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「大本さん、もうちょい愛想よくしてね。うちは接客業なんだから・・・」
「はい・・・。すいません・・・」

あたしは週3〜4でCDショップでバイトをしている。
さっきあたしを怒ったのは、そこの店長。
人見知りなあたしは、なかなか接客になれない。
じゃあ接客業じゃないバイトにすればいいじゃないか?って言われそうだけど、折角働くなら好きなものに囲まれて働きたかったからCDショップにした。
だって自分の店番の時に好きな曲を流せられるんだもん。
だからちょっと怒られても、へっちゃらなのだ。

好きな曲を聴きながら、新しく入荷したCDを目立つ棚へと積む作業。
「すいません。aikoさんの新曲予約したいんですけど・・・」
背後から声を掛けられてた。
「あー、それでしたら、あちらの棚に予約・・・」

説明しながら声を掛けられた方向に体を向けると・・・
目の前にはあ〜ちゃん。
「おぉ、えぇぇえ!?あ、あ〜ちゃん、ど、どしたん?」
あたしはかなり動揺して、噛みまくってしまった。

「あはは。のっち、ビックリしすぎじゃろ」
「えぇー、ビックリするじゃろ・・・。だってあ〜ちゃんが来るとは思ってなかったし。」
「ごめんごめん。あ〜ちゃん、一度のっちが働いているトコ見たかったから来ちゃったの」
「えっ、そ、そうなの?」
なんか、自分がバイトしてるのを友達に見られるのって、恥ずかしいんですけど・・・。


「うん。ちゃんと真面目にバイトしてるか確かめにね!」
「あ〜ちゃんお母さんみたいじゃよ、それじゃぁw」
「あたしゃぁ〜彩乃が心配なんじゃよ〜。真面目に働いとるかの〜。」
「あはは。それはお母さんじゃなくて、ばあちゃんになっとるよー」
あたしはあ〜ちゃんの憑依芸に笑った。あ〜ちゃんも一緒になって笑った。

「ねぇ、のっち?バイト何時に終わるん?」
笑い終えたあ〜ちゃんが、急に訊いてきた。
あたしは店の柱に掛かってる時計を見て、
「んー、あと30分くらいだよ?」
と、答えた。

「じゃぁ、あ〜ちゃんそこの向かいのカフェでバイト終わるの待ってるけぇ。それで、一緒にのっちのおうち行ってええ?」
これまたビックリした。すごく嬉しいけど・・・困った、部屋汚いんだよな。
「いいけど・・・うち散らかってるよ?」
「そんなん、気にしない気にしない。行っちゃダメ?」
そんな上目遣いで言われたら、断れるわけないじゃないか!!
「来て来て!是非!」
興奮ぎみに言った。
「よかった〜。じゃあ、あっちで待ってるね〜」
あ〜ちゃんはカフェを指差して、店から出て行った。
あたしは俄然やる気を出して残り30分間、バイトに精を出した。

バイトが終わってあたしは、あ〜ちゃんを迎えにカフェへ行った。
夕飯どうしよっか〜?って二人で話してたら、あ〜ちゃんがカレーを作ってくれることになった。


スーパーで材料を揃えて、並んであたしの家まで歩く。
ヤバイ、それだけなのにこんなにドキドキするなんて・・・。

「ほんとだ〜。ゆかちゃんちに近いんだね」
「うん。のっちも最近知ったんだ。歩いて10分かからないかな?」
あたしの家と、ゆかちゃんの家は近所だった。
ちなみに二人とも一人暮らし。あ〜ちゃんだけは実家。

「そうだ!!かっしーも呼ぶ?家近くだし。寄ってみる?」
あ〜ちゃんにナイスなアイディアを提案。
「・・・あー、ゆかちゃん今日バイトじゃよ」
ゆかちゃんは居酒屋でホールスタッフとしてバイトしてる。
「そっか、バイトじゃ仕方ないね・・・。」

「なに〜?のっち、あ〜ちゃんよりゆかちゃんの方がええのぉ?」
あ〜ちゃんが茶化し出した。
「そ、そういうんじゃないけ。そういうんじゃ・・・」
「ふふ。ごめん、のっち。ちょっとイジめたくなっただけ。ほら、はよ行こう」
あ〜ちゃんはあたしの手を取り、小走りに家に向かった。

それは、あたしが初めてあ〜ちゃんに触れた瞬間。
ただ手を繋いだだけなのに、こんなに胸の鼓動が早くなるのは初めてだった。


自分の家に入って、あたしはとりあえず散らかった服や雑誌、ゲームソフトをクローゼットの中へ押し込む。
片付けている間に、胸の鼓動は落ち着いたみたい。
あ〜ちゃんはテキパキとカレーの準備に取り掛かる。

「あ〜ちゃんって家でいつも料理とかすんの?」
あまりにも手際がいいので訊いてみた。
「うん、するよ〜。」
「へぇ、偉いな。のっちは全然しないよ。いや、出来ないって言うのが正しいのかな?作れるのカレーくらいだもん」
「ええ、のっちダメじゃん。女の子は料理出来てなんぼじゃよ!」
「う〜ん、そうだけどぉ、自分の分だけ作るのって結構めんどうなんじゃよねぇ」
「あぁ、一人暮らしの人ってみんなそう言うわ。ゆかちゃんも言ってたけ。あっ、のっちテーブル拭いて」
「はーい」
あたしは言われた通りテーブルを布巾で拭く。
なんかここの部屋の主があ〜ちゃんで、あたしが遊びに来た人みたいな立場になっちゃった。

ご飯も炊けて、カレーも出来た。
あ〜ちゃんはサラダまで作ってくれた。
「いただきま〜す」
あ〜ちゃんが作ってくれたカレーはすごく美味しかった。

「美味し!あ〜ちゃん、天才!」
「ほんま?よかった〜」
あたしはスプーンを休まず動かしてほおばる。
「なんか、のっちの食べ方って子供みたいだね」
「ふへ?」
「だって口にいっぱい入れて食べてる」
あたしは一度口の中のカレーを飲み込み、中身を空にする。


「あー、ごめん。もう大学生なのにみっともないよね・・・」
「ううん。作った方から見ると嬉しいよ。だってすごく美味しそうに食べてくれるんだもん」
あ〜ちゃんはまたあの太陽みたいな笑顔をしている。
「・・・だって、ほんまに美味しいから」
あたしはその笑顔が眩しすぎて直視出来なかった。
「ふふ、ありがと」

ヤバイ、手を繋いでからあ〜ちゃんを変に意識してしまってる自分がいる。
部屋に二人っきりの状態が、嬉しくもあり、苦しくもある。
また胸の鼓動が早くなりそうだ。
ダメだ。あ〜ちゃんへの感情は封印しなきゃいけないのに・・・。

「のっち・・・」
「ん?何?」
「さっき、自分の分だけ作るのはめんどいって言っとったじゃろ?」
「うん・・・」
「で、さあ・・・あの・・・今日みたいに、あ〜ちゃんがたまに来て、のっちに料理教えるってのはどう?」
「へ?」
「あー!!やっぱり、今のナシ!!ナシ!!聞かなかった事にしとって!!」
あ〜ちゃんは、顔を真っ赤にして取り乱してしまった。

え!?あ〜ちゃんが、あたしの為に料理教えてくれるの?
チョー嬉しいんですけど。てか、なんで、あ〜ちゃんが慌ててるのかがわからんけど、ちょっと可愛い。

「えーダメだよ、もう聞いちゃたもん。あ〜ちゃん、教えてよ〜。」
あたしは、あ〜ちゃんにお願いする。
「・・・ヤダ」
素直じゃない、あ〜ちゃん。


「一緒に作って一緒に食べようよ。あっそうだ!かっしーも呼んで三人で作ればもっと楽しいよ、きっと」
「のっちは三人の方がええの?」
「え?」
「ううん。何でもない。・・・考えとくけ」
あ〜ちゃんは、何故か黙ってしまって残りのカレーに手をつけた。

カレーも食べ終わり、食器も洗った。
「それじゃ、あ〜ちゃん帰るけ」
え?もう?って気持ちはあったけど、しょうがない。
「んじゃ、駅まで送るよ」
あたしたちはまた、二人並んで駅まで歩く。

「カレーありがとうね。じゃ、気ぃつけて〜」
手を振ってあ〜ちゃんを見送る。
改札口に向かったあ〜ちゃんが、クルっと振り返ってこっちに戻ってきた。

「なに?どしたん?」
「のっち、今日のこと誰にも言わないで」
「へ?いいけど・・・」
「誰にも言わないで・・・ゆかちゃんにも・・・内緒にして」
「う、うん。言わ、ないよ・・・」
あたしにお願いする、あ〜ちゃんは真剣な眼差しだった。

「じゃあ、明日学校でね。バイバイ」
「うん。バイバイ・・・」
バイバイと言ったあ〜ちゃんは、いつもの穏やかな顔になっていた。
あたしが見たさっきの表情は気のせいだったのかな・・・。


いや、気のせいじゃなかった。
あたしはこの時はまだ、あ〜ちゃんが取り乱したり、内緒にしてって言った意味がわからなかった。
わかってたら、何か出来たのかな?
二人を助けられたのかな?







最終更新:2009年03月17日 18:38