お互いの気持ちなんて確かめ合ったことも、口にしたことすらない。
だけど私があなたへの想いに気づいたとき、
同時にあなたも同じ気持ちでいることにも気づいてしまった。
嬉しかった。
でも怖かった。
溺れてしまいそうだから?
今までみたいに手に入れた瞬間冷めてしまうかもしれないから?
すべてを認めてしまうのが怖いだけ。
"幸せ"が怖いだけ。
きっとあなたも私の気持ちに気づいている。
あなたを手に入れてしまうのは怖い。
だから他の人を手にしてみる。
だけど、あなたは手の届くところに置いておきたい。
あなたは他の人のものにはならないで。
本当はあなただけに触れたい、触れられたい。
他の人を手にしたって満たされなくて、結局あなたを求める。
なんて自分勝手。
自分が嫌になる。
最後の一歩を踏み出せないでこの関係をうやむやにしようとしているのは、
ずるいフリした臆病な私。
だけど、あなたからその一歩を縮めてくれればいいのになんて思うのは、
ワガママで身勝手な私。
*****
私はのっちの部屋で雑誌を広げていた。
雑誌、漫画、DVD、興味はないけどゲームソフトやら、色々なものに溢れていて時間を潰すのに退屈しない。
出不精な彼女らしい部屋だ。
そんな彼女は私の斜め後ろ、ソファーに寝そべりながら呑気に夢中でゲームをしている。
今日は久しぶりのオフの日。
休日を自分の家で過ごすのは好きじゃない。
だけど買い物したり、誰かと遊びに行ったりする気分じゃない時に、私はよくここへ来る。
なんて、本当はそう理由付けているだけ。
彼女は知ってか知らずか、アポなしで突然訪れても迎え入れてくれる。
留守だったことはほとんどない。
「ゆかちゃん」
「んー?」
「せっかくのオフなのに、こんなトコにおっていいん?」
雑誌のページを見つめたままで、私は彼女に答えを返す。
「いいも何も・・・」
「ほっといていいん?・・・彼氏さん」
後ろを振り返ると、大きな瞳が私をまっすぐ見つめていた。
さっきまで夢中になっていたはずのPSPはいつの間にか床に放られている。
「あー…まぁ、ね」
「最近、忙しかったけぇ。会えてな「てかっ・・・」
のっちの言葉を遮って私は雑誌を閉じた。
そして後ろのソファーに寝そべるのっちの横に腰掛ける。
「別れたんよ」
もう驚きもしない大きな瞳を見つめた。
「なんで、また・・・」
のっちの手が私の顔に伸びる。
反射的にぎゅっと目を瞑ると、静かな動作で眼鏡を外された。
「冷めちゃった」
眼鏡を持ったままののっちの手に触れる。
次に何をされるか分かっているであろうのっちの身体が強張るのを感じた。
腕を掴んでそのまま覆いかぶさるようにキスをする。
一瞬だけ軽く触れた唇を離して、私はわざと冗談ぶって笑ってみせた。
こうなるって、分かってて聞いたんでしょ?
だったら、
「ねぇ、ぜんぶ忘れさせてよ」
眼鏡が小さな音をたてて床に落ちた。
ゆかちゃんはいつもこうだ。
好きな人ができて付き合う〜付き合いたてまではすごく好調。
なのにいつも何の前触れもなく、未練も残さずあっさり別れてしまう。
理由はいつも「なんか冷めちゃった」とか「思ってたのと違うんよね」とか曖昧なものばかり。
挙句の果てには「元々あんまり好きじゃなかったみたい」だなんて。
相手が可哀相だとは思わない。
むしろその度にほっとしている自分がいる。
きっと心の底では喜んでいる。
ねぇ、ゆかちゃん。
本当はゆかちゃんも同じ気持ちのはずだよね?
気が付いたらいつもキミを目線で追っている自分がいた。
そして、いつしかその視線が交じり合うことが増えた。
ある日、キミがその瞬間に見せた柔らかい微笑みで、キミも同じ気持ちであることに気づかされた。
だけど、キミはギリギリの距離で踏み止まっている。
触れようと思えばいつでも触れられる距離。
だけど、捕らえられる前に逃げることもできる距離。
その微妙な距離を埋めていいものなのか、未だ答えを出せない臆病な自分。
踏み込んでキミを失ってしまうのがいちばん怖いから。
その距離を縮めることが許されるのは、彼女からわたしを求めてくる時だけ。
決して振られたワケじゃないのだろうに、彼女が恋を失くす度、彼女を慰めるというカタチでわたしは彼女を抱く。
一時でも他の人のものになるくらいなら、ずっとこの手で捕まえていたい。
他の誰かの隣で笑うキミなんて本当は見たくないんだ。
だけど、捕まえたと思ってもキミはこの手からするりと逃げていく。
本当はずっと捕まえたまま放したくないのに。
これは、キミに知られてはいけないわたしの中の醜い独占欲。
*****
硬いソファーの上、ゆかちゃんを組み敷いて見下ろす。
細い腕が伸びてわたしの首に腕を回す道筋で、冷たい指先が首筋をなぞった。
「・・・んっ」
不意の感覚に声が漏れると、下にいるキミが満足げに微笑んだ。
さんざん人を煽っておいて、冗談ぶった口付けを繰り返して自分だけはまだちょっかいの延長線上にいるような表情のゆかちゃん。
だけど、わたしは知ってる。
その余裕なフリを外せるのは自分だけだということを。
荒々しく口付けて、強引に舌を絡め取った。
「ぁ・・・ふぁ」
漏れる吐息もぜんぶ逃がさないように、何度も唇を重ね、舌を絡め、吸い上げる。
首に回る腕の力が弱くなってきたところで、服の中に手を進入させた。
わき腹をなぞりながら、ブラの中に手を入れる。
ゆかちゃんの身体が小さく震えた。
「や、あっ、」
「もうこんななっとるよ、ここ」
耳たぶを甘噛みしながら、突起を弾いた。
「あっ、ぃ、っ言わんで、よ・・・」
「好きなくせに」
ブラごと服をたくし上げ、露になった胸に唇を寄せる。
舌で突起を転がして、もう片方を揉みしだくことも忘れない。
「ん、ぁあ…」
また、ひとつキミが甘い声で鳴いた。
ほらね、もう余裕なんて見せてられないでしょ?
こうしてキミを崩していくのがたまらなく愛しい。
胸から腰のラインを指でなぞるように移動させスカートの裾に手を入れると、白い太ももが露になった。
下着の上からそこに触れると、すでに湿り気を帯びている。
「濡れてる」
「・・・っ」
スカートの中から下着だけを抜き去って、わずかに強張る内ももを優しく撫で上げる。
そのまま手を進めながら、ゆかちゃんの顔を見ようと視線を上げると、乱れた黒い髪の隙間から白い首筋が目に入った。
誘われるように、そこに舌を這わせる。
そのままその首筋に噛み付こうとした。
「だ、だめ、痕が残っちゃぁ、」
その言葉に顔を上げると、しまったという顔をするゆかちゃん。
どうして痕が残るのが困るかなんて分かってる。
自分だって同じ立場なんだし。
それでもふと、過ぎってしまった猜疑心。
先週までゆかちゃんに触れることを許されていたはずのあの人は、
こんなゆかちゃんの姿を見たのだろうか?
違う手がこの身体に触れ、違う指がこの身体に熱を灯した?
この甘い声で違う名前を呼んだ?
いつも考えないようにしていたこと。
見ないふりをしていたこと。
ナ ニ カ ハ ズ レ タ
堪えていたものが一気に溢れ出すように、理性が言うことを聞かない。
「いいじゃん、別に」
抵抗を押さえつけて噛み付くように首筋を軽く吸い上げた。
ほんのり紅く染まった皮膚を確認すると、自然と口角が上がるのが分かった。
「それとも、誰か見るん?」
そう呟いた言葉は、自分でもびっくりするくらい低く響いた。
醜い独占欲がキミに見えてしまったとしても、もう抑えられない、黒い衝動。
「誰か見るん?」
彼女の冷たい声の響きと視線とは反比例して私の身体は熱くなる。
のっちはいやらしく微笑むと、それまで休んでいた指を動かし始めた。
突然の快感に思わず声があがる。
「あぁっ、んっぁ・・・」
のっちの指が私の入口を、私の心を、
焦らす、掻き乱す。
そして侵入してくる——
いつもより強引に
なんとも言えない圧迫感、
ほんのわずかな痛み、
「・・・・っん、ぁあっ」
あなたに侵される、支配されていく快感
——この瞬間がいちばん、いいの。
もっと高いところまでつれてって。
私をそこにつれていけるのはのっちだけ。
この指じゃなきゃダメなの。
そんなこと、あなたに初めて抱かれた時から分かってたのにね。
もう声を堪えるのなんて忘れてしまう。
薄めを開けると妖しく微笑むあなたの顔。
のっちの指がいちばん奥を突き上げる。
私の中が強くのっちを締め付けた。
わたしの手で達してしまったゆかちゃん。
肌蹴た服、ほんのり紅く染まった身体、半開きになった口、潤んだ瞳。
何かを探すようにシーツの上を彷徨うゆかちゃんの右手を捕らえて、指を絡めてしっかり握った。
ゆかちゃんにそんな顔をさせるのも、見れるのも、
もう、のっちだけで充分なんよ。
ごめんね、ゆかちゃん。
もう我慢できないんだ。
しっかり手を繋いだまま、腕の中でぐったりするゆかちゃんを強く抱きしめた。
そして首筋に唇を落とし強く吸い上げ、もう一度紅い印を刻む。
「ゆかちゃん」
揺れるゆかちゃんの瞳をまっすぐ見据えて言う。
「いい加減、のっちのものになりなよ」
もうこの手は離さない。
−end−
最終更新:2009年02月23日 04:42