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「お先、失礼します」
バイト先へ挨拶して、スタッフ専用の扉を開ける。

「有香!!」
帰ろうと駅に向かおうとしたら声を掛けられた。
悔しい・・・声で誰だかわかってしまった。
「・・・あ〜、どうしたの?」
あたしは素っ気無い返事。
「どうしたのって?それが彼氏に言うセリフかよw夜遅いから迎えに来たんだよ」
そう、声を掛けたのは一応あたしの彼氏となっている人だった。

年は一つ上で、今風の細身でシュッとしてる感じの人。顔もファッションのセンスも悪くない。
でも、あたしはこの人のことはどうでもいい。


話は、まだのっちとは出逢っていない約3ヶ月前に遡る。

同じグループの子が入ってるサークルの飲み会に、あ〜ちゃんと一緒に誘われた。
二人とも嫌がったけど、友達同士の付き合いも何かと大変な為、断れずに渋々参加することになった。
あ〜ちゃんはモテるから、あたしは常に周りの男に対して戦闘態勢。
飲み会や合コンは、あたしにとって戦場だ。

そこに彼がいた。
彼は明らかに、あ〜ちゃん狙いだった。
何かとあ〜ちゃんの隣をキープし、ちょっかいを出してくる。
しかもあ〜ちゃんも満更でもない様子。
あたしはそんな状況は見たくなかった。
二人で笑い合っているのが、嫌だった。
彼の手が、あ〜ちゃんの肩に触れるのが嫌だった。
彼にあ〜ちゃんを奪われるのが嫌だった。


だからあたしは、彼にあ〜ちゃんを奪われないように、あ〜ちゃんから彼を奪った。
あたしは小悪魔になった。あ〜ちゃんを守る為に。
小悪魔になったあたしは、男を落とすなんてチョロかった。
彼もコロっとあたしに乗り換えた。
そしてあ〜ちゃんに触れさせないようにして、付き合ったものの気づいたら3ヶ月も経っていた。

「これから俺んち来ない?DVD借りてきたんだ。一緒に見ようぜ」
めんどくさいって思ったけど、断ると「何で?何で?」としつこく訊いてきそうだったから、行くと返事した。
『DVD』なんて、ただの口実ってわかってたけど、別に初めてじゃないし・・・。
それに一度、小悪魔になったあたしは、もう綺麗で純粋な天使には戻れない。

彼と付き合っててわかったことが、ひとつある。
それは見た目の爽やかさとは違って、かなりしつこい性格。
まるで蛇みたいにしつこい。
迫る時もしつこい。
最中の時もしつこい。
何に対してもしつこい。

あたしは着替えて帰る仕度をする。
彼は自分だけ気持ちよくなって、出すだけ出して、満足してベットで寝てる。

こんな蛇にあ〜ちゃんを取られないでよかった。
蛇にまかれないでよかった。
蛇に舐められないでよかった。
蛇の欲求不満があ〜ちゃんにブチまかれなくてよかった。


家の最寄の駅に着いて、改札口へ向かう。
そこには、あ〜ちゃんとのっちがいた。
あたしは反射的に柱の影に二人に見られないように隠れた。
何故、隠れたのかはわからない。
別に隠れなくてもいいのに・・・。
たぶん、あ〜ちゃんはのっちの家に行ったんだ。

二人の様子を見ると、なんだか神妙な雰囲気。
何をしゃべってるのかまでは、わからなかった。
話が終わったっぽく、あ〜ちゃんがこっちへ向かってきた。
あたしはまた身を潜める。

別にあ〜ちゃんに声掛ければいいじゃない。でも出来ない。
『あれ?あ〜ちゃんどうしたの?』
『のっちの家行ったんだ?ゆかも誘ってよ〜』
って、言えたらどんなに楽だろう・・・。

あ〜ちゃん、ゆかの隣はもう飽きちゃったの?
ゆかは、あ〜ちゃんの隣以外は考えられないよ・・・。

蛇なんかよりも、もっと危険な人物がいた。
のっち、言ったでしょ・・・あたしの居場所を狙ったら許さないって・・・。






最終更新:2009年03月17日 18:45