「のっちぃぃーーーーー!!!」
遠くであたしを呼ぶ大声。
誰よ。恥ずかしいじゃん・・・。
大声で呼んだのは、ゆかちゃんだった。
パタパタとこっちへ走ってきた。
そしてあたしの腕に自分の腕を回した。
ゆかちゃんなのにまるで、あ〜ちゃんのような人なつっこさ。
「のっちぃ、これから午後まで授業ないんじゃろ?」
「う、うん」
「ゆかもないから一緒にいようよ」
「え?」
なんだ?ゆかちゃんがとってもフレンドリーだ。
急にどうしたんだろ?今まであたしには腕組みしてこなかったのに・・・。
心の声が顔に出てしまっていたみたいで、ゆかちゃんが不思議な顔をしてた。
「どしたの?のっち、すごくハノ字眉だよ?かわいい」
かわいい!?今まで、ゆかちゃんにそんなこと言われなかったから、ちょっとドキっとした。
「な、何?急に?か、かっしー、のっちに対してキャラ変わってね?」
ゆかちゃんに訊く。
「のっち、噛み噛みw。別に変わってないよぉ。普段どおりじゃけ」
「え〜、そ、そっかな?」
「そうなの!ねぇねぇ、それより大学抜け出してどっか行かん?」
「へ?ど、どこへ?」
「そうだ!映画見に行こう!!ゆか、今見たいやつあるんよね」
そう言って強引にゆかちゃんは、あたしを映画館へ連れてった。
ファーストデーでもなくレディースデーでもない平日の午前中の映画館は空いていた。
ゆかちゃんがチョイスした映画は、妹の些細な嘘のせいで、姉とその恋人が離れ離れになってしまう悲恋ものだった。
あたしたちは一番後ろの真ん中の席に座った。
周りには人はいない。広い会場にあたしたちを入れても10人いるかいないかだった。
結構おもしろい映画で、隣にゆかちゃんがいるのを忘れるくらい見入ってしまった。
突然、肘掛に置いていた左手を握られた。
握ったのは、隣に座っているゆかちゃんしかいない。
何で!?驚いた。
急なことにビックリして、映画そっちのけで、隣のゆかちゃんを見る。
でも、ゆかちゃんは素知らぬ顔でスクリーンに釘付け。
あたしは振り払うのも変だと思って、そのままゆかちゃんに握らした状態にした。
そのうち、放すだろうと思ったら、結局映画のエンドロールが終わるまで握られたままだった。
何故だ?何で彼女はあたしの手を握っていたんだ?
訊きたかった。でもなんとなく訊けない雰囲気だった。
「あ〜、なんかちょっと泣いちゃった。」
「・・・うん」
「え!それだけ?のっち、ちゃんと映画見てなかったの?」
「ちゃ、ちゃんと、見てたよ。お姉ちゃん役の女優さんキレイだったね」
あたしは誤魔化す。
「あんた、女優の顔しか見てなかったん?」
「そ、そんなことないけ・・・」
「まっいいや。のっちと映画の感想言い合うのは出来そうにもないけ・・・。そろそろ大学戻ろう?」
「うん。そうだね」
なんだか、ゆかちゃんのペースに振り回され放題。
「あっ!のっち、映画見たことあ〜ちゃんにはナイショね?」
「へ?なんで?」
「だって、ゆかとのっちが二人で見たって言ったら、あ〜ちゃん仲間はずれって思っちゃうかもしれんでしょ?」
「でも別にあ〜ちゃんは、そんなコトで仲間はずれされたなんて思わないんじゃない?」
あたしは珍しく反論する。
「そうだとしても!!それに、ナイショにしてた方がドキドキして刺激的じゃろ?」
ゆかちゃんはすごくヤンチャな笑顔で答えた。
『内緒にしてた方がドキドキして刺激的じゃろ?』
もしかして、この前のカレーを作ってくれた時のあ〜ちゃんも、こういう意味の内緒だったのかな?
でも、あの時のあ〜ちゃんは、今みたいなゆかちゃんみたく楽しそうにしてなかったような・・・。
「のっち!!!」
考え込んでたら、またゆかちゃんに思いっきり大声で呼ばれた。
だから、大声で呼ばれるのは恥ずかしいのに・・・。
「もー、何ボーっとしとんの!!はよ、大学戻るよ!!」
ゆかちゃんは、またあたしの手を握って駅まで引っ張っていった。
大学に戻ってあ〜ちゃんとお昼を食べる為、二人で食堂で場所取り。
授業が終わったあ〜ちゃんがこっちに気づいて、手を振ってきた。
あたしたちも、手を振り返す。
「えー、二人とももう食べてるん?ちょっと、待っててくれてもよかったじゃん」
あ〜ちゃんは、あたしたちが先に牛丼と生姜焼き定食を食べていたのが気に食わなかったらしい。
「ごめんごめん。だってのっちが先に食べちゃおうぜ!って言ったから・・・。ゆかは待ってようって言ったのに・・・」
ゆかちゃんは、あたしに冤罪の罪を被せる気のようだ。
「ええー!?かっしー、それヒドくねw?あ、あ〜ちゃん!のっちはそんなコト一言も言ってないからね!!!」
あたしは全力で全否定。
「ふーん・・・。あ〜ちゃんは、ゆかちゃんのコトを信用するけぇ」
「え〜、マ、マジで・・・そりゃないよ・・・」
あたしはショボくれた。
ゆかちゃんはまたあのヤンチャ顔で笑ってる。
あ〜ちゃんは家から持ってきたお弁当を食べ始める。
あ〜ちゃんは、ショボくれているあたしに見かねて一言。
「もー、何時までヘコんでるんよ!あ〜ちゃん、もう怒ってないから、はよ食べんさい。食堂のおばさん片付け遅くなって困るじゃろ!」
「はい!!」
あたしは急いで牛丼を口にかきこんだ。
午後は三人一緒の授業。
午後の授業がすべて終えると、ゆかちゃんはバイトだ!!って叫んで、あっという間に帰ってしまった。
取り残されたあたしとあ〜ちゃん。
「のっちはバイトあるの?」
「いや・・・今日はないよ」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
しばしの沈黙。
「・・・んじゃ、帰ろうか?」
あたしが沈黙を破る。
「のっち家に帰ってなんか、やることあんの?」
「ゲーム?かな」
「それって今日やらなきゃいけんことなの?」
「いや・・・別に今日じゃなくても平気だけど・・・」
「じゃあさ・・・一緒に映画とか見に行かない?」
「映画?」
「あー・・・嫌なら別にいいんじゃけど・・・」
これってデジャヴ?
一日に2回も映画に誘われてしまった。
別にそこまで映画好きってワケじゃないけど、折角あ〜ちゃんが誘ってくれてるんだ。
行くしかないでしょ!
「全然嫌じゃないよ。行こうよ、映画館!!」
「ほんまに?」
「うん!!」
あたしはまた午前中に、ゆかちゃんと一緒に行った映画館へ向かった。
着いた時間に間に合った上映作品は、午前中見た映画しかなかった。
あたしたちが席に着いたら丁度暗くなって、映画の予告編が流れた。
同じ映画だけど隣に座ってるのは、ゆかちゃんじゃなくて今はあ〜ちゃん。
それを意識してしまうと、益々映画に集中出来ないでいた。
一度見といてよかった。あ〜ちゃんに、感想聞かれても何とか答えられる。
二人の間にある肘掛にあ〜ちゃんの左手が置いてある。
あ〜ちゃんは、午前中のあたしみたいに映画に見入っている。
あたしは急にあ〜ちゃんに触りたくなった。すごく触りたかった。
だからあたしはゆかちゃんの真似をして、あ〜ちゃんの左手を握ってしまった。
すごい緊張した。
左手を握られたあ〜ちゃんは驚いて、あたしを見た。
スクリーンから放たれる光しか無い暗闇で目が合った。
その暗闇の中でもあ〜ちゃんの顔はよく見えた。まるで天使のような可愛さだ。
先に視線を逸らしたのはあ〜ちゃん。
そして、あたしの右手を握り返してきた。
あたしたちは映画のエンドロールが終わるまで、手を握り合ったままだった。
繋いでいる間、心臓がやまかしくて映画に集中出来なかった。
なんであの時、ゆかちゃんはあたしの手を握ったんだろう?
なんであの時、あたしはあ〜ちゃんの手を握ってしまったんだろう?
ゆかちゃんの時はただの気まぐれだと思ったんだ。
あ〜ちゃんの時は今思うと、やっぱり握っちゃいけなかったんだ・・・。
ごめんね。もう、謝っても手遅れなのかな・・・。
最終更新:2009年03月17日 19:14