンマにちっちゃくなったら…。」
「それはそれで面白いんじゃない?のっちの反応が面白そうだし。」
なんか、ウキウキしてるゆかちゃん。
まぁ、確かにのっちの反応は気になるけど…。
…イヤ。何かヘラヘラしてそう。のっちもちっちゃい子好きみたいだし。
「じゃあ、あたし先飲んじゃうね?」
躊躇することなく、グイッと飲みきるゆかちゃん。
思わず息を呑むあたし。
…ゆかちゃん勇ましいよ。
「にゃは〜。味はなかなかじゃね。体はぁ…、特に変化なしと…。」
自分の手とか足元を確認しているゆかちゃん。
「ハズレじゃね?」
続いて、ニッコリ笑いながらハイと言って1本差し出してくる。
「飲まんといけん?」
「大丈夫じゃてぇ。もしちっちゃくなったら、面倒みるけぇ。」
「でも、仕事とか…。」
「体調不良ってことにしとけば、一日くらいもつじゃろ。」
「うぅw。」
ゆかちゃん、厳しいよぅ。
さっきから、なんだか良く判らない不安にかられて、恐いんじゃけど…。
だけど、ゆかちゃんは関係ないらしく。取り合ってくれない。
「…分かったよ。」
ゆかちゃんからビンを受け取り、恐る恐る口元に近づけていく。
一旦止めて、大きく深呼吸して、そのまま勢い良く…は無理だったから、ちびちびと飲み始める。
ん〜。確かに味はまあまあ悪くない。ちょっぴりすっぱい感じ。
一本を飲みきって、ドキドキしながら自分の様子を確認する。
「…あ〜ちゃんもハズレ?」
「みたい…じゃねぇ。」
あたしも変化はない。
コレ…後から効いてくるとかないよね?
ふぅ〜。
とりあえず、なんもなくて一安心。でも、そう思ってるのはあたしだけみたいで。
「ん〜、もぅ。つまらんねぇ。あ、でもまだ4本あるし、確率はまだあるんね。」
ゆかちゃんは、まだ希望を捨てとらんらしい。
後の2本は持ち帰りってコトになって、この日はこれで終了。
もって帰ってきたは良いけど、どうしよう?
一応、冷蔵庫に入れておこう…。
パタンと閉めた後、すっかりドリンクの存在を忘れていた昨日の朝。
「ねぇ、お姉ちゃん。コレ飲んでも良いんじゃろ?」
あたしより先に起きていた妹のちゃあぽんが、何か尋ねてきた。
ん?あたしは寝ぼけながら、チラッと手にしてるものを見ただけで、もぞもぞと布団をかぶって。
「あぁん。勝手に飲みんさいな〜。」
と返事をしてしまった。
「んじゃ、いっただきま〜す。」
その場で、ふたを開ける音がして、飲みだしたらしい。
………。
ん????
ガバッと布団から起き上がって、ちゃあぽんの目の前までズンズン歩いていく。
「ど、どうしたん?」
それには答えずに、ちゃあぽんが手にしているビンを改めてジーっと見てみると…。
すでに空っぽの例のドリンクのビン。
ちゃちゃちゃ、ちゃぁあぽぉん!!
あたしのあほぅ!何でもっとちゃんと確認せんかったんよぅ!
まだ眠かった頭が一気に覚めて
「…ちゃあぽん、体何も変じゃない?」
「???いや?別に?」
ぺたぺたと触って確認しているあたしを、不思議そうに見ているちゃあぽん。
どうやら、ハズレだったらしい…。
ん?でも、ちぃっちゃいちゃあぽん…可愛いじゃろうな〜。ぇあ、絶対可愛いに決まっとる!
「お姉ちゃん?大丈夫?口開いとるよ?」
「へ?ぁ、んぁ〜あ?な、なんもないけぇ。」
いけんいけん。ついつい想像してしまったら、ぽけ〜っとしてしまった。
のっちじゃあるまいし。
「それより、それ、もう一本あったじゃろう?」
「うん。」
「あれは、飲んじゃあいけんけぇ。」
「ん。解った。お姉ちゃん飲むん?」
「う?あぁ、そうそう。あたし飲むけぇ、絶っ対飲んだらいけんけぇね。」
まぁ、たぶん飲まんけど…。
「あい!りょうかーい!」
元気良く返事をして、空きビンを持って部屋を出て行く。
ふあ〜。なんか心臓に悪いよコレ。
そういえば、ゆかちゃんは全部飲んだんじゃろか?
その日の仕事でゆかちゃんに聞いてみると。もう全部無くなったみたいで。
「あ〜ちゃんまだ残っとるん?」
「うん。一本だけ…。てか、今朝ちゃあぽんが飲んじゃってて、めっちゃ焦ったわ〜。」
「もしかして、全部ハズレなんかなぁ?」
あたしはそっちのが良いんじゃけど。
「あ〜ちゃん、飲まんかったら、のっちに飲ませちゃえば?」
「え?」
「ちびのっち。どう?気にならん?」
相変わらず、ウキウキと話してるゆかちゃん。
ちびっちゃいのっちかぁ…。
あのクリクリお目目で見上げて『あ〜ひゃん。』とか相変わらず噛みながら、呼んでくるんじゃろ?
そんなん…まずいって。ただでさえ子供可愛いのに…。のっちが……。
いやぁーー!ギュッてしたい!!も、想像しただけで悶えそうなんじゃけど!
「あ〜ちゃん?」
「にゃはw!のの、のっちぃw!」
さっきまでゲームしてたのっちが、急にひょいっと目の前に現れて超ビックリ。
「あ〜ちゃん驚きすぎ。てか、何さっきから顔赤くしてるん?」
そう言ってあたしの頬に触れてくるのっち。
「ぇ、え?」
まさか、ちびのっちを想像してキュンてしてたなんて…言えるわけない。
「へへぇ、温かぃ。」
ちょっと照れながらへにゃって笑う顔。コレ結構好き。
でも、なんでかのっちには素直に伝えられない所があるあたし。
「べっつにぃ〜。のっちがアホじゃな〜思て可笑しかっただけじゃ。」
ふいっと、顔を背けてのっちの手から離れる。
あ〜、また言っちゃった。と思ってチラッとのっちを見ると。
「え?ホンマに?」
アホって言ったのに何故か嬉しそうなのっち。
「…なんで嬉しそうなん?」
「だって、のっちのこと考えてくれとったんじゃろ?それって嬉しいもん。」
また照れながら言ってくるのっち。
もう。なんでのっちの言葉って、アホっぽいのに……安心するんじゃろ?
だから、素直に言えない言葉に、愛情をたっぷり込めて。
「あほぅ。」
って言っといた。
そしたら、まあ、みごとなハの字眉が出来上がったのは言うまでもない。
隣ではゆかちゃんのクスクス笑う声がした。
仕事が終って家に帰ると、なんだか喉が乾いて冷蔵庫を開ける。
そこで目に留まったドリンク。
みんなハズレだったみたいだし、平気かなぁ?
大体、ちっちゃくなっちゃうって言うのが可笑しいんじゃ。
そんなんあるはずないもん。
自分を納得させて、ドリンクを手に取る。
なんだかんだで、美味しかったし?
これが最後の一本。早くなくしちゃば良いんだよね。
うん。あるから気になっちゃうんだよ。
ヨシ。
そうして、最後の一本を飲み干した。
…うん。ほらね〜。大丈夫じゃ。
まあ、ちっちゃくはならんかったけど、体には良さそうな感じだし。
今回は勘弁しちゃるわ。
そういえば、明日は仕事終ってから久しぶりにのっちの家じゃね。
今から楽しみじゃぁ。
翌日。
いつも通りに目が覚めてたんだけど。
ふぁあ〜。
なんだかいつもより眠くて、あくびがいっぱい出る。
今日は大学は休みでそのまま仕事だ。迎えの車の中でも、変らずで。
「あ〜ちゃん、眠そうじゃねぇ?」
のっちが心配して声を掛けてくる。
「ふ〜ん…。」
申し訳ないけど、マジ眠くて頭がまわらない。
「着いたら起こすけぇ、寝とったら?」
「むぅぅ…。」
そのまま眠るあたし。
今日の仕事は、簡単な打ち合わせ程度で少し助かった。
スッキリしないままだったけど、ちゃんと内容は理解できたし。良かった。
「あ〜ちゃん、ホンマに大丈夫?今日家来るの止めとく?」
打ち合わせが終ってから、のっちが聞いてくる。
「ん〜、家でちょっと寝て行くけぇ。」
「そぉお?」
「ほいじゃあさ、あ〜ちゃんゆかと一緒に行こうよ。ね?」
「ん。じゃあ、そうする…。」
折角のっちの家行けるのにぃ、止めとく?って。
あほのっちめ。あ〜ちゃんは楽しみなんじゃあほぅ…。
そして、一旦家でお昼寝をするために、もそもそと布団へと潜り込むあたし。
ふにゃ〜。お休みなさ〜ぃ…。
あたしは幸せな眠りへと落ちていった。
目が覚めるまでは…。
—つづく—
最終更新:2009年02月23日 04:12