『ねぇ…教えてよ。』
「や、すみません…。」

今日はバラエティー番組の収録。
セットチェンジの合間、他の二人は髪やメイクを直している。
途端に私に近寄るしつこい一人の影。

『何でよ、いいじゃん別にさ。』

ゲストとして一緒になった一人の若手芸人。
アドレスを教えてほしいと、しつこい。
正直、たくさんTVに出させてもらうようになってから、こんなことは毎回のようにある。
日によってあ〜ちゃんが、ゆかちゃんが、その標的になる。
どうやら今日は、私のようだ。

『彼氏、いないんでしょ?』
「…!!」

腰に手を回され、ビクッと反応して私は離れた。

『のっち!!…』

戻ってきたあ〜ちゃんの声に、芸人さんはスッといなくなる。

『大丈夫?』
「…うん。」

私には、この指輪が証明するように恋人がいる。
絶対に、他の人にはアドレスは教えない。

『だいぶ…しつこかったね…。』

あ〜ちゃんは私の頭をポンポンと撫で、大丈夫だよ、と眉を下げて笑った。
毎回断るのには、慣れていた。
だけど、今回の人のしつこさは尋常ではなかった。

『…また、聞かれたん?』

いつの間にか戻ってきたゆかちゃん…
そう、私の恋人も、話に加わる。

『何かのっち…体も触られてたんよ…。』

あ〜ちゃんは、彼女に説明する。
怒られる…!
私はとっさにそう思った。
どうして、ゆか達についてすぐ控え室に戻らなかったの?
どうして、声をかけられて立ち止まったの?
…彼女の心は、また嫉妬で埋め尽くされてしまう。
そう思った私に、彼女がかけた言葉はあまりにも意外だった。

『ごめんね、ひとりにして…。』

「えっ…。」

驚いた私の頬を、彼女は優しく撫でた。

『クスッ…。』

微笑む彼女。
…いつもと違う気がした。
触れられた頬が、少し熱くなった気がした。


◆◇◆◇◆◇

家に帰ってすぐ、私はベッドに倒れ込んだ。
私は、男の人が苦手だ。
あ〜ちゃんとゆかちゃん、二人がいないとほとんど会話も出来ない。

これっぽっちも消えない、腰に回された手の感触。
そして、あの時のいつもとは違う彼女の反応が頭に浮かぶ。
…消したい。
腰に残る、汚い手の感触を。

「……っ…!」

私は家を飛び出し、彼女の家へ急いだ。


『のっ、ち…?』

ドアが開き、息を切らした私の前にパジャマ姿の彼女が現れる。
突然来た私に、彼女は一瞬戸惑いを見せた。
だけど、すぐに微笑んで両手を広げる。

「…っ…!」

私は迷わず、導かれるまま彼女の胸に飛び込んだ。
彼女は何も言わず、そのまましばらく私を抱きしめた。

「部屋…入んなよ。」

彼女に促され、リビングのソファに並んで座った。
私はまだ、一言も発していない。
彼女はきっと、分かっている。
私がなぜ来たのか。
何をしてほしいのか。
彼女には、きっと。

「のっち…、」

彼女は私をぎゅっと抱きしめた。

「今日、怖かったね…。」

彼女は私の頬を両手で挟み、目の前まで顔を近づけてくる。

「腰、触られたんじゃろ…。」

私の目から零れた一筋の涙に、彼女はキスを落とした。
優しく覗きこんでくる、その瞳。
いつもとは違うその様子。
…やっぱり、彼女にはかなわない。

「ゆかが、消毒…しないとね…。」

…ほら。
彼女にはすべて、お見通し。

「今すぐゆかが、きれいにしてあげる…。」

優しく甘い口づけに、意識まで奪われそうになる。
ソファの上に押し倒され、私は涙を流しながら彼女を感じていた。

『んっ…。』

胸に触れていた手が、そろそろと腰の辺りを撫で始めた。

『はぁあっ…あぁ…。』

その時、ふと彼女の手が離された。
途切れた快感に思わず目線をあげ、覆い被さっている彼女を見る。

「消毒してあげたけぇ、もう大丈夫じゃろ…。」

えっ…。

「触られたん、腰、じゃろ?」

何…、やめなの…?

「腰はもう…今たっぷりキレイキレイ、してあげたけぇ…。」

彼女が言う意味が理解できず、私は、はぁはぁと息を漏らしたままでいた。
微笑む彼女が、天使なのか悪魔なのか、どちらか分からないような不思議な感覚に陥る。
そんな私を見て、彼女はクスッと笑った。

「それとも…もっと、ゆかが、ほしいん?」
『……!!!』

…それだ。私はもっと…彼女が欲しいんだ。
男の人に触られた感触を、消したいんじゃない。
私は…私は、彼女が欲しい。
彼女で、いっぱいになりたいんだ。彼女は指先で、私の顎を下から上へツーッとなぞった。

「のっち、言ってごらん?」

もう、抑えきれない衝動。
…彼女が、ほしい。

『ゆ、ゆか…ちゃんで、いっぱいに…なり、たいっ…!』

私は涙を流して彼女をねだった


「良い子…のっちは良い子だね…。」
『…んんっ…!!』

入ってきた彼女自身を、体全体で受け止める。

「…はぁ…、中…熱いっ…よ…!」

彼女の息が乱れる。
感じている私を見て、彼女も感じているのだと思うと、あまりの快感に鳥肌が立つ。

「はぁ…のっちぃ…。のっちの中、ゆかで、いっぱいっ…?」

彼女が、ほしい。
もっともっと、ほしい。
もっと、彼女を感じたい。

『んっ…、のっちの中、あぁ…ゆか、ちゃんで…いっぱいだよっ…!』

そのまま私は、ソファの上で何度も彼女に抱かれた。
力果てた私は今、彼女の腕の中にいる。

「ゆかちゃん…、ずっと、のっちのそばに、おってね…。』

私は彼女の腕にしがみついた。

「おるよ…。ずっと、ずーっと、ゆかはのっちのそばにおる。」

私を抱きしめる腕の力が、より強くなった気がした。

「クスッ…。」

  • のっちの場合 END-







最終更新:2009年03月17日 17:25