N『……で、ですね。ここがこうなってこうなる訳ですよ。』
あたしの隣で一生懸命熱弁を奮うもあたしはほとんど聞いていなかった。
どうやって攻め落としてくれよう……。
それしか頭になかった。
N『あの…、樫野さん?聞いてないでしょ?』
K『うん。よくわかったねぇ〜。のっち賢いじゃん。』
N『また呼び捨てですか?』
苦笑いで流してるけど本気で嫌な顔はしない優しいのっちに胸がキュンとなる。
K『……ねぇ、今度のテストで良い点取れたらなんかご褒美ちょーだいよ。』
N『私からですか?』
K『他に誰がいるのよ、ここに。』
N『いや、まぁそうですけど。』
K『ねっ、ゆかがんばるからぁ。』
のっちの腕を取り上目使いに彼女の瞳を覗き込む。
N『……樫野さん、勉強は誰のためですか?』
……なかなか手強い。
K『え〜いいじゃーん。そんくらいの楽しみがないとやってらんないってばぁ。』
優しいのっちは多分なんだかんだ言いながらもあたしに合わせてくれる。
だって恋愛対象として見て貰えないあたしが出来る事と言ったら、子供扱いされてる優しさに付け込むしかないんだもん。
N『お金がかからない事なら…。』
K『え〜〜のっちのケチ、甲斐性なし!』
大丈夫だよ、お金はかからないから。
N『し、仕方ないじゃないですか。大人はいろいろあるんです。』
K『大人っても4つしか違わないじゃんっ。…ま安心してよ。お金はかからないから。ねっ!約束っ。』
N『そんなに言うなら全教科90点以上取れたらいいですよ。』
K『ひどっ!そんなの無理だよっ。』
N『そうですか…。なら約束はなしですね。』
優しく子供を諭すような顔で見てる。
それがやけに悔しかった。
K『……いいもん、がんばるもん!!』
N『ふふ、じゃあ約束です。私も出来る限り協力しますから一緒にがんばりましょう。』
テストは思った以上に手応えがあった。
恋するパワーってすごいねっ。
恋をしてる、改めて思うとくすぐったくなる。
そっかぁ、あたしのっちに恋してるんだよねぇ…。
叶わないかも知れないそれは胸を切なくもさせたけどそれ以上にパワーを与えてくれた。
絶対あたしの事見直させてやるんだからっ。
そしたらもう子供扱いしないよね、のっち…。
『よし、じゃあみんな席につけぇ。テスト返して行くからな。』
−−−×−−−×−−−×−−−×−−−
N『それで、テストは全部返って来ましたか?』
K『……うん。』
あたしは力無く返事をし、そっとカバンからテストを出し机の上に広げた。
あたしのテンションの低さにのっちも神妙な面持ちになる。
K『…………ジャーン!!見てよこれっ!あたしすごくない?!』
机の上に置かれたテストはどれも90点以上だった。
N『…あ、いや、本当凄いですよっ。テンション低いからもしかしたら、なんて心配して損しましたよっ。頑張ったんですね、樫野さん。』
これから出されるお願いを叶えなきゃいけないのに、自分の事のように心底喜んでくれる。
その姿に胸がきゅっとなる。
K『じゃあ…、約束叶えてくれるよね。ゆか頑張ったんだよ?』
甘えた視線を向けると、ニコリと笑って頭をぽんぽん、とされた。
軽くいなされ、少しくじけそうになるあたし。
N『仕方ないですね、約束は守りますよ。あ、でも無茶なお願いはきけませんからね。空を飛びたいとか…。』
苦笑いしたままののっちがムカつく。
もう、どんだけ子供扱いなんだっつーのっ。
K『……そんなの言う訳ないじゃん、ばかじゃないの?!』
子供扱いが悔しくてつい悪態をつくあたし。
こんなだから何やってものっちに大人として扱って貰えないのも解ってるんだけどね…。
K『ゆかのお願いはぁ…。』
ヤバイ緊張する…。
N『はい。』
熱い眼差しでのっちを見つめながらあたしはこう言った。
K『……のっちとキスしたいです。』
のっちはしばらく固まってたけど、急に明るい顔になった。
N『……またまたぁ、樫野さん冗談が上手いから危うくさっきみたいに騙されるとこでしたよ〜。』
K『冗談なんかじゃないよ…。』
余裕あるフリして凄い手の平に汗…。
N『え?』
K『約束したよね…。お願い叶えてくれるって。』
そう言って体ごとのっちに向き直った。
N『……あっ、わかった。あれですね。私が真に受けてオロオロするのを待ってる訳ですね。残念ながらその手には乗りませんよっ。』
K『ちがうよ…。本気だもん。』
のっちに相手にされていない事が何より悲しかった。
あたしがもっと大人の女の人ならちゃんと真剣に話を聞いてくれたのかも知れない。
けど、あたしはどうせ子供扱いされるだけの存在なんだ。
下を向いてただギュッと手に力を込める。
悔しくて泣きたくなるのをたえていた。
N『樫野さん…。本気なんですか?』
優しい口調が今は痛い。
コクリ
と言葉はなくうつむいたまま頷いた。
N『……わかりました。』
K『はっ?!』
驚いて思わずのっちの顔を見た。
N『いやいや、君が言い出した事ですよ?』
フワリとまたいつもの笑顔に胸を締め付けられる。
K『えっ、いやっだってっ。』
戸惑うあたしにお構いなしに眼鏡を外したのっち。
ゆっくり言葉もなく顔を近づけてくる。
その表情はいつものとは違って真剣そのものだった。
K『…っ。』
あたしは息を止め瞳を閉じその時をジッと待った。
チュッ
口づけの音がしあたしのおでこに優しいキスの感覚がした。
K『っ?!』
予想と違う展開に目を見開いて彼女を見ていた。
N『……あ〜、これで勘弁して下さい。』
はにかんだようなその笑顔は今までに見た事のない顔で、くすぐったくなるキスの余韻と合間ってのっちが幼くみえた。
K『……やばい、のっち可愛いっ。』
思わず口にした言葉でのっちの顔が赤くなった。
N『お、大人をからかうもんじゃありませんっ。』
K『うわ〜、顔赤くなってるぅ〜。』
N『か、樫野さんっ。』
これって期待してもいいよね、のっち?
(続く)
最終更新:2009年02月23日 05:04