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『では、皆さん本番よろしくお願いしまーす。』

今日はバラエティー番組の収録。
全体での打ち合わせが終わり、それぞれ控え室に戻っていく。

「すみません。」

私は、ひとりの男性にそっと声をかけた。
私に声をかけられ、明らかに動揺するその人は、今年デビューしたばかりの若手芸人。

「あの…うちの、のっち分かりますか?」

この人なら、きっと…いける。

「のっち、前からあなたのこと、かっこいい…って、お会いできるのすごく楽しみにしていて。」

えっ…と目を見開く彼。

「のっち、彼氏…いないんですよねぇ…。」

私は得意の上目遣いをつかい、彼を見つめた。

「自分から積極的にいける子じゃないしなぁ…。ほら、のっち可愛くないですか?」

顔を赤くして固まる彼。
私はクスッと笑い、じゃあまた、とその場を後にした。


本番が始まり、途中、セットチェンジの間、私は髪を直してもらっている。
隣ではあ〜ちゃんがメイクを。

…のっちは…、来ない。
ドクッ…と私の胸は波打った。

あ〜ちゃんが先にスタジオに戻る。
タイミングを見計らい、私もスタジオに戻る。
するとあ〜ちゃんが、俯くのっちの頭をポンポンと撫でているのが、すぐに目に入った。

体中をこみ上げてくる興奮。
それに、私は痺れるような感覚さえ覚えてしまう。


「…また聞かれたん?」

私はスッと二人の間に加わる。
目を伏せるその愛しい人の表情に、口元がにやつくのを必死で抑えた。

「ごめんね、ひとりにして…。」

『えっ…。』

いつもとは違う、私の反応に、彼女は驚きを見せた。

「クスッ…。」

彼女の頬にそっと触れると、うっすら赤くなった気がした。


◇◆◇◆◇◆

家に着くと、私は高ぶる興奮を静めようとシャワーを浴びた。
でも、目を閉じるとまた彼女のうつむいたあの表情を思い出し、私の体はさらに熱を帯びるばかりだった。

髪をタオルでふきながら、ベッドに腰掛ける。

彼女は…、きっと来る。

その不確かで確かな自信を胸に、私はその時をじっと待った。

長い髪が、ほぼ乾いたその時。
静かな部屋に、玄関のチャイムの音が響いた。
ゴクリ、と喉が鳴る。
ベッドから玄関に行くまでの間、
私は、自分が人間の姿から獲物を見つけた獣の姿に変わっていくような感覚になる。

…彼女が、彼女がそこに、いる。

ーガチャッ

『のっ、ち…?』

彼女、が、やってきた。
私を求めて、彼女がやってきた。
待ちわびた愛しい人の姿に、私の興奮は最高潮に達する。
私は、自分の興奮がばれないよう、そっと優しく、だけど、離れないよう、ぎゅっと強く彼女を抱きしめた。

「今すぐゆかが、きれいにしてあげる…。」

途中、行為をやめると、物足りない表情で私を見つめてくる。
…言わせたい。あの、一言を。
そして、彼女を、私で埋め尽くしたい。

『ゆ、ゆか…ちゃんで、いっぱいに…なり、たいっ…!』

そして彼女は、私を求め、狂い始めた。


私は、私は悪くない。

『ゆかちゃん…、ずっと、のっちのそばに、おってね…。』

だって、隣の彼女は今、私を求めてこんなにも幸せそう。
お互い、求め合って、幸せで。
これで、いいの。
これが、いいの。

「おるよ…。ずっと、ずーっと、ゆかはのっちのそばにおる。」

私は、彼女を抱きしめる腕の力を、ぎゅっと強めた。

「クスッ…」

  • かしゆかの場合 END-





最終更新:2009年03月17日 17:26