SIDE-K
新曲のプロモーションのための雑誌撮影は予想外に長く続き、
実際終わったのは深夜だった。
送りのワゴン車に乗ってから誰一人として喋っていない。
皆がどれだけ疲れているのか、容易にわかった。
「のっちさん、着きました。」
車が停まり、運転手さんの声が静かな車内に響く。
彼女は眠たそうにお疲れ様でしたと告げてマンションに入って行った。
妙に懐かしく感じる風景。
再び車が出て、遠のいて行く。
一週間だけなのに。
何かを欲している自分を蔑んだ。
しばらくして、ふと私の左手に温もりを感じる。
彼女が怒っているとも泣いているともつかない顔で私の手を握っていた。
「もっさん、今日ゆかちゃんとこ行くから。」
助手席のマネージャーにそう告げた彼女はより私の手を握る力を強めた。
彼女に触れられている部分が熱くなる。
そしてまた私の頭の中は反比例して冷めていく。
彼女は私の策に嵌まった?
それにしたら早過ぎやしないだろうか。
でもこの機会を利用しない訳にはいかないだろう。
瞬時に色々なことを考える。
自分でも頭の回転は速いほうだと思う。
しかもこんなことを考えるときほど速い自分が少し嫌。
結論が出るか出ないかのときに私の家に着いてしまった。
車を降りてからも彼女は手を離さなかった。
何か言ってくれればいいのに、彼女は黙ったまま。
部屋に入って取り合えずソファーに座らせる。
まだ手は繋がったままだ。
「あのさ…手離してくんない?お茶、出すから」
「やだ」
彼女が私を見つめる。
見つめられた私は彼女の隣に座るしかなかった。
「どうかしたの…?」
「それはこっちの台詞じゃ。」
「へ?」
「ゆかちゃんこそ、何かあったんじゃろ?」
「や…別に何も…」
「ごまかさんで。最近ゆかちゃん変じゃもん」
「変?どこが?」
「だって急にあ〜ちゃんのことベタ褒めしたり、その…好きって言ったり。
そんなことするのって、あ〜ちゃんにやましいことあるからじゃないん?」
「やましいことなんてある訳ないじゃろ」
「…あのスタッフさんと何かあったとかじゃないん?」
あのスタッフさんって今日楽屋に呼びに来た人だろうか。
確かにあの人は少し前、私にしつこく携帯番号を教えるよう迫ってきた。
さすがの私でも困っていた時、凄い剣幕で断ってくれたのは彼女だ。
「なーんもないよ。あれからちっともそんな話出んけぇ、安心してよ。」
「そーなん?じゃあ、なんで?」
勝負時ってこういう時。
さっき出せなかった結論を今瞬時に導きだした。
私は彼女の手を強く握り返す。
「ゆかちゃん…?」
「あ〜ちゃん。ゆかね…あ〜ちゃんのこと、好きなの。」
「それって…」
「そういう意味の好き、なの」
彼女の瞳が揺れたのを機に、私は彼女の唇に自分のを重ねる。
何度か重ねるうちに彼女から重ねるようになってきた。
この感じは、あの時の彼女だ。
それなら。
今だに繋がれた手をぐっと自分の方へ引っ張れば、
私は彼女に押し倒された様な体勢になる。
夢にまでみた景色が目の前に広がる。
長いパーマのかかった柔らかい髪。
洩れる声は私を一々興奮させる。
まだキスだけなのに頭の中が真っ白だ。
「はぁ、あ…ちゃん」
「…んっ」
「好きにして…いいよ」
私の言葉と同時に彼女の手は戸惑いながら、でも欲望のままに動きだす。
いくら純粋と言っても、彼女だって人間だから。
色々溜まってるのは当たり前で。
それに付け込むような自分は最低だとは思う。
でも今はそれでもいい。
愛しい彼女が私に触れてくれるなら。
久しぶりだからか、彼女だからか、限界がいつもより近い。
「ここ…?」
「あ、ぁん…や、もうっ、」
霞む視界に彼女の笑顔が見える。
「ねぇ…あ〜ちゃんのものになってくれる?」
私はその問いかけに大きく頷き、果てた。
目が覚めると昼過ぎだった。
行為の最中も、離れなかった手。
そして今も繋がれたままの手。
ソファーに私一人が毛布に包まっていて、彼女はその近くの床に座っている。
気づけば彼女はもう一方の手で私の髪を優しく撫でていた。
「おはよぉ、ゆかちゃん」
「…おはよ」
至近距離で彼女と目が合うと、昨日のことが鮮明に甦ってくる。
夢じゃない、よね。
確認のために繋いだ彼女の指に自分の指を絡ませた。
そこに温かみを感じる。
息を大きく吸えば、彼女の香水の匂いがする。
「あ〜ちゃん。」
「ん…?」
「好き」
改めて自分の想いを伝えれば、彼女は目を細めて笑う。
それだけで私は幸せを感じる。
「昨日言ったこと覚えとる?」
「昨日…言ったこと…?覚えとるよ。」
『ねぇ…あ〜ちゃんのものになってくれる?』
達する前に彼女が私に言ったこと。
彼女のものになるなんて本望に近い。
でも。
この言葉に少なからず私は彼女の本性を見た気がした。
つづく
最終更新:2009年02月23日 04:38