「ぎぃやぁぁぁああ!」
断末魔の様な叫びが、爽やかな休日の朝に響く。
ここは大本家。今、家族は皆旅行中で家にはのっちだけ。その唯一の住人は、洗面所で青ざめていた。
のっちです。事件です。目が覚めると、あ~ちゃんになっていました。
あぁ、ついにゲームのし過ぎで幻覚が見えるようになってしまったに違いない。寝よう。もう一回寝て、起きたら元に戻ってるんだきっと。と言うより、きっとコレが夢なんだ。早く起きなきゃ。
フラフラと寝室へと向かう。眩暈がする。しかも、パジャマが酷くピンク色に見えてならない。起きなくちゃ。あ~ちゃんとゆかちゃんが遊びに来るんだ。早く起きて部屋を片付けなくちゃ。
ゴツン、思いっきりドアに足の小指をぶつけた。激痛が走り、言葉にならない叫び声を上げる。
「夢じゃ…ない…、」
今の痛みで完璧に目が覚めたのっちは、ベッドに飛び込んで丸くなった。
なんでなんでなんで!なんでのっちがあ~ちゃんになっとるん!?顔も、声も、全部あ~ちゃんじゃけぇ!
落ち着いていられない。とりあえず、あ~ちゃんかゆかちゃんに連絡せにゃあ…。携帯を持つ手がブルブル震える。
ピンポーン♪
チャイムがなった。ビクッてなって手から携帯が落ちた。あわわわわ、どうしよう。パニックでおかしくなりそうだ。
すっぽり布団を頭から被ってひとまず深呼吸。落ち着け、落ち着け彩乃。とにかく出なくちゃ。「ごめんなさい、今大本さんなら留守です」ってニッコリ笑って。出来る、のっちなら出来る。
そう自分に言い聞かせて、布団を被ったまま玄関に向かった。のそのそと、ジブリのアレみたく。
玄関の扉をそっと開いた。ほんの数センチ。その隙間を恐る恐る覗いた。眩しい光に目がチカチカする。そこには濃い影が。
マズい、チラリと見えた。絶対ゆかちゃんだ。来るの早過ぎ。今の姿を見られちゃマズい。慌てて扉を閉めようと思ったら、ガンッと鈍い音がして、下を見ると足が扉の隙間に。これじゃ閉めれない。
あわわわわ。あたふたするしかない。どうしよう。どうしよう。
「のっち、」
「今、ちょっと取り込み中じゃけ…」
「あ~ちゃんが大変なんよ!」
「なんですとー!」
その一言にバァン!、と勢い良く扉を開いた。そこにはビックリ顔のゆかちゃん。あ~ちゃんが大変って大変だよ!
「どこ!あ~ちゃんはどこ!?今すぐのっちが助けに行くけぇ!」
布団を投げ捨て、駆け出…そうとして首根っこを引っ掴まれた。子犬みたいに。
「落ち着いて。あ~ちゃんならそこ、電信柱の影じゃから」
「……!」
電信柱の影には、パーカーのフードを深く被って、あ~ちゃんにしては珍しいボーイッシュな格好で、モジモジしている姿が。
「…あ~ちゃん…?」
「あ~ちゃん、コッチ来んさいよ。のっち、入って良い?」
「あ、うん」
あ。てゆーか。忘れてました。のっち今、あ~ちゃんの姿なんじゃった。あわわわわ。どーしよ、ゆかちゃんにバレた。ブルブルガタガタ。
「…あ、あたし…」
「うん。状況は、なんとなく分かっとるけぇ」
ゆかちゃんが頭を撫でてくれた。なんか、ホッとする。ゆかちゃんは大人だ。こんな状況で落ち着いていられるなんて。
ちょっと待て。肝心な事を忘れてた。のっちがあ~ちゃんと言う事は、あ~ちゃんは…
振り返ると、電信柱からひょっこり姿を現す影。
「ま じ で す か 。」
そこには自分がいた。頭痛がする。もう何が何やらサッパリ分からん。
のっちは投げ捨てた布団を、再び頭からスッポリ被って家に入るのだった。
◆1:End◆
最終更新:2008年10月10日 15:17