アットウィキロゴ
ゆかちゃんと目が合ったまま、のっちは固まってしまった。

ライトは時々ゆかちゃんの顔を照らすけど、基本的に薄暗くて表情が読めない。

一瞬、ゆかちゃんがニコッと笑ったような気がした。

やり場をなくしたのっちの右手をゆかちゃんは自分の腰に回し、
自分の右手ものっちの腰に回し、結局向かい合う形になった。

ジーマのボトルを持ったままののっちの左手も、
ゆかちゃんの腰に回すしかなかった。


酔ってるのかな・・・


空になったスプリッツァーのグラスは、フロアの端にあるテーブルに置いてあった。

前を向くとゆかちゃんの顔しかない。

恥ずかしくて下を向きながら踊った。


中途半端な距離。


抱き合っちゃえば顔見ないで踊れるかな?
いーや、それはさすがにダメじゃろ!落ち着け、のっち!

あ・・・誰かに見られてるんじゃ・・・
突然そんな不安に駆られ、周りを見回してみたけど。

自分の世界に入っている人、2人で世界を作っている人。

5,6人で騒いでいる人。カウンターで話しこんでいる人。


こっちを見てる人なんて一人もいなかった。

わたしたちの場合は、2人の世界と言うよりは
ゆかちゃんの世界にのっちが迷い込んだ、そんな感じだ。


向き合う形になって踊りだしてから、3曲目に入った。


のっちはずっと下を向いてリズムを取っていて、
時々ゆかちゃんの顔に目をやると、ゆかちゃんはずっとのっちを見ていた。


もう限界。ドキドキしすぎて死にそう。


離れるか、抱き合うか、もうどっちかにして欲しい。


この中途半端な距離が嫌だった。


ゆかちゃんはのっちの心境を察したのか、
のっちの耳元で

「ゆか疲れたんじゃけどー、ちょっと休まん?」

いつもと変わらない声で言ってきた。

あ、じゃあこの体勢から解放されるんじゃね。



なぁんだ・・・

のっちの心は矛盾してるなぁ。

今、離れたくないって思っちゃったよ。


でもこのままじゃ心臓持たない。


のっちは声も出さずうんうん、と首を大きく縦に振った。


通された部屋は、ヒップホップフロアとテクノフロアの間、
中二階みたいなところにあった。

ヒップホップフロアの篭った音が漏れ聞こえていて、
フロアと同じく薄暗い。
2人がけのソファと小さなテーブルがあるだけで、
天井も低く、狭い。

壁やソファに染み込んでいるのであろう、消えないタバコのにおい。


のっちが想像していたVIPルームではなかった。

ゆかちゃんは2枚目のドリンクチケットでもスプリッツァーを、
のっちはジントニックを頼み、部屋に入った。


「はぁ〜疲れたあ」
のっちはドカッとソファに体を預ける。


「疲れたねぇ」
ゆかちゃんものっちの左側に腰掛ける。

あれ?いつもと変わらない空気。

さっきのは、なんだったんだろう?

でもなんか、ゆかちゃん元気・・・ない?疲れちゃったのかな。


「あ、明日。4限の佐藤先生、休講だって。」
ゆかちゃんはケータイをプチプチいじりながら言った。


「マジで?じゃあ、授業なくなっちゃったね。明日。」
うーん、と伸びをしながら答えた。


のっちも自分のケータイを見る。

メールも電話も来ていなかった。


時刻は午前2時をまわっていた。


部屋の小窓からDJブースが見える。

さっきのはダンスフロアの魔法かな。

ドキドキして、キラキラしてて、ちょっと夢みたいだった。

「たまにはいいよね。振りが決まってないのも。
誰かに見せるわけじゃないけぇ、なーんも考えなくていいし。
びしっと3人で揃えるダンスもめっちゃ楽しいけどね」

ゆかちゃんがグラスの中のレモンを指でクルクル回しながら言う。

「のっちも!そう思った!!
気分爽快!ストレス発散!ってかんじ?
来てよかったよね!」

おんなじこと思ってたのが嬉しくてつい目を丸く開いて
ゆかちゃんにぐっと近づいた。

ゆかちゃんはちょっとびっくりした様子で、
でもすぐ笑顔に戻った。


「よかった・・・」


「へ?」


あれ・・・またこの感じ・・・

ゆかちゃんはいつも以上に潤んだ目でのっちの目を捉えた。


「さっき・・・のっちが男の人に触られて、のっちに触んないで!って思って、
助けたつもりでいたけど・・・」


(———え?)

「のっちはゆかと踊ってて・・・ちょっと嫌かなあって。困ってるなぁって、
      • 思ったんだけど引っ込みつかなくて・・・」


(———ゆかちゃん・・・)

「でもゆか、のっちと一緒に・・・のっちの近くで・・・踊りたかったから・・・
ごめんね?」



      • ゆかちゃんは、のっちの心も捕らえるの?

(続く)






最終更新:2009年03月29日 21:59