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  • side K-

カーテンの隙間から朝日が漏れて、薄明るくなった白い部屋。

心地よい眠りから目覚めたのはのっちの腕の中だった。
長い腕がしっかり私を捕らえて、指を絡めて手も繋いだままでのっちに抱きしめられていた。

こうして同じ朝を迎えるのは初めてだ。


同じベッドで眠っても、朝が来る前にそっとベッドを抜け出して帰るのが当たり前だった。
寝てるふりなのか、本当に寝たままなのか分からない彼女を一人残したまま。
心の底ではあなたが引き止めてくれるのを、追いかけてきてくれることを何度も望んでは後ろを振り返っていた。
始発待ちの駅のホームで寂しさと後ろめたさが混ざったような感情に襲われたのは一度や二度じゃない。


子供みたいな寝顔をしているのっちのおでこに小さくキスを落として、そっと彼女の腕とベッドから抜け出た。
帰るためではないその行為にいつもの後ろめたさは感じられなかった。

ダルい腰を押さえながら床に散らばったままの衣服と下着を拾い集める。
その光景が昨夜の行為の熱を思い出させるものだから、慌てて思考の隅に追いやった。
シャツだけを軽く羽織ってバスルームへ向かった。



*****



熱いシャワーを浴びながら、私の思考を支配するのはやはり昨日のこと。
それは行為自体ではなく、彼女の変化。


胸元に散った紅い痕。
初めて彼女が私につけた所有印。


その痕がつくのを拒んだ瞬間、彼女の目の色が変わった。

もちろん心から嫌で抵抗したんじゃない。
ただ仕事的にダメだと思っただけ。

というか、いつもお互い気をつけていたこと。

そんな当たり前のことが耐えられないくらい、彼女は必死だった?
こんな私に?


自然と笑みが零れる。

どうかしてる。
これくらいのことでこんなにも彼女が愛しいだなんて。


そして、昨日までの私はなんてバカだったんだろう。
自分が手に入れることばかりを考えていて、自分が誰かのものになるなんて考えたことすらなかった。
あの瞳に射抜かれるまでは。
今までの躊躇いや葛藤なんて、どこかへ行ってしまったみたいだ。


ああ、そっか。
私が今まで誰も手に入れられなかったのは、私が誰のものにもならなかったから。
誰かのものになりたいと思わなかったから。

そう、のっち以外には。


  • side N-


目覚めたのは一人きりのベッドの上。
わたしの腕の中に彼女はいない。
かすかな温もりだけ残されていた。


昨日、あれからゆかちゃんは泣いた。
そして何度も何度もわたしを求めた。
わたしもただ求められるまま、求めるままにゆかちゃんに溺れていった。

最後の高みに達してそのまま意識を手放してしまった彼女をしっかりと腕の中に収めた。
しばらくキレイな寝顔に見とれていたけど、彼女の呼吸に呼応するようにゆっくりと眠気に身を任せて眠りについた。
素肌は合わせたまま、キミの温もりだけは離さないように。


——もう離さないって決めたのに。

ゆかちゃんの手を握っていたはずの手を強く握り締めた。


いつも思っていた。
キミはなんてキレイにベッドから抜け出すのだろう、と。
猫のように物音ひとつ立てずわたしの腕からすり抜けていく姿にいつも息を潜めていた。

玄関の閉まる冷たい音に胸が引きちぎられそうになりながら、引き止めたい衝動を寝たをふりして必死に抑えていた。

本当は静かに身支度を整えるキミの腕を取って、もう一度この腕の中に収めてしまいたかった。
本当は遠くなっていくキミの後姿を玄関を飛び出してでも追いかけたかった。


いつもとは違う朝を期待していたわたしは愚かだったのだろうか?


始発なんてもうとっくに出ている時間。
無駄なことかも知れない。
彼女にとっては、やはりただの冗談で済ましておきたい程度の関係だったのかも知れない。


だけど、もう諦めたくないんよ。



*****



床に脱ぎ捨てられたままの服を適当に身につけ部屋を飛び出す。
そのままで玄関まで向かおうとすると、浴室からシャワーの音。

ゆかちゃん?

シャワーの音が止まって、浴室のドアが開いた。

「わっ!のっち、起きて、きゃっ」

言葉が終わらないうちに抱きしめていた。
ゆかちゃんの身体からバスタオルがはらりと落ちる。


明らかに戸惑っている彼女。
だけど、思うよりも先に身体が勝手に動いていた。


よかった。よかった。
ゆかちゃんがいる。


腕の中の温もりを確かめるように抱きしめる腕に力を込めた。


  • side K-


濡れたままの私の身体や髪がのっちの服を濡らす。


シャワーを浴びたあとタオルだけ持って浴室のドアを開けた瞬間、のっちの腕にさらわれた。


「ちょっ、のっち?どしたん??」


突然の出来事に頭がついていかない。
だってまだ私は身体も拭いていなくてびしょ濡れで、何も身につけていなくて。。
そんな状態でのっちに抱きしめられている。


だけど、のっちの手は震えていた。
抱きしめられた腕の中、そっと顔を上げるとのっちの頬に涙が一筋流れた。


「のっち、泣いてるの・・・?」


頭を横にぶんぶん振ったあと、のっちは私の肩に顔をうずめた。


しがみつくように私を抱きしめるのっち。
抱きしめられてるのに、逆に私が抱きしめているみたい。


「なんで泣いとるん?」
「わからん」
「濡れちゃうよ」
「かまわん」


のっちの腕の力が強くなる。
のっちの肩に私の前髪から滴る水が染みを作っていく。


「いつも、みたいに」


声を殺して泣くのっちの背中に手を回して、子供を宥めるように背中を撫でる。

「帰っちゃ、と思っ・・・」


浴室のすぐ横には玄関がある。

もしかして・・・寝癖のついたまま、慌ててそこらへんにあった服を着ただけの格好で、追いかけて来てくれようとした?


勝手な憶測かも知れない。
それでも、彼女がこんなに私に必死になっているのが嬉しくて、そして愛しい。


「ゆかはどこにも行かんよ」
「のっちの傍におって・・・」
「おるよ」
「ずっと?」
「うん、ずっと」


のっちの顔を両手で挟んで、こっちへ向ける。
濡れた大きな瞳を見つめた。


「だって、、」


ちゃんと想いを言葉にしなきゃ。
今度はゆかの番だね。


「ゆかは、のっちのもの、じゃろ?」


大きな瞳が更に大きくなって、眉もより八の字になった。


「ゆかちゃん、すき」

答える代わりに少し腫れた瞼にキスを。

「すき」

鼻に。

「すき」

頬に。

「すき」

唇に。

軽く触れ合っただけの唇を離して、小さく呟いた。

「ゆかも、すき」


はじめて口にした自分の気持ち。
今まで頑なに口にしてこなかった、閉じ込めていた最後の壁。
それでさえも、あなたはこんなにも簡単に決壊させてしまうんだね。


やばい、やっぱり、、恥ずかしい。
顔を背けようとしたら、のっちの指に顎を捕らえられて叶わなかった。
そして今度はのっちからゆっくり口付けられる。

深くはないけど、啄ばむようなキスを何度も何度も交わす。


「ゆかちゃん、もっかい言って?」
「・・・ヤダ、、無理」
「言ってよ」
「ばかのっち」

なんなんよ、もう。
さっきまで泣いてたのは、誰じゃろうね?


のっちの大きな瞳を見つめたら、照れたように更に眉を八の字にして笑った。
それだけのことが何だかバカみたいに嬉しくて、再びのっちの背中に回した手に少しだけ力を込めた。


ああ、やっぱりどうしようもなく、あなたが愛しい。



*****


「ねーのっちぃ。ゆか、服着たい」
「わわわっ!!ごめんごめんごめん!!!」

がばっと抱きしめていた腕を放すと慌てて私をバスタオルで包み、真っ赤にした顔を背けるのっち。

昨日、あんだけ隅々まで見て触りまくってたくせに今更、、ねぇ?
ってゆうか、恥ずかしいのはゆかの方なんじゃけど。。


髪の毛の水気だけ軽くタオルで吸い取って、もう拭く必要のなくなってしまった身体にシャツを羽織った。
のっちは壁と向き合いながら、ぷしゅーと煙が出そうなくらい真っ赤になって背中を丸めている。

そんなのっちの背中に後ろから抱きついた。

「ゆ、ゆかちゃん?」
「のっちはさー」


ねぇ、のっち、、
私があなただけのものなら、あなたは私だけのものなんでしょう?


「ちゃんと、ゆかのこと」


だからこれからは

ずっと好きにしていいんだよ?


「つかまえてなきゃ、ダメだかんね?」





*****



(おまけ)


「ゆかちゃん・・・お願いだからさ」
「ん?」
「服、、着ようよ、、」
「着てんじゃん」
「だって、それ・・・・シャ、シャツだけって!」
「だってこの方がラク」
「せめて下穿こうよ、ってか穿いて!」
「下は穿いとるよ。ほらっ」
「ちょっ!めくるなめくるな!!」
「なんよぉ。パンツくらい。さっきまで裸」
「わーわーわー!!」
「もぉっ、ぅるしゃぃっ」
「・・・・っせ、せめて前のボタンをちゃんと留めて、くらさい・・・・」
「えー、、じゃぁ、のっちが留めて?」
「・・・・!!(ぷしゅ〜)」


この小悪魔を飼いならすなんて、一生無理な気がしてきました。。(by のっち)



  • end-






最終更新:2009年03月17日 18:34