K-side
朝。
窓から差し込む光に照らされ、
目が覚めた。
遠くでは小鳥が鳴いてる。
確か、カーテンは閉めたはずだったんだけど。
「眩し・・・」
むくりと起き上がり、
うーんと伸びをする。
なんだか心地良い。
いつもとは違う、朝。
「あっ」
のっち。
歯でも磨いていたのだろう。
カーテンを開いた張本人が部屋に戻ってきた。
「起きたんじゃね。おはよ、ゆかちゃん」
「おはよー」
冷静に振舞うも
熱を帯びていく頬。
それは決して、
朝日のせいなんかじゃないことくらい気付いていた。
ゆかちゃん、
そうのっちに名前を呼ばれるたびに
心臓がやけにうるさくなる。
切なくて、嬉しくて、
突然、触れたくなる。
「・・・ん?ゆかちゃん?」
ベッドに近づいてきたのっちのスウェットの裾を掴む。
それはぎゅっとぎゅっと。
本当は、
直接触りたい
はずなのに、
いつも一歩手前で足踏みする。
早く触れたい
なのに、
戸惑ってしまう。
だって、
あたしとのっちは
曖昧な関係、だから。
手を繋ぐ、
抱き合う、
そんなことは何度でもしてきた。
だけど、キスはしないし、
それ以上のことももちろんしない。
あたしはのっちに好きだと言った。
のっちもあたしに好きだと言った。
だけど、その「好き」の本当の意味は
あたしが求めていた気持ちだったのか、
そうじゃなかったのか・・・未だ分からない。
なんとなく、顔を見られたくなくて俯く。
期待してる私はきっとどうかしてる。
「どーしたん?甘えたいん?」
へへっ、と笑って上から頭を撫でられる。
覗き込まれるよりも何倍だって嬉しくなる。
ただ、触れていることが。
繋がってるって、そう思うから。
いつもそう。
殻を破いてくれるのは
いつものっちから。
「ゆかちゃんはー、ずるいなあ」
そう言って、さっきの問いにコクリと頷くあたしに
照れ笑いしながら、ベッドに腰掛けたのっち。
違うよ。
ずるいのは、のっちのほうだよ。
あたしだけを勝手に舞い上がらせて、
本気にさせて。
「ゆかちゃん、おはよう」
「うん・・・」
また朝の挨拶を繰り返す。
でも、さっきと違うのはあたしたちは同じ目線の高さにいて
のっちがあたしの手を握っているっていうこと。
そして、
あたしの心臓が張り裂けそうだということ。
だから、思わず目線を部屋の隅へと追いやってしまう。
「ねえ、ゆかちゃん?」
ふと名前を呼ばれてどきっとする。
そして、名前を呼ばれたほうへ顔を向ける。
いつもと違う、彼女の雰囲気に胸がざわつく。
「のっちはどこにも行かないよ?」
いつもは子供っぽく笑うのっちが
ふふっ、と上品に笑う。
なんか、大人、って感じで。
繋いだ手がやけに熱くなってきて。
ドキドキする心臓がなんだか気持ちよくて。
「のっちぃ・・・」
無意識に
その名を呼ぶ。
無意識に
その胸に寄りかかる。
そして、
全てを受け止めてくれたのっちの腕の中は
暖かくて、
柔らかくて。
「ゆかちゃんは、甘えんぼさんじゃねー」
そんなからかう様な声も甘く聴こえて、
まだ指を絡めたままの手は
より一層きつく結ばれて、
身も心もトロトロに蕩けた。
「ねえ、好きだよ、のっち・・・好きだよぅ・・・」
全身でのっちを感じるように
ギュッとギュッとしがみついた。
「もー、この子は朝っぱらから仕方ない子じゃねぇ」
そう言いながらも背中に回された腕の力が強まって
ぐっと引き寄せられる。
さらにさらに距離が縮まる。
心音がうるさいくらいに加速する。
「だってぇ・・・」
こんなに近くに居るのに、
「好き、だから・・・」
これじゃ、やっぱりあたしだけが好きみたいで。
この手を離したら、
のっちがどっかに飛んでっちゃいそうで。
「・・・ほんと、困った子じゃー。のっち、そんなお子様のお守りばっかりやだよ?」
やっぱり、ずるい。
のっちはくすりと笑って
ゆらりゆらりとあたしの言葉をかわす。
こんなに真正面からあたしはぶつかってるのに・・・
なんでこうも余裕なの?
「・・・お子様じゃない、もん」
「あ、そか。そーだよね。ごめん、ごめん」
思わず募る苛立ち。
本心じゃ無いのに、きつく当たってしまう。
もちろん、のっちが悪いんじゃない。
自分の気持ちを上手く形に出来ない
弱いあたしが、悪いだけ。
全部分かっているのに
なにかしら理由をつけて逃げているあたしは
やっぱりお子様なのかもしれない。
そして、
こんな態度とは裏腹に、
この場所から離れたくない気持ちが
時を追うごとに強く、激しく、
痛みを感じるほどに大きくなる。
「子ども扱いじゃ、や、なの・・・」
のっちだって、強く求めてよ。
あたしを欲しい、って言ってよ。
いつも、あたしだけがねだって、
それにのっちが甘えさせてくれてるだけじゃん。
そんなのあたしのワガママに
のっちが付き合ってくれてるだけじゃん・・・。
「そんなこと、のっちはしてないよ?」
「してる・・・」
意味の無い
子ども扱いを
してる、してない、合戦はいくらか続いた。
穏やかなのっちに不機嫌なあたし。
「ゆかは本気なんだよ・・・?」
のっちのこと。
切り出した。
いろんな意味でうんざりしてきた頃、だった。
遊びなら止めてよ。
そろそろ、取り返しがつかなくなるの。
行き場を失った想いが
涙となって、のっちの肩を濡らす。
泣き声交じりになったあたしに気付いたのか、
のっちはあたしの後頭部をポンポンと優しく撫でた。
それはまるで子供をあやすかのように・・・。
ほら、また、子ども扱いするでしょう?
「じゃあ・・・聞くけど」
そうのっちは言うと、
何かを決心したかのようにふう、とため息をついた。
「ゆかちゃんはのっちを本気にさせてどうするつもり?」
「・・・え?」
顔を上げて、のっちを見る。
まっすぐに前を向いているのっちはやけに真剣な顔で、
あごのラインがきれいに見えた。
「・・・ゆか」
初めてのっちから名前で呼ばれた。
のっちの顔がこっちを向く。
大きな瞳に捕まえられて、
あたしは身動きが取れなくなった。
そして。
不意に重なる
唇と唇。
「ずっと、こうしたいって思ってた」
唇が離れた後、
あたしはやっぱり身動きが取れなくて。
また、唇が触れてしまうんじゃないかっていう距離で
「愛してる」
愛のことばを囁かれた。
そして、のっちの吐息を肌で感じて、
そのことばが嘘じゃないことを再確認する。
嬉しい以外の気持ちには出来ないはずなのに
涙がぽろっと零れる。
「泣くなよー」
へへへ、とまた子供っぽく笑うのっちが
やっぱりあたしは一番好き。
「しょーじき、ゆかちゃんを守れるか、分かんなかったから・・・ごめん」
だから、
恋人
という立場になるのを恐れてたんだ、
と彼女は言った。
「そんなこと・・・」
なんで、一人で決めるの?
なんで、あたしは守られてるの?
「でもね、ゆかちゃんを泣かせちゃったら元も子もなかったよ」
のっち、こういうところダメだよなあ
とそう一人でため息をついた。
ダメじゃない。
全然ダメなんかじゃないのに。
何にも分かってなかった
あたしのほうがダメなのに。
「守られてるよ、ゆかは」
「え?」
「のっちにちゃんと守ってもらってる」
まだ繋がれたままの指はもう一つになったかのように解けなかった。
そう、これだけで、あたしはのっちに守られてるんだよ?
「じゃあ、ゆかちゃん」
「なに?」
「のっちの彼女になってくれますか?」
答えの代わりに
そっと、唇をのっちに重ねた。
END
最終更新:2009年03月29日 21:29