朝のホームルーム 教室
今日は何かがおかしい。普通の学級ならこんなものなのかもしれないが。
違和感がある。雰囲気が暗いというか湿っぽいというかいつものように騒がしくない。
気になってゆっくりと教室を見渡してみる。窓際に目をやったところで違和感の正体に気づいた。
西脇がムッとしている。大本がオロオロしている。樫野がピリピリしている。
このクラスにおいていつも騒いでいるムードメーカーの西脇が黙っているところが大きい
のかもしれない。普段あの3人はいつも何かしら騒ぎ、笑っている。
しかし今日は違う。そこからクラス全体に雰囲気が伝染している。
樫野の笑顔が怖い。大本の眉毛の角度がおかしい。何があった?
学園祭一週間前にこれはマズい。担任としてもなんとかしなければなるまい。
こういうときはどうすればいいのだろう?3人の誰に聞けばいい?
あぁ~っ!わからん!!
ー昼休み 職員室
「あの、こしじま先生 ちょっといいですか?」
こういうときは彼女に聞くのが正解だというのが俺が出した解答。
養護教諭にして生徒から絶大な支持を得る俺にとって一番話しかけやすい女性だ。
まぁ、それでも話しかけるときにもごもごしてしまうのだが。
「えぇ、いいですよ。」
職員ラウンジに彼女を引っ張る。
「それが、クラスの雰囲気が変で。原因は見当ついてるんですけど解決策がなくて。」
彼女は困り顔の俺を見てクスクス笑う。
「もしかして西脇さん?」
「! なんでわかるんですか!?」
「昨日の放課後に保健室に樫野さんが来ててね、どうも西脇さんと大本さんがケンカして
間に挟まれちゃったみたいなの。お互いに意地の張り合いみたいになってて彼女が苦心
して仲直りさせようとしてもなかなかうまく行かないみたい。」
流石に生徒からの支持率No1だけのことはある。というか俺に相談して欲しかったと思って
ちょっと悔しかったりもする。
「どうすればいいっすかね?」
「う~ん。 やっぱり彼女たちに任せとくしかないよね。下手に手を出すとうまく行かないし。
彼女たちも悩んでるし、きっと3人だけにわかる融点みたいなのがあるんだよ。」
融点、か。俺が介入することで何かが変わるってこともなさそうだ。
「こしじま先生はそういうことありました?」
「うん。先生には関わってほしくなかったし、当時の私にしたら難しい問題だよ。
やっぱまだまだ子供だったし。でも解決するときは速いからね。しばらく見守ってあげたら?」
やっぱ経験者に聞くのが一番だ。
「そうですね。ありがとうございました。」
一番簡単で、正解に近いその解答。まぁもう少し待ってみるのも悪くない。
帰りのホームルーム 教室
なんかあっさりと解決した模様。いつも通りに戻ってる。拍子抜けだ。
「もぉ~、なんでプリントそんなにぐしゃぐしゃなんよ!?」
「ゴメンっ!今先生んとこ謝りに行ってくる!」
なぜか大本がこちらに走ってくる。
「中田先生っ!スイマセンっ!!こないだのプリントぐしゃぐしゃになっちゃって提出できない
状況なんであ~ちゃんかゆかちゃんにコピーもらって明日提出します!」
そう言って勢い良く頭を下げる。
何だ。そんなことかよ。俺はむしろお前らがケンカしたことの方が気になってたんだよ。
なーんて言えるはずもなく。
「あぁわかった。明日忘れるなよ。」
走って机に戻る大本。突っ込む西脇。優しく微笑む樫野。騒がしい教室。いつも通りだ。
落ち着く。このクラスはこうじゃなきゃダメだ。この温度がきっとこのクラスの融点だから。
一つ大きく深呼吸して。
「おい、帰りのホームルーム始めるぞー。 にっちょッック!」
「せんせー!声裏返ってます!」 西脇の鋭い突っ込み。沸く教室。
いつも通りの教室が帰ってくる。これが俺の一番落ち着く場所 かも。
最終更新:2008年10月10日 15:06