K-side
電話をかけた。
繋がれば良いな、
なんて思いながら
発信音に耳を澄ませる。
「・・・もしもし?ゆかちゃん?」
思ったよりも早く繋がってしまった電話に
少し、戸惑いを覚える。
だけど、
なんてこんなにも
彼女の声は愛しいのだろう?
そして、
こんなにも
胸を焦がされているあたしは
なんて単純なんだろう?
「うん、ゆかだけど」
「だけど・・・って、ゆかちゃんから電話かけてきたのにぃ」
ははは、と笑って
何かご用事でも?
と、のっちはそう問いかけてきた。
一瞬にして華やかな空気感。
のっちが笑うだけで、
こんなにもあたしは幸せになれる。
電話をかけた理由なんてもちろん無い、
そう言えば、嘘になるかもしれない。
だけど、そんなことも含めて、
とっくに気付いてるくせに。
やっぱり、そんなあなたは意地悪なひと。
「まあ・・・用事って言うか、飛行機雲がさ、ちょー長いからさ、のっちも見てるかな?って思って」
なんだか、それが悔しくて
窓の外を見ながら、
とっさに思いついたことを言った。
「うーん?飛行機雲ぉー?・・・見えん!のっちんちから見えんな」
そんななんとなくの一言。
そう、
なんでもない一言。
だけど、
あたしには
あなたとの距離が遠い。
ただ、そう感じたの。
物理的に、ということでさえも
あたしの胸はこんなにも締め付けられる。
もしかして・・・
物理的、だけじゃないのかもしれない。
と、
そんな考えが頭を掠める。
「めっちゃ長いんだけどなー。見えないかー」
冷静を装い、普段どおりに会話を進める。
のっちも普段どおり。
「んじゃさ、写メしてよ、写メ」
電話切って、待ってるからさ
そう付け加えたのっち。
やだ、そんなのやだよ・・・
いかないで、
あたしのそばに居て・・・
「待って!切らないで!」
「・・・え?」
「・・・電話、切らないで」
あまりにも必死な声を出してしまった。
これじゃ、のっちに駄々こねてるだけ・・・
自分の身勝手さにため息が出る。
なんで、こうも一人ぼっちを寂しがるの?
のっちがいつだって側に居てくれてるのに。
優しく笑ってくれてるのに。
なんで、あたしはそんな幸せの永遠を願ってしまうのだろう。
あたしの欲は留まることを知らなくて、
手放す恐怖感と比例するようにどんどん膨れ上がっていく。
だけど、
それを上手く言葉に出来なくて。
結局はのっちのことを困らせてしまう。
あたしはのっちの声が聞きたい。
その子供っぽい笑い声が聞きたい。
会いたい、
って、そう言いたいの。
「分かった、切らないよ」
のっちはそんなあたしに気付いてか
優しい口調で話し始める。
「いいこと、教えてあげよっか?」
「なに・・・?」
「あのね・・・」
すぐ消えちゃう飛行機雲のときは
天気に変化は無いらしい。
そして、
「雲が長い、ってことは長時間雲が残ってるってことだから、
もうそろそろ天気が悪くなるかもしれないね」
だから、洗濯物、まだ干してるなら取り入れといたら?
ってそう、のっちは教えてくれた。
「あ、そういや、干しっぱなしだ」
外に目をやると、もう、夕暮れ。
そんな時間だったっけ。
「取り入れてきなよ」
切らないで、待ってるからさ。
そうやって、あたしの心を見透かしたように
安心感を与えてくれるのっち。
待ってる。
その言葉だけで、
あたしは安心できる。
のっちはあたしを待っていてくれてる、
そう確認できるから。
「おまたせ」
「早かったじゃん」
洗濯物を取り入れる間、携帯は机の上に放置していた。
そう、のっちと繋がったまま。
なのに、あたしが話し始めるとすぐに返ってきた返答。
ずっと、携帯を握ってくれてたんだね。
「ありがと」
「いーえ、全然」
いろんな意味での
ありがとう。
ちゃんと伝わってるかな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しばしの談笑。
のっちはあたしの話題に乗ってくれたり、
話が尽きそうになると話題を出してくれたり。
電話を切らないように、
そうしてくれてる気がした。
「あ」
雨だ。
「ゆかちゃん、どした?」
「や、雨、降ってきたな、と思って」
そう言うとのっちは得意そうに
のっち、すごいじゃろ?物知りじゃろ?
って笑った。
「それじゃ、そろそろ・・・」
電話切るよ、電話代ヤバイっしょ?
となんかさらっとそう言った。
え、待ってよ、
あたし、言いたいこと、まだ言えてない。
あたし、甘えてたのかな。
優しいのっちにいつまでも
守ってもらえるなんて思っていたのかな。
のっちがいつまでも待ってくれてる
ってそう勘違いをしていたのかな?
「あぁ!のっち、待って」
「ん〜?」
「あのね、のっち、聞いて・・・?」
待って、切る前にこれだけ聞いて。
全部、伝えるから聞いて。
そう思って、ゴクンとつばを飲んだときだった。
——ピンポーン
え?
受話器の奥と同じ音がした、
気がした。
玄関に足が向かってて。
誰?なんて聞くことも無く
鍵を開けて、ドアノブを回してて。
「・・・・・・・・・・・・なんで」
やっぱり、目の前にはのっちが立っていて。
「おっす!」
瞳に涙をためているあたしに向かって
のっちはへらへら笑って元気そうに手を上げた。
「誰かぐらい確認しなさいっ」
襲われでもしたらどうするんじゃ。
そう言って、あたしの髪の毛がくしゃくしゃになるほど
思いっきり頭を撫でる、のっち。
「なんで・・・なんで・・・」
家に来たの?
会いに来たの?
だって、電話してたじゃん。
飛行機雲見えない、って言ってたじゃん。
雨の日は外出るのいやだ、ってそう言ってたじゃん。
零れた。
堪えきれなくなった涙が
のっちに触れられた瞬間
零れた。
「その前にっ」
のっちが玄関に入って、扉を閉め、
あたしをギュッと抱きしめた。
「電話の続きは?」
「・・・・・・あ、会いた、かった・・・」
腕をのっちの背中に回して
しっかりしがみついた。
「はは、素直でよろしい。でも、知ってるよ、そんなこと」
余裕な感じで答えるのっち。
ばか、言わせといて、何よそれ。
さっき、くしゃくしゃになった
頭を整えるように優しく撫でてくれるのっち。
柔らかくて、気持ちよくて。
ただそれだけで、さっきの言葉は打ち消しになって。
「のっち、すごいじゃろ?物知りじゃろ?」
へへへ、っていたずらっ子みたいに笑うのっちに
打消しって思ったのは無し、
さっきも聞いたよ、
ってそう返したかったけど、
「うん、すごいし。・・・やっぱ、やっぱ・・・・・・・・・好き、だよぉ」
のっちの裾をきゅっと掴んで
胸に顔を押し付けて。
「へへー、実はのっち・・・
それも知ってるけどね」
うわー、のっちってやっぱり天才?
なんてあたしを抱きしめながら自画自賛し始める。
あたしはそれに応えずに黙っていた。
だって、なんか負けてる気がするし。
口を開けば開くほど、
のっちに溺れてっちゃいそうだから。
「理由無しの電話は、会いたい、のしるし」
ゆかちゃんの場合はね。
ってそう得意げに話すのっち。
やめてよ、
それじゃ、なんかあたし・・・
様子で天気が分かっちゃう
飛行機雲と一緒みたいじゃん。
悔しい。
そんなに分かりやすかった?
鈍感で鈍いのっちにここまで
見透かされるなんて、納得いかない。
そんな不服な言葉が喉まで出てきて
声になろうとした。
だけど、
重ねられた唇で
生意気な口は利けないね、のっち?
END
最終更新:2009年03月29日 21:47