初対面の人苦手なはずなのに…。
ぎこちない表情で、二人に接していくのっちを見て可笑しくなりながら、ゆかちゃんの方を見ると。
ゆかちゃんも同じ心境だったのか、二人で吹き出してしまった。
良かった〜。変らない笑顔を向けてくれるゆかちゃんに、すごく安心した。
なにより、来てくれた事が一番嬉しい。
「…避けられてるかと思ったよ。」
その言葉に動揺してしまったけど。
「…近づいちゃいけないかなとか、思って…。」
そう答えたあたしに、「冗談だよぅ〜。大丈夫、解ってるって。」って言ってくれる。
ゆかちゃんの事が気になってたのも嘘じゃないけど。
ゆかちゃんと一緒に居るのっちを見てしまうこともあって、慌てて視線を外す事もあった。
続けてグイッと腕を絡めてきて、例の人のことを聞いてくるゆかちゃん。
朝からののっちとの事を思い出して、顔が赤くなっていくのが分かる。
それと…、久しぶりにゆかちゃんが近いっていうことも。それに拍車をかける。
別に、ゆかちゃんに対して、そういう気持ちが残っているわけではないけれど。
どこかに、伝えられなかった言葉が、消化しきれていない気がする。
「…声くらい掛けたんでしょ?」
ゆかちゃんの言葉に頷くと、すごく喜んでくれる。
「でも…。」
思わず、告白はしないって言いそうになったけど、それを言ったらきっと怒られるだろうと、止めておく。
途中で止めてしまったから、気にしてくれるゆかちゃん。
でも「何でもなぃ。」って誤魔化しながら、その手をとって中まで引っ張っていく。
中では、のっちがあたしの友達に話しかけられて、いっぱいいっぱいになっていて。
そんなのっちを救出に行く。
店員さんに案内されていく途中、二人がのっちのことを話してきた。
「ねぇねぇ。大本さんて、見た目クールだけど、話すと全然違うね?」
「あたしたちと話してる時、すごい照れて顔赤くしてて可愛かった〜。」
「あ〜、のっち人見知りだから。」
「だから、いつの間に仲良くなっちゃってるのよ?」
「ぃや、別にそこまで仲良いってわけじゃぁ…。」
「なぁに、今日だって一緒に来たじゃん。」
「そりゃ…家が近いからで…。」
誤魔化したいけれど、やっぱり無理みたいで。
「も〜、あ〜ちゃんも密かに大本さんファンだったなんてねぇ?」
「だよだよ。大本さんの話しても、あんまり興味なさそうだったのにさ?」
「あはは…。だからファンじゃないって。」
好き。
なんだから…。
案内された部屋に入り、席はL字になっていて、のっちとゆかちゃん。あたし達三人で別れた。
そして、一番に歌うのは?って話になって。
もちろん歌うのは大好きだけど、今日はのっちが居るから少し緊張するな。
なんて思いながら、意を決して手を上げようとしたら…。
その前に手を上げる人物が…。
「はい!大本彩乃。歌いまーす。」
のっちだ。
へぇ〜。結構、積極的。もしかして、のっちも歌うのが好き?
「聞きたい。聞きた〜い。」
皆で拍手しながら盛り上がったら、ハニカミ笑いののっち。
あ、今の可愛い…。
歌いだしたのっちの歌声は、すごく真っ直ぐで、カーンと響いて心を突き抜けていく。
その声にすらあたしの心臓は反応してしまう。惹かれてしまうの。
あたしはのっちに続いて曲を入れた。
歌いだしてちょっとすると、ゆかちゃんがのっちに耳打ちしてるのが見えて。
そのゆかちゃんの方を向いて、のっちが返すと、ゆかちゃんがのっちの肩に顔を乗せて、なんだか幸せそうに笑ってる。
その光景を目にして。ドクッとさっきとは違う鼓動が鳴り出し、さっきまでの想いは現実に引き戻されてしまう。
そうだよ。これ以上惹かれちゃダメだよ。
だから、この気持ちをこれ以上大きくしないために、あたしは最後にあの歌を歌うことにした。
高校の時に、まだのっちを探していた頃にのっちを思って歌っていた曲。
あまりにも、歌詞が自分の想いにはまり過ぎて泣いちゃう時もあったから、ゆかちゃんと二人の時にしか歌わなかったけど…。
これを歌うのも今日で最後にしよう。
先に、歌っていたのっちの曲が終って、大きく息を吐いて数秒のっちを見つめて。
後はただただ歌に今の自分の想いを込めるだけ込めて、最後まで歌った。
もう、叶わない想いを吐き出すみたいに。
ゆかちゃんと、友達二人と別れた帰り道。
…そうだった。のっちと一緒だったのすっかり忘れてた…。
あたしは勝手に一人気まずい気持ちだった。
そんなあたしに、唐突にあたしの好きな人がどんな人か聞いてきたのっち。
えっと、あたしのっちに好きな人いるって話したっけ?
あたしが答えずにいると、ちょっと戸惑い気味に
「ぁの、ほら、最後に歌った歌。あれってその、あ〜ちゃんが探してた人のことなのかなって…。」
「あ、そっか。ゆかちゃんとの事聞いてるなら、それも聞いてるよね?」
そっかそっか。そうだよね。それが別れた理由だもんね。
「う〜ん、どんな人か〜…。」
あたしはすぐ隣にいるけど、見れない人物を思い浮かべて考える。
あたしが答えると、「良い人そうだね?」って。自分のことなのにね?
そして、「上手くいくと良いね。」って言ってくれる。
応援してくれるのっちに、ありがとってお礼を言って。
でも、告白をするつもりはないって言うと、まぁ、当然のように何で?と疑問をぶつけてくる。
その理由を説明するけど、のっちは納得しないみたいで。
だから、もう少しだけ説明を付け加える。
のっちの側に居るその子に…ゆかちゃんに今度こそ上手くいって欲しいんだって。
でも、やっぱり納得できない表情ののっち。
ねぇ、お願いだから、あまりあたしの気持ちを揺さぶらないで?
「あ。これゆかちゃんには内緒だよ?きっと怒られちゃうから。」
そういうと、なんだか泣きそうな顔をするのっち。なんでのっちがそんな顔するの?
のっちには笑って欲しいのに。
だから、のっちのほっぺをむにっと引っ張って、思わず聞いてしまった。
「…のっちにはいないの?好きな人。」
急にしたもんだから、眉がハの字になってるw
そんなのっちが可愛くて、さらにむに〜っと引っ張って、出来るだけ笑ってみせる。
引っ張っていた手をぱっと離すと両頬を摩りながら
「…いるよ。好きな人。でも、その人は違う人が好きで…。だから片想い。」
片想い…。
今日の朝からたくさん書き加えられた、あたしの中ののっちプロフィール。
朝が弱くて、子供好きで、走るのが苦手で、真っ直ぐな歌を歌う。好きなことには積極的…。
最後に付け加えられたのは、出来たら増えて欲しくなかった内容で…。
その相手がゆかちゃんかもしれないとか思ったり…。ん〜ん、そうであって欲しい。
だって、まだゆかちゃんがあたしを好きだって誤解してたら、のっちにとっては片想いのなにものでもないから。
そしたら、いつかゆかちゃんとのっちの想いは叶う。
片想いは、切ないよ。…ね。
でも、だからって、こんな落ち込んでちゃいけない。
あたしは応援の意味を込めてのっちを誘い、公園でガンガン遊んじゃおうって提案をする。
戸惑ってるのっちの手を、半ば強引に引っ張って今朝の公園にやって来た。
誰もいない公園で思いっきりはしゃいで、楽しい気持ちを自分の中に入れようと必死だった。
のっちとはしゃいで、のっちと笑って…。
この時間がずっと続いたら良いのに。
いつの間にか水の掛け合いになって。
蛇口の塞ぐのに失敗したのっちが、盛大に水を自分に引っ掛けていた。
大笑いしながら、あたしはハンカチを取り出して、濡れてしまったのっちを拭いていく。
時々のっちに触れる手から熱を帯びていく。
「のっち、面白すぎ。…ホント、面白すぎだよぅ。」
のっち、好き。…ホント、大好きだよぅ。
こんなに側に居るのに、届かないなんてやっぱり苦しいよぅ。
笑ってるのに、泣きそうになる。
そんなあたしに気付いたのっちが、あたしの頭をぽんぽんて撫でてくれて
「あ〜ちゃん…泣く?」
って…。
大丈夫。って言いたいけど、最後まで言えなくて、いつの間にかのっちに抱きしめられていた。
「…ゆかちゃんには内緒にしとくからさ?泣いちゃいなよ。ね?」
その声がすごく優しくて。
あたしは、またのっちに甘えてしまった。
のっちの胸にしがみ付いて、何度か大好きなのっちの名前を呼んで泣き出したあたし。
今だけ…今だけだから。
だから、今はのっちの腕の中に居させて。
声は出さずにいたけど、涙はたくさん流れていた。
そんなあたしを、のっちは何も言わずに優しく抱きしめていてくれた。
その、涙と気持ちが落ち着いてきて。
鼻をすすりながらのっちに「…ありがと」って言うと、抱きしめていた腕を緩めてあたしの顔を覗いてくる。
でも、あたしは涙でぐしょぐしょな顔を見られたくなくて、顔を背ける。
それから、恥ずかしいからのっちから離れたいけど、のっちの手が肩に置かれたままで…。
こんなに、優しくしてもらって、その手を勝手に振り払うなんて出来ないから。
「離して?」
そう言うと、しばらくほけ〜としてたけど、自分の手に気付いて慌ててあたしから離れるのっち。
やっぱりのっちだ。
その姿に、自然と笑いがこみ上げる。
ひとしきり泣いたからか、気持ちもだいぶスッキリとした気がする。
まだ、好きは好きだけど。
まだ好きでいても良いよね?
だって、そんなすぐに気持ちを変えられるほど、器用じゃないから。
もう少しだけ…。
それから大学でのっちと顔を合わせたときに、泣き付いたのを思い出して、ちょっとだけ恥ずかしくなったけど。
それ以外は、今までと変らない日々だった。
あ、でも。ゆかちゃんと話せるようになったから、素直にそれはすごく嬉しい変化だった。
数日後にきたゆかちゃんからのメール。
これが、あたしの…。あたしとのっちの関係を大きく変えるきっかけになったんだよね。
それから、ゆかちゃんの本心を知ることにもなったの。
Side A
—その9〜10の場合—fin
最終更新:2009年03月17日 19:05