私は事あるごとに教師として振る舞った。
じゃないときみといる時間全てを本来の目的以外で使ってしまうから。
どこかで自分にストッパーをかけておかないと際限なく堕落して行く自分をわかっていたから。
出来る限り、教師と生徒の関係を崩したくなくて自分からきみに触れる事はなかった。
大切にしたいからこそ、今の立場のままうやむやに恋愛を持ち込めない。
結果、欲望には勝てず、理想だけが主張する、
一番曖昧な関係になってしまったのだけれど。
都合のいい時だけ教師面する最低な私。
ふと、きみの左手に違和感を覚える。
じっとそのキレイな手を見て違和感の正体に気がついた。
N『それ、最近買ったんですか?前は見なかったけど。』
きみは自分の左手に視線を落とした。
K『あ、これ?カワイイでしょ〜。』
そう言って自慢げに左手を持ち上げた。
彼女の左手の小指で存在を主張するそれ。
N『可愛いピンキーリングですね。』
K『これ、実は貰ったんだ。』
……誰に?
K『カワイイ、カワイイ言ってたら買ってくれるって言うから。』
……まさか。
N『……実はその人、樫野さんに気があったりして。』
K『どうだろうねぇ。まぁ、悪い気はしないよね。』
いやいや、何言ってんのゆかちゃん。
N『好かれて悪い気はしませんよね。』
いやいやいやいや、何言ってんのさ自分。
教師面した余裕な私を演じてしまう。
K『のっちは嫌な気持ちになんないの?』
!!!
きみはこちらに向かないままだったから不意をつかれた。
N『いや、別に…?』
ほんとバカだな私。
K『そうなんだ…。おっとなぁ〜。』
茶化しながらもやっぱりこっちは見ない。
K『あたしだったら、気になって仕方ないけどなぁ〜。』
私だって気になってるさっ。
K『……それか、”その程度”って事なんだろうね。』
私の気持ちが?
K『…………ねぇ、あたし達の関係って何なんだろね。』
教師と生徒。
頭をよぎる言葉に自分でショックを受ける。
こんな緊急事態にまだそんな事言ってるなんてホントに私はバカなんじゃないのか。
私は何も言えないまま、そのまま時間は過ぎて行く。
きみももう何も言わなかった。
教師役に徹するのも辛くなって来た。
もうそろそろいいかな。
いや、多分違う。
教師でいたい訳じゃない、カッコ付けたいだけなんだ私。
余裕ある振りして大人ぶってみせたいだけの実はカッコ悪い奴なんだ。
そんな自分に気付いて隠したくてまた必死でカッコつける。
それがますます事態を悪化させるとわかっていても。
あの日からきみは誘いをかけて来なくなった。
気付いたら一週間、私からも切り出せず。
清く正しく本来あるべき姿に納まる滑稽な私達。
当たり障りのない会話と態度が寒々しい。
週に数回一緒にいる時間は苦痛に満ち、ただ黙々と作業に勤しむ服役囚のような気持ちだった。
終身刑を言い渡され生きながらえるよりいっそ、死刑にされた方がまだ楽だ。
今日は珍しくきみは髪を束ねていた。
白い首筋に目を奪われる。
何日触れていないかな。
私がきみに触れていない間、きみは何を想ってた?
その間も左手の小指にはリングが輝く。
そもそも、何がきっかけでこうなったのか?
K『……、あのさ。』
突然の言葉に体に力が入るのがわかった。
K『付き合って欲しいって言われちゃった……。』
主語はなくても何の事言ってるかはわかる。
K『どうしよ……?』
私に聞くのは止めて欲しいから。
N『……樫野さんのやりたいようにするのが一番だと思いますよ。』
K『そんな模範解答聞いてる訳じゃないよ…。』
K『どんな時でものっちは”先生”なんだね。』
静かな口調がきみの覚悟を物語ってる気がした。
K『のっちの家行くんだって成績次第のご褒美。』
下をむいたままのきみにかける言葉が見つからない私。
K『”あたし”って何?!のっちから求めてくれた事なんてないしっ!会うのはカテ教の日だけで外でデートする訳でもないしっ!なんでもかんでも成績次第っ!』
口調を荒げるきみ。
K『何がしたいの?!………もぅ、やだっ。』
顔を両手で多い隠し何かをこらえてる。
その左手に光る指輪がとても目障りだった。
(続く)
最終更新:2009年03月17日 19:11