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…オーマイガッ。
神様、ひどい仕打ちです。
あたしが大切に大切に守ってきた、天使のように汚れなき、純真無垢にして天衣無縫なあ〜ちゃんが、あろうことか可愛い笑顔ととろけるキャンディボイスの裏側に、鋭い刃物と一滴必殺の毒薬を隠す、暗黒の小悪魔ゆかちゃんの手に堕ちたなんて…!!
「のっち、うるさいけえ」
ゴチ、とあ〜ちゃんのげんこつがおりてきて、あたしはがくんと机に突っ伏した。
そのまま、フライドポテトの山に沈み込む。
放課後のマック。あ〜ちゃんと2人きりで向かい合って。
何でこんなパーフェクトな土曜日の午後にこんな死刑宣告を…。
しかも。あっちゃならんことに。
キ、キ、…キッスまでしおったそうな…!あの瞬殺の小悪魔め…!神をも恐れぬ所業をしおって!!
あたしは憤怒のあまり、マックのハッピーセット(おもちゃ付)をちゃぶ台よろしくぶちまけそうになり、あ〜ちゃんに容赦なく叱りつけられ、もはや魂の抜けた虚脱状態。
ええもう、あたしは死んで、魂は抜けて灰になって、埋葬されてます…。
そんなあたしの気持ちなんて知っちゃいないあ〜ちゃんは、耳まで真っ赤にしながら、んふふふふと思い出してはにやけている。
…あーあ。
やっぱ、可愛い。
あーもう、イヤになっちゃうくらい可愛いんだもん。
あたしは机に突っ伏したまま、ふごふごとポテトを犬食いした。
フライドポテトは、ひどくしょっぱかった。


あ〜ちゃんは、ゆかちゃんとつき合うことになったいきさつを、事細かに、お得意の擬音語を駆使して話してるけど。
そんなの、念仏みたいにあたしの耳を素通りしていく。これぞ犬の耳に念仏。
ああのっちは、ちっとも成仏出来そうにないです。
「もう、のっちちゃんと聞いとるん!?」
…へいへい、この話、3回も聞いてますよ…。
のっちの手紙にはちっちゃく「本命じゃけえ」なんて書いてなくて、でっかく「残さず食べんさい」しか書いてなかったですよ…。
「…ねえ、真面目な話」
あ〜ちゃんの声のトーンが変わった。
あたしは思わず顔を上げた。
あ〜ちゃんは両手で頬杖をついて、難しい顔をしてる。
「ゆかちゃん…、うちのことほんまに好きなんかなあ…?」
「へ!?つき合い出したんじゃろ!?」
「うん…でも…」
あ〜ちゃんは言いにくそうにもぞもぞしながら、
「…ゆかちゃんから、好きと言葉では言われとらんけえ」
…なんと。あの殺し文句の宝庫が。
今度はあ〜ちゃんが、ずるずると机に突っ伏して、こてんと額をつけた。
「ゆかちゃんの好きと、うちの好きは違うかもしれん…」
ゆかちゃんの、あ〜ちゃんに対する感情か。
それは、あたしには分かるようで分からないところがあって、その複雑さ故に、ゆかちゃんから攻めに出ることは無いだろうとあたしは勝手に安心していた。


ゆかちゃんとあたしは、多分根っこの部分で似たとこがある。何てゆうか、人間との距離感とか、自分のスタンスとかペースとか。
そして、あ〜ちゃんとの出会いが衝撃だった点が。
あ〜ちゃんは、多分あたし達の本質から、遠い、異なるとこにいる。
あたしは単純だから、そんなあ〜ちゃんがただ眩しくて憧れて可愛くて。
でも、ゆかちゃんは、もっと複雑な人格構成をしてる。
ゆかちゃんは人の感情や考えを敏感に読み取りながら、それを自分に反映してトレースし、内省する。
その合わせ鏡のように複雑な思考回路に、常に、一番長くいつづけたあ〜ちゃんという存在。
それはきっと、単純な憧れだけでなくコンプレックスとかネガティブなとこも深く刺激しながら、あまりにも長く存在し続けて、もはやゆかちゃんの一部となってる。
あ〜ちゃんの感情はもはや読み取ったり解釈したりする必要はなく、あ〜ちゃんの喜びはゆかちゃんの喜びで、あ〜ちゃんの痛みはゆかちゃんには耐え難いほどの痛みで。
それを切り離そうとすれば、血を流すくらい。失えば、生きていけないほどの。
…言葉なんかで言い表せないほどの、何ものにも代え難い感情。
あたしはその狂おしさに気付いてたから、あたしから抜け駆けのようなことはしない、と自制してた気がする。


「…大丈夫だよ、あ〜ちゃん」
あたしはあ〜ちゃんの頭を撫でながら言った。
「ゆかちゃんもうちも、あ〜ちゃんには嘘言ったこと無いじゃろ?」
…うん、と小さくあ〜ちゃんが頷く。
「じゃけえ、のっちが大丈夫って言ったら大丈夫!」
「…ワケが分からん」
そんな憎まれ口を叩きながらも、
「でも、アリガト、のっち」
と、いつもの晴れ上がった春の空のような眩しい笑顔を見せた。
…あーあ。
やっぱ可愛いよお。胸がキュンキュンするよお。
あたしは眉が八の字になってくるのを感じたから、無理矢理笑いながら、
「あ、でもさ、これからあたし、もしかしたらお邪魔かしら?…なーんて」
と自虐的に言うと。
「のっちのバカー!!」
ごいん、とあ〜ちゃんの鉄拳が飛んで来て。あたしはまたも机に突っ伏した。
「あ〜ちゃんは、のっちをそんな子に育てた覚えは無いけえ!」
…の、のっちも育てられた覚えは無いんですけど…。
「のっちが邪魔になるわけないじゃろ!?自分よりも他の2人のが大事なんは、うちら全員そうじゃろ?」
「…あ〜ちゃん」
「うちとゆかちゃんを信じんさいや」
今度はあたしがあ〜ちゃんに撫でなでされた(ちょっと乱暴だけど)。
あたしは泣きたくなるくらいの幸せな気分で、フライドポテトをむぐむぐ噛みしめた。


「あれ?あ〜ちゃんとのっち?何しよん?」
「ゆかちゃん!」
顔を上げると、ゆかちゃんが何しとんじゃアンタら、って顔でトレーを片手に立ってた。
「えっと、…のっちに相談があって」
「のっちに?」
ゆかちゃんは怪訝そうな顔をした。
「ゆかちゃんは?」
「軽く食べて、これからCDでも買いに行こっかな、と…」
「あ、のっちもつき合う!あ〜ちゃんは?」
あ〜ちゃんは残念そうに、
「今日はちゃあぽんの勉強みてあげるけえ、そろそろ帰らんといけん」
と立ち上がった。
帰ろうとするあ〜ちゃんの指をすれ違いざまにそっと絡めとるように握って、
「今日、夜電話するけえ」
とゆかちゃんが目を覗き込むように微笑んだ。
…な、何だこのスマートな、別れ際の恋人モード。顔が近い、近過ぎるよ!
あたしの憤慨の荒い鼻息には気づかず、あ〜ちゃんはときめきを鷲掴みにされたみたく頬を染めて、
「…じゃ、待っとる」
と小声で呟いて、いつもの甘く余韻の残る言い方で「ばいば〜い」とちっちゃく手を振った。
あ〜ちゃんの背中を見つめながら。今夜携帯を握りしめてゆかちゃんの電話を待つ姿を想像して、甘い痛みが疼いた。
のっちの目の前で容易にあ〜ちゃんの心をさらってみせたゆかちゃんは、何だか厳しい表情であたしの前に座って、
「…で?」
と冷たい声で一言。
「へ?」
「…で、あ〜ちゃんの相談って何だったん?」
ゆかちゃんはコーラのストローを軽く噛みながらあたしを見つめる。
「あ〜ちゃんが、ゆかじゃなくてのっちに相談って、何ね?」
「あ…、えっと…」
相談というより、主にノロケだったんですが…。しかしそんなこと当の本人には言いたくないなあ…悔しいから。


あたしがむがもごしてると、ゆかちゃんの温度が明らかに下がってゆく。こ、こわい。
ちょっとふくれた表情でストローを弄んでたゆかちゃんが、頬杖をついて小さくため息。
「あ〜ちゃんて…」
横を向いて窓の外を見ながら、ぽそ、と呟く。
「のっちといる方が楽しそうに見える」
…へ?
あたしは思わずゆかちゃんをガン見した。
ゆかちゃんはそんなあたしの視線をそらすように、そっぽを向いたまま。
下ろした前髪に隠れて表情が見えないけど。
こ、これはもしかして…。
「ヤキモチぃ!?」
「…うるしゃい!」
ゆかちゃんがぺいん、とあたしの頭をはたいた。
あたしは吹き出した。ゆかちゃんは「もう、言わんでもええんよ」とぶつぶつ呟く。
…あーあ、あたし達3人って。
なんて可愛いんだろ。
3人集まれば無敵になれるのに、自分一人だと自信なんか持てなくて。
自分より相手が大事過ぎて、おかしくなっちゃうくらい好きすぎて。
情けないくらい、愛おしいんだ。
でもさ。めろめろに弱くなるくらい失くしたくないものを持つのって、悪くない。
それって最高に可愛いことじゃない?
あたしがあったかい気持ちでにやにやしてると、ゆかちゃんが氷点下の微笑みで、
「のっち、キモい」
…ひどいっ。
ふん、でもまあいいのだ。
小悪魔にヤキモチ焼かれるなんて、悪くない。さすが、天使より小悪魔より上に立つ噛み様、と呼ばれるだけある。


そんな噛み様からの最終通告。
天使と小悪魔が、つつんでゆらゆら以上の関係(はあはあとかぬるぬるとか)に進展することは、この噛み様が絶っ対っ認めん!!
…ほんと、そこんとこ、ひらにひらにお願いしまつ…(あ、噛んだ)。


終わり





最終更新:2009年02月23日 05:06