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「おはようございます」
「おはよ、のっちv」
大きなテーブルで食事をして、学校に向かう準備をする。
「お嬢様、このブラウス少しシワが」
「あー…本当だ」
「新しいのをお持ちします」
そう言って、のっちはウォークインクローゼットの中に消えてしまった。
「のっち?良いよ、これでぇー」
クローゼットに向かって叫ぶと、中から小さくのっちの声が聞こえた。
「ダメですよ!樫野家のお嬢様が、シワの入った服なんてっ」
だって、背中だよ?
ブレザー羽織ったら解んないじゃん
背中を鏡に映し見る。
と、
「どわっ!」
ゴトンッガラガラ
のっちの叫び声と共に何かが落ちる音がした。
「のっち?!」
慌てて、中に入ってみると、のっちは大量の衣服に埋もれていた。
「大丈夫?」
「はい…破れてはいないと思います」
「服じゃなくて、のっちWW」
「あっ、はい私は大丈夫です」
ばつが悪そうに、頬を赤くするのっち。
「ふふっWW立てる?」
私はのっちに手を差し出す。
「すみません」
のっちは苦笑いをして、その手を握る。
起き上がらせようと力をいれると…
「キャッ」
反対に私が倒れてしまい、、、
「「!!」」
一瞬、何が起こったか理解が出来なかった。
でも、鳴りだす鼓動…
触れ合う唇からの温もりで、キスしているんだと解った。
私はのっちから素早く離れる。
「ごっごめん///」
「いえ、すみません///」
お互い顔が真っ赤。
てか、心臓が痛いくらい鼓動してる。
ヤバい、ヤバい!
「ブラウス、これで良いよ!」
「はっはい…」
「先!先、玄関行ってるね!」
恥ずかしさと気まずさで、私は部屋を飛び出した。
ヤバい!何よコレ!
キス、なんてしちゃったら…///
学校に向かう車の中、私はのっちとまともに目も合わせられなくて、ずーっと窓の外を見つめていた。
だって、のっちの顔みたら、思い出して…ヤバい、ゆか、今顔真っ赤になってる。
「お嬢様?」
「ん?」
そんな顔見られたくなくて、窓の外を見つめたまま素っ気ない返事をしてしまう。
「先程のこと、、、」

—…ドクンッ

「不愉快な思いをさせてしまって、すみませんでした」

—…なにそれ

「別に良いよ」
「しかし、、」
「良いってば!!」
怒鳴った私をのっちは大きな瞳をさらに大きくして見つめていた。
でも、すぐハの字眉の悲しそうな顔をする。
「すみません、お嬢様」


お嬢様…。
貴女に呼ばれると、こんなに苦しい。


のっちは私を名前で呼ばない。
いつも、お嬢様って。
なんでも良い…
ゆかちゃんでも、
ゆか様でも、
ゆかお嬢様でも、
名前を呼んでほしい。


机に頬杖ついて、そっと唇に触れる。
のっちは嫌、、だったのかなぁ…。

「ゆかちゃん?」
名前を呼ばれて我にかえった。
「大丈夫?」
あ〜ちゃんが心配そうに顔を覗き込む。
「うん、大丈夫」
いけない、あ〜ちゃんとお昼の最中だった。
「なんかあったん?」
「別に?なんも」
「嘘じゃね」
ビシッ!
「恋煩いじゃ!」
あ〜ちゃん、お箸で人指さないの。
「誰だれ?」
「いや、違うからW」
「え〜?嘘よぉー」
「嘘じゃないよ」
「ふ〜ん」
あ〜ちゃんはまだ納得出来ないような、疑ってるような目でゆかを見る。
てか、言えないよ。
だって…あ〜ちゃんは多分のっちのこと…

のっちもあ〜ちゃんだったら…

—…だったら、なに?

あ〜ちゃんだったら…

違うよ…そんな事じゃない…
大体、のっちがあ〜ちゃんを想っている訳じゃないし…
あ〜ちゃんだって、私の勘違いかもしれんし…

—…結局、私は何に悩んでるの?
のっちはいつも側にいてくれてるじゃん…
誰よりも近くに…

私は何が不満なの?


「嫉妬じゃん?ただの」
「なにが?」
「あ〜ちゃん!」
放課後の教室。
辺りに生徒は既に居なくなっていて、いつの間にか流れていた時間に気づかなかった。

「なんでもない」
「そう?じゃあ良いや。あ〜ちゃん今日、先生に呼ばれとるから先帰っとって」
「あー…うん、わかった」

そっかぁ…もう放課後かぁ…。

正面玄関まで来ると、正門が騒がしいのに気が付いた。

何事かと目を凝らすと…
「のっち…」
のっちが正門まで迎えに来てくれていた。

今日は車の日じゃないのに…。

入学当初、毎日車での送り迎えだったが、やはり友達と帰れないのは辛い。
危ない、とのっちは心配したけれど、我が儘を言って週に三回は歩いて帰っている。
今日は歩いて帰る日。

なんで、居るんよ…。

のっちは数人の女子生徒に囲まれて何か喋っていた。

相変わらずモテるなぁ…。

私は、そんなのっちが嫌だった。

いつもは、自慢なのに…。
今日は、、、嫌だった。

「バカみたい」
私は呟いて、履きかけた靴を手に校舎へ戻った。

吹奏楽部の音が漏れる廊下を抜け、体育館との渡り廊下から外へ出る。
テニスコートの脇を通り過ぎ、駐輪場を縫って、裏門から校内を出た。

それから、一度も振り返らなかった。


遠くでのっちの呼ぶ声が聞こえた気がしたけど、、、私は振り返らなかった。





少し寒い風が吹く中、私はお嬢様の学校の正門にいた。
今日が歩いて帰る日だと言うことは解っていた。でも、どうしても朝の事が気になって…。

「のっち?」
「綾香様」
待ち人ではなかったけれど、助かった。
綾香様の出現に、私を取り巻いていた生徒さん達は名残惜しそうに去っていった。
「相変わらずモテるね〜」
「いえ、」
「ん?ゆかちゃん待ってるの?」
「はい」
「てか、それしか無いかW」
「はいW…あれ?一緒ではないんですか?」
いつも一緒の二人が一緒じゃないなんて珍しい。
「あ〜ちゃん、先生に呼ばれとったんよ、、、だから先帰っといてって言ったんじゃけど…」
「まだ来てませんね」
「下駄箱見てくる」
トタトタと小走りで走っていく綾香様。


数分後、同じくトタトタと戻って来られた綾香様は少し渋い顔をして
「無かった」
と言い、
「歩いて帰ったんかなぁ」と続けた。

でも、ずっと此処で待ってましたよ?
ずっと此処で…

お嬢様?気づいて下さらなかったのですか?

お嬢様…

力無く車に乗り込み、運転手に帰るよう伝える。綾香様をお送りすると言う気遣いも出来ぬほど、私は落ち込んでいた。






最終更新:2009年03月17日 18:27