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高校の卒業式の日。
その帰り道で、あたしはゆかちゃんに告白された。
最初、ゆかちゃんが言ってる意味がすぐに理解できなかった。

だけど、そんなあたしにもう一度『好き』という言葉を伝えてくるゆかちゃんに、あたしはどうしたら良いのか判らずに、何も返せなくて。
だって、ゆかちゃんはあたしに好きな人がいるのを知ってる。
なのに…。

結局、三年間ずっと見つからなかったんだから、例の人を卒業しても良いんじゃない?
って、その言葉に何も返せなかった。確かにこれ以上探しても、見つかる確率なんて低すぎる。
そう思ったら、そっと抱きしめてくるゆかちゃんの腕を拒むことなく受け入れていた。

嫌いじゃなかったら…。なんて、そんなのズルイよ。
嫌いな訳ないじゃん。でも、まだ心のどこかでもしかしたらって、諦めの悪い自分がいる。
こんな気持ちじゃ、絶対ゆかちゃんをキズ付けちゃうし、失礼だ。

だから、ちゃんとごめんなさいって伝えたのに。
ゆかちゃんは『その人が見つかるまで付き合うのはダメ?』って…。
冗談のノリで言ってるのも判ってるけど…。

2年生からずっと一緒で。
何かあれば笑って、あたしが泣いてる時に一番側に居てくれたのはゆかちゃんだった。
こんなに大切な人と、まだ一度しか会っていない人の為に、離れる事になっても良いんだろうか?
この先、見つかるかも判らないのに…。

あたしは…ゆかちゃんと離れたくなくて、ゆかちゃんの言葉に甘えてしまった。
『例の人が見つかるまで』という条件付で、ゆかちゃんと付き合うことを選んだんだ。


ゆかちゃんが良いと言ってくれるなら。
今のゆかちゃんへの好きは、きっと違うけど…。
でも、ゆかちゃんなら好きになれる気がしたから。

そう言ったあたしに『ゆっくりで良いから。』って優しく抱きしめてくれる。

ずっと泣きっぱなしだったあたしに、
『そんな可愛い顔のあ〜ちゃんを一人で帰らせられない。』
とか言って家まで送ってくれた。

その間ずっと、ゆかちゃんが離れて行っちゃいそうな、良く判らない不安にあたしは。
ゆかちゃんの手をずっと離さずに繋いでいた。

ゆかちゃんと離れたくない…。

この気持ちはウソじゃないから。

家の前まで来てゆかちゃんに『あ〜ちゃんと手ぇ繋げたし。』
そう言われてようやく、ずっと繋いでいたという恥ずかしさがこみ上げてきた。
だから、おもわず照れ笑い。今までだって、繋いだ事あるのにね?

くすぐったい空気の中あたしに『付き合うのって初めてだよね〜?』って確認してくるゆかちゃん。
もちろん初めてだから、ウンて頷くと『初めて同士だね?』そう言ってすぐに、ニコッと悪戯な笑顔をするゆかちゃんにイヤな予感がして…。

一歩離れたけど、繋がれたままだった手を引っ張られて、ゆかちゃんの方へと引き寄せられる。
軽く抱きしめられた状態で、ほっぺにたに感じたゆかちゃんの柔らかい感触に、顔が熱くなる。
だって、キスされるなんて初めてだし…。

『今日の記念だよ?』なんて、なんだか恥ずかしくてゆかちゃんの顔が見れなくて、思わず顔を背けちゃった。
でも、決してイヤな感じではない。


『例の人が見つかるまで』
そんな条件付で始まったゆかちゃんとの恋人という関係。

ゆかちゃんがくれるたくさんの好きは、すぐにあたしの中に溶け込んできて。
今までと違うゆかちゃん。
おっちょこちょいだったり、妙にカッコ良かったり、そんな一面を見つけたりして。
ゆかちゃんとなら、このまま一緒にいたいな、なんて。
あたしの思いが、少しずつ変化を見せてきたある日…。

今日はゆかちゃんが家に遊びに来てる。
相変わらず、あたしの顔を見てニコニコしてる。
あたしのこと見ると自然と笑っちゃうんだとか…。
それってあたし喜んで良いの?

で、今は何をしているかというと…。
『あ〜ちゃんのちっちゃい頃が見たーい。』て言うゆかちゃんのリクエストに答えて。
あたしのちっちゃい頃のアルバムを見ているところ。

ページをめくる度に、ゆかちゃんがキャーとか可愛いを連発している。
二人並んで見てるから、そう言われるとなんだか恥ずかしい。

そんなあたしを見て。また可愛いとか言ってくるから敵わない。
それと一緒に、ほっぺにチュッてしてくるゆかちゃんにたじたじなあたし。

そして、幼稚園の頃のページになって、ちょっとだけドキドキするあたし。
だって、そこには初恋の男の子も一緒に写っているから。

ゆかちゃんに呼ばれて、ゆかちゃんの方を見ると
『この子のこと好きだった?』
その子を指差しながら聞かれて、
『な、何で?』
『あ〜ちゃんの顔、赤い…。あ〜ちゃんの顔、素直すぎ…。』

あちゃ〜。もう、恥ずかしいなぁ。なんて思ったら、ゆかちゃんの手が頬を撫でてきてドキッとする。

『なんか、ちょっとヤキモチ…。』
いつものおどけた感じと違うゆかちゃん。
『でもほら、昔の事だしぃ…ね?』
頬に触れたままのゆかちゃんの手に、そっと自分の手を重ねながら言ってみる。

『…ぅん。分かってる。分かってるよ…。』
そう言ってあたしを見つめる瞳は、どこか不安げで胸がぎゅっとなった。


そのままいつも頬やおでこにしてくるキスとは違う角度で、ゆっくり近づいてくるゆかちゃんの瞳。
反射的にきゅっと目を閉じたあたし。
なんだけど…。
唇に触れるとばかり思っていたゆかちゃんのソレは、触れてこなくて。

変りにゆかちゃんの『へへへぇ。』って笑い声がしてきて恐る恐る目を開けるあたし。
『あ〜ちゃん、かぁわいぃw』だって。
『な、何?あ、の。キスじゃなかったの?』
いつものゆかちゃんに戻ってるのになんだか焦って、恥ずかしい事を聞いちゃったよ。

『んん?』
ちょっと意地悪な表情で聞き返してくる。
『だ、だってぇ、その、ゆかちゃんいつもと違ったからぁ…。』
『にぇへへ〜。キス…したかった?』
『べ!別に!そんなんじゃぁ…。』

『ふへへ。ぅん、分かってるってw』
あ…。まただ。
少し悲しそうに笑うゆかちゃん。

あ〜あ。って言いながら立ち上がるゆかちゃん。
『ゆかちゃん?』
『…私、帰るわぁ。』
そう言って、部屋を出ようとするゆかちゃんを呼び止める。しばらく止まってから、あたしへと振り返ってくれて。

『キス…はさぁ。あ〜ちゃんがしたいって思った時に…して?私のこと好きだなって思った時にさ?
ほら、やっぽソレは好きな人として欲しいから。私からはしないよ。…なんて、勝手なこと言ってるけどねw』

返事をする間もなく、じゃ、またね。って手を振って帰ってしまったゆかちゃん。

一人残されたあたしは、ゆかちゃんを見送りに動く事さえ出来ないでいた。


ゆかちゃんに、あの不安な瞳をさせているのは自分だ。それはきっと。まだあたしの中にいるのっちの事が原因。
ゆかちゃんに告白されてからは、探しに行かなくなったし、話しもすることはなかった。
正直、今ののっちへの気持ちはよく分からない。気にならないといえばウソになるけど。
以前より執着はないと思う。

そして、確実にゆかちゃんへの気持ちは変っている。
ゆかちゃんを思うことが増えて、キュンてなったり切なくなったり…。
キスされなかったのも、少し残念に思った。あたし、ゆかちゃんの事ちゃんと好きなんだよ?

………。
うん。よし!決めた!

ちゃんとゆかちゃんに伝えよう。今のあたしの気持ち。

伝えるなら、やっぱり直接言いたい。
明日は入学式の準備とかなんやらあるから…。

明後日…。入学式かぁ。
ちょうど良いかも。ゆかちゃんへの入学祝いにしちゃおっと。
う〜ん、やっぱ帰りに言うのが良いかなぁ?ゆかちゃんビックリするかな?へへ♪ちょっと楽しみ。

そう。ちゃんと決めていたはずなのに。
なのにあたしは…。

入学式でゆかちゃんの姿を見つけて近づくと
『おはよ。あ〜ちゃん。スーツ似合ってるね。』
『へへっ。ありがとぅ。ゆかちゃんも似合ってる。』
『んふっ。着慣れないから変な感じだけどね?』
『うん。わっかるぅ〜ソレw』

ゆかちゃんと笑っていると、ゆかちゃんは誰か見つけてみたいで
『あ、あ〜ちゃんごめん。また後でね?』
手を振るゆかちゃんをしばらく目で追っていると、ゆかちゃんが一人の女の子に声を掛けた。

…振り向いたその子の顔に、ドクンッとあたしの全身が一気に脈打ち出した。

何で?どうして?そんなの…なしだよ…。


あたしが三年間探し続けた、間違えるはずのないその顔。
記憶の中より少し大人びたけど、まだ幼さが残る君が届く距離にいる。
どれほど待ち望んでも、きっと来ないと諦めていたのに…。
それでもやっぱり、三年間の想いはそう簡単に消えるはずはなく、壊れてしまいそうなほど心臓が動く。

よりによって今日だなんて…。
ゆかちゃんに…好きだよって…。

—— その人が見つかるまで…。
告白してきたゆかちゃんの言葉を思い出す。
どうしよう…、分かんない。自分の気持ちが…分かんないよぅ。あたしはどうしたら良いの?

話し終わったゆかちゃんが戻ってきた。
『ぃや〜。良かった良かったぁ。あの子もちゃんと受かったんだ。』
『ゆかちゃんの友達?』
今あたしは普通に話せているんだろうか?
『あぁ、ほら試験の時に私の前に座ってた子。大本彩乃ちゃんて言うんだって。』
…そっか。あの時なんだか気になった後ろ姿。のっちだったんだ。

『あ〜ちゃん?どうしたの?』
『ぇ。ん〜ん?別に何も…。』
『ホントに?』
何も言わなかったあたしを心配してくれるゆかちゃんに、うんうんと首を縦に振る。

『ん。なら良いや。今度、あ〜ちゃんにも紹介するね?彩乃ちゃん。』
『うん。ありがとう…。楽しみにしてるw』
出来るだけおどけて見せる。

式の最中も全然落ち着かなくて、二人の顔が頭からずっと消えなかった。


帰り道。
ホントはあたしはバスに乗るんだけど、『ちょっと歩こうよ。』って言うゆかちゃと一緒に歩いてる。

『…あ〜ちゃん、やっぱり何かあったでしょ。』
『な、んで?』
突然の言葉に、動揺させられる。
『そりゃ、ずっと見てるもん。何か悩んでそうな顔してる。』

言ってしまったら、ゆかちゃんを傷付けてしまうのは必然だ。
そんなゆかちゃんは出来れば見たくない。
このまま言わないでいれば、ゆかちゃんと一緒に居れる。好きでいられる。
でも、そしたら約束を破ることになる。

約束は破りたくない…。

あたしが話すまで、急かすことなく待ってくれているゆかちゃん。
この優しい人を、傷つけてしまうなんて…。酷いね…。
これは、あの日あたしが選んだ答えの結果だ。

『あのね…。』
『ん?』
『…居た。の…。』
あたしはゆかちゃんの顔を見る事が出来なかった。

『居た?』
最初解らなかったみたいだけど、すぐに。
『…ああ。もしかして、例の人?』

『…うん。』
声が震える。泣くな。泣いちゃダメ。ゆかちゃんの方が泣きたいに決まってる。

『そっか…。じゃあ、約束守らなきゃ、ね?』
何も言えないあたし。
『あ〜ちゃん。』
返事の変わりに、だた顔を上げる。
『…ありがとぅ。ちょっとだったけど、付き合ってくれて嬉しかったよ?…大好き。』
その言葉に耐え切れず、涙が流れてしまった。
いつもなら触れてくる優しい手は、今は触れてこない。ただ、最後まで笑顔でいてくれたのが、少しの救いだった。

あたしも…、あたしも好きだよ。ゆかちゃん。
今日伝えるはずだった言葉を、心の中で呟いた。



次に見かけたゆかちゃんは、やっぱり落ち込んでいて…。側に行きたいけど、それはしちゃいけない。
それに、ゆかちゃんは一人じゃなかったから。のっちがずっと側に居てくれたから。
その内に、前のように笑うゆかちゃんを見れるようになって、のっちに感謝した。

日に日に仲良くなっていく二人を見て。
あたしはのっちには、声を掛けないことに決めた。
あたしがのっちと知り合う事で、ゆかちゃんがのっちと居辛くなるのはイヤだから。

ただ・・・。
想定外なコトにどうやらのっちと同じバスを利用するみたいで。
一緒の時間に乗る事も多々ある。
新しく出来た友達も、いつの間にかのっちのファンとか言ってるし…。
確かに、見た目は人を惹きつけるから、それも分からなくもない。

おかげで、のっちに関しての話題を日に何度か聞くこともある。
だから、自然とあたしの視線ものっちを追っているのに気付く。
もちろん、ゆかちゃんもそこに居る。

ダメだって解ってるのに。
のっちを見つけるたびに、のっちを知りたいという衝動に駆られる。

そして、ついに。
あの雨の帰り道で、あたしはのっちに声を掛けてしまったの。
思わず『のっち』って言ってしまってビックリさせてごめんね?
でも、ずっとずっと呼びたかったんだもん。だから許してね?

そこで触れてしまったのっちの優しさに、つい甘えてしまったあたし。
今の幸せな気持ちがあれば十分だから…。

告白なんてしないから。
友達になることを許して?ゆかちゃん。


Side A
—その1〜5の場合—fin





最終更新:2009年02月23日 05:21