一歩建物に入ると、そこは異空間だった。
一言では言うことのできない、タバコとお酒、香水の混ざったような
なんとも言えないにおい。
大音量で床まで響く音楽。
お化け屋敷みたいな(?)暗さ。
ライブハウスとは違う、空間。
わたしはゆかちゃんを守るとかえらそうなこと
思ってたくせに、しっかりゆかちゃんのレザージャケットのすそを掴んでいて、
ゆかちゃんの後を付いて行くだけ。
うん、すでにヘタレっぽい。
でも、のっちはヘッドフォンで爆音で音楽を聴くのも大好きだから、
自分の声もつぶされてしまいそうな大音量に心が踊るのがわかった。
ゆかちゃんは振り返って何かしゃべったけど、音楽が大きくて、何を言ってるかわからなかった。
首をかしげると、のっちの耳元に顔を近づけて、「HIP−HOPのフロア行こう、ね?」と言い、
ジャケットのすそを掴んでいたのっちの右手を掴んで、階段を上がっていく。
こんなとこで、女の子同士がはぐれないように手をつなぐのなんて、考えてみたら
ごく普通のことなのに、なんか、いつもと雰囲気が、空気が、違う、気がする。
のっちの思い込みかなあ。
相変わらずさらさらストレートの後頭部を見つめながら、思った。
それとも、のっち自身がなんか意識しちゃってる・・・様な気もする。
だってなんか心配。
ゆかちゃんって男の人に抱きしめられたりしたら折れちゃいそうだし、
見た目こんなに女の子らしいのに、
平気平気、っていいながら冒険しちゃう危なっかしいところとか・・・
目が離せないんよ。
そんなことを考えながら
ワンフロア上がると、ヒップホップのフロアに着いた。
その上は、テクノらしかった。
とりあえず私たちは大勢の人でごった返すヒップホップのダンスフロアで踊ることにした。
「今日はテクノを忘れちゃおっかぁ!?」
ゆかちゃんが満面の笑顔を向けてそう言った。
振りが決まってるいつものダンスをガッツリ踊るのも
大好きで、気持ちいい。
3人の振りがバシッと揃ったときなんか、最高。
だけど、リズムだけに身を任せて自由に踊るこうゆうスタイルも、新鮮で、いい。
バンドのライブと違って、自分だけの世界に入れるところも、いい。
あたまん中真っ白にして、何も考えなくてもいいところが、いい。
いつのまにかゆかちゃんとのっちの手は離れていて、
ドリンクチケットをゆかちゃんはスプリッツァーに変え、
のっちはジーマに変えた。
ゆかちゃんってお酒強いんだっけ?
スプリッツァーって確か、ワインのソーダ割り、だよね?
ワイン系は結構きついんじゃ・・・
と思ったけど、大音量の中、大声で余計な会話をするのもめんどくさかったし、
ゆかちゃんの耳元に顔を近づけて話すのが恥ずかしくなってしまって、やめた。
恥ずかしいなんて、いつもはこんなじゃないのに。
思い思いに体を動かしていると、突然。
のっちの腰に変な感触。
明らかに後ろの男の人がのっちの腰に手をまわして、踊っている。
おいおい、外じゃ痴漢じゃろ、この行為・・・
暗いし、顔は見られてないから、のっちだと気づかれているわけではなさそうだった。
ゆかちゃんの方にずれてその手から逃れようとしたが
その男もついてきた。しつこい!
後ろを向いて「やめて下さい」
と言おうとした瞬間、
もう一本腕が右から伸びてきて、のっちの腰に手を回し、強引に体を
その男から剥がした。
ゆかちゃんだった。
ゆかちゃんはのっちを見るでもなく、その男に文句を言うでもなく、
ただ当たり前のように踊り続けている。
のっちの腰に手を回したまま。
「あ、ありがとう・・・」
い、今のっち一応お礼言ったんだけど、100パー聞こえてないよね。
だってめっちゃ声小さかったもん。じ、自分でも聞こえんかった。
のっち、守れてないし。自分すら。
いや、これはのっちがヘタレなわけではなく、
今日のゆかちゃんが・・・いつもと違うんよ。
お酒のせいか、ゆかちゃんのせいかわからないけど、
いやいや多分両方なんだけど、とにかくドキドキが止まらなくてヤバイ。
てゆうか、密着度もヤバイ。
ゆかちゃんは左腕でのっちの腰に手を回して、密着してるから
のっちは直立不動っぽくなってるんですけど・・・
特に右手のやり場が無くて困ってるんだけど、どうしたらいいの?
これは何が正解なんだろう・・・・
チラッとゆかちゃんの顔に目をやると、
ゆかちゃんもこっちを見ていて、目が合った。
のっちの心臓は不整脈のように、乱れた。
(続く)
最終更新:2009年03月29日 21:35