N-side
「・・・静かだと思ったら」
お風呂から出てきて、
まず最初に発見した、
この眠り姫。
そーっと、布団を掛けてあげる。
最近、忙しかったからなあ・・・。
私のベッドに横たわって
スースーと気持ちよさそうな寝息を立てて眠る、彼女。
それは、
まるでお人形さんみたいで。
ロングヘアーはロングアーでサラサラだし、
睫も長くてクリンとしてるし。
そっと、その長い髪の毛を可愛らしい耳にかけてあげる。
ちょこんと覗く、白くてちっちゃな耳。
ピアスの穴が開きすぎてるのは、ちょっと残念、かな?
「・・・んっ、ぅぅ・・・」
いきなり彼女が声を上げたものだから驚いた。
急いで、伸ばしていた腕を引っ込める。
ぎゅっと、布団を握り締めて、寝返りをうつ。
そんな光景が私の脳を支配して
心臓の動きを早める。
「・・・って、寝よ、寝よ」
やめだ、やめ。
自分で言うのもあれだけど、
ヘタレ、だしね。
寝込みを襲うなんて、とんでもない!
妄想、で十分だよ。
そんな変態めいたことをぽつぽつと思いながら、
私は彼女の居るベッドではなく、
ソファーで寝ることにした。
ソファーを選んだことに特に深い理由は無いけど、
あんな大の字になって気持ちよさそうに寝てるとこ
邪魔なんて出来んじゃろ?
気だけは使えるしね、一応。
誤解されたって困るし。
まー、腰痛くなるのは嫌なんじゃけど、仕方ない。
——なんて、嘘。
私はまだ、彼女と
素肌を
体を
重ねたことが無い。
一緒のベッドに寝たところで
もう彼女は眠っていることだし、
「行為」をするわけでもない。
だけど、怖い。
正直、こっちだけが
好きなんじゃないかと
愛しているんじゃないかと
思うときがある。
だから、一線を越える、
というのはやっぱり特別だし、
何より、同性、だし。
小悪魔な彼女に翻弄されるのも良いけど、
そのせいで、本当の気持ちが見えなくて。
遊びなら、キスで良いところ。
好きだからこそ、大切にしたい
彼女の気持ち。
「おやすみ、ゆかちゃん」
そう呟き、彼女に手を伸ばしたけれど、
さっきみたいになるのに怯え、
触れるのはやめにした。
押入れに入れてあった布団を引っ張り出してきて、
それに包まる。
目を閉じると、すぐに深いとこへ落ちていった・・・
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「・・・っち、のっちってばぁ・・・ねぇ」
「・・・んんぁ?」
肩を揺すぶられる。
え、もう朝?
眠いし、
寒い。
まだ、起きたくなーい。
「ねぇ・・・起きて?」
その甘い言葉に
一瞬にして打ち砕かれた。
心の中で
ズキューン、と変な効果音が流れてしまうほど
胸がざわついた。
「・・・ん〜?何?どーしたん?」
心の中を悟られないように
何事も無かったかのように
重い瞼をゆっくり開いていくと、
その高さと同じところに彼女の瞳があった。
思わず緩む、口元。
か、可愛いなー、やっぱり。
「・・・べ、ベッド、来て・・・くれんかな?」
しゃがんでいる彼女の視線は
私のそんな間抜けな顔を捉えてはおらず、
斜め下を見ていた。
噛むなんて彼女らしくない。
そんなところも
好き
だけどさ。
暗い部屋の中、
彼女の頬が朝日色に染まってるのは
多分、気のせいじゃない。
眠たい目を擦りながら、
私は彼女に手を引かれ、ベッドに向かった・・・
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ベッドに2人は腰掛けた。
深夜4時。
こんな時間に起きてしまうと
目がさえてしまった。
「・・・怖い夢、見て」
はー、とため息をつく彼女。
「起きたら、のっち居らんし」
一人でまた寝れんと思って。
申し訳なさそうに
指をいじりながらそうアヒル口で話す彼女。
「いいよ、そんなの。でも、どんな夢見たん?・・・もしかして、怪獣出てきたとか?」
「はは、違うよ」
おどけた振りをして聞くと、
力なく笑った彼女は
そうだったら、良かったんだけど。
と、そう応えた。
なんだ?なんだ?
この意味深な態度は。
分かんねーなあ
腕を組み、長考する・・・
「のっち!」
「あ、はい?」
眉毛、変になっとるよ。
そう言って笑う彼女。
つられてニカッと笑い返すと、
よかった。
と、彼女の小さな声が聞こえた気がした。
「寝よっか、のっち」
「え?のっち、ここで寝て良いの?」
そういうと、私の服の裾をきゅっと掴んで、
「ここじゃなきゃ・・・や、だもん」
俯いて、そう言った。
今度は
ズドーンとミサイルを放たれたかのような、そんな効果音と
胸に少しの痛みさえ、感じた。
「・・・っな、なにー?ゆかちゃん、そんなに甘えんぼさんになっちゃってえ」
自分にブレーキをかける意味でも
少しふざけた振りをする。
でも、彼女の頭を撫でる手は震えてる。
しかも
語尾は上擦った声になるし、
言葉は棒読みだし。
大根役者な、そんな自分に
酷い落胆を覚える。
「のっちはもっと、ゆかに触って良いんだよ・・・?」
「え・・・?」
彼女が俯いた顔を上げると、
柔らかな髪が揺れた。
体がフリーズする。
彼女の頭の上に乗せていたはずの私の手が
頭、そして背中をなぞるようにして
すとん、と柔らかなベッドの上に滑り落ちた。
——きれい、すぎ。
水晶のように煌く瞳に見つめられて、言葉が出ない。
「ゆかだけ、を触って・・・?」
触って・・・欲しいの。
そう言うと、ベッドに落ちた私の手を取り
自分の胸へと持っていく、彼女。
別に女の子同士だからなんてこと無いはずなのに
その膨らみに触れた瞬間、
波打つ鼓動。
「ゆか、ドキドキしてるでしょ?」
ふふっ、と上品に笑い、
なんだか落ち着いた様子で問いかける彼女に
声が思ったとおりの声にならなくて、
仕方無しに私はウンと首を縦に振る。
「なんか、ゆか、最近おかしいの」
声を発することが出来ない私に向かって、彼女は続ける。
のっちを見てたら切なくなっちゃって、
よそ見なんかしてたら、
どっか遠い遠いところに行っちゃいそうで、
「そしたら、夢でほんとにのっちが消えちゃって」
彼女はそう呟くと、
彼女の胸にある私の手に自分の手を重ね、
私に寄りかかってきた。
「怖かった・・・」
返せない言葉の代わりに
彼女を受け止め、自由なほうの腕でぎゅっと引き寄せ、抱きしめる。
「ゆか、のっちしか見えてないのに、のっちが消えちゃったら大変だよ」
なーんも、見えんくなる。
私の腕の中で
さっきみたく、力なく笑う彼女。
腕の中で起こる微かな振動が、
それを起こした、彼女が
それを感じ取った、私が
今ここに存在していることを証明する。
「・・・のっち」
なんか、言って?
上目遣い。
彼女のそれに捕らえられると
もう逃れることは出来なくて。
「・・・・・・・・・大丈夫、だよ」
やっと、声が出た。
「ほんと、に・・・?」
「・・・のっち、ゆかちゃんを手放すようなアホじゃないけぇ」
そんな勿体無いこと、せんよ?
「じゃあ・・・ずっと、ゆかのこと捕まえててくれる?」
私を捕まえて、
離してくれないのは
ゆかちゃんの方でしょうに。
「当たり前」
一言。
そして、その可愛らしい顔に頬擦りを。
やわらかい。
あったかい。
その感触だけじゃなく、
部屋全体の空気が甘くなる。
「あはっ、のっちの頬っぺただあ」
その笑い声が、
その話し方が、
くすぐったい。
心がむずむずする。
「ねぇ、のっち・・・?」
「ん?」
「キス、したい・・・?」
そんなの愚問だ。
こんだけ至近距離に居て
しないほうが不自然なんじゃない?
それに、
触って、って。
さっき、そう言ったよね?
「んー、それだけじゃ足りん、かも」
「やだあ、のっち、変態じゃー」
そう言うと私の胸の中に
小動物みたいにもぐりこんだ彼女。
あんねえ・・・
そんなこと言うから
そんなことするから
余計にねえ・・・
「ゆかちゃんはしたくないの?」
思わず口を尖らせてしまう。
その声に反応する彼女。
ばっ、とすごい瞬発力で
尖った口で不満そうなその顔がこっちを向く。
「ふっ」
「あはっ」
甘い、甘い花びらが
散った。
同じ表情をしているお互いを見て
同じ瞬間に吹き出す。
——しあわせ、すぎ。
しかも、ダメなんだよなあ、
この角度から見える
ゆかちゃん、
可愛すぎて。
「したくなかったら・・・こんなこと、聞かんじゃろ・・・」
私が付けていたネックレスをいじりながら
恥ずかしそうに答えた彼女。
それもそうだね。
「・・・じゃあ、しよっか」
「・・・ん」
いざとなったら、照れてしまう、
そんなゆかちゃんが可愛くて。
どっちかっつーと
そういうことが苦手そうな私のほうが
主導権握っちゃってて。
「のっちの方見てよ」
ネックレスをいじる手を包み込み
それから少し乱暴に引き剥がす。
私は今、溺れてる。
アクセサリーに嫉妬を覚えるほど、
ゆかちゃんに
溺れてる。
あっ、と小さな声を出し、
目の行き場を失った彼女は
仕方無しに視線を上げた。
遠慮がちに私を捉える瞳は
やっぱり、私を虜にさせる。
「・・・のっちぃ、愛して・・・?」
ああ、だめだ。
その声で
私の名前を呼ぶなんて・・・
「・・・もう、愛してるよ」
そんなキザっぽい台詞の後に
そっと重ねた唇は
とても
とても愛しい味がした。
END
最終更新:2009年03月30日 00:12