彼女は甘い。
まるで蜂蜜みたいに、微笑みも声も、全て甘い。
あたしは多分、いつの間にか溺れてしまってたんだ。
彼女という蜂蜜の中へ。
「はぁ…あつ…」
ジリジリと地面を焼くような暑さ。蝉の声が辺り一帯から響いている。
…この道通るの、久しぶりだ。
額の汗をハンカチで拭いながらしばらく進むと、少しばかりの森に入った。
涼しい風が髪を揺らす。
…彼女の家まで、あと少し。
目の前に、昔懐かしい日本家屋が見えた。
ここが彼女の家。
昔、あたしはこの家によく遊びに来ていた。
「こんにちはー」
門をくぐって少し進むと開かれた扉が見える。夏になると、いつもここの扉が開いていたのを思い出した。
「あぁ、いらっしゃいあ〜ちゃん」
「おばあちゃん、お久しぶりです」
「すっかり大きくなったもんじゃねぇ…そりゃぁ私も歳をとるわけじゃわ」
「ふふふ、…あ、ゆかちゃん居ますか?」
「ゆかならお部屋だよ。ささ、入って入って」
「おじゃまします」
あの頃と変わらない、畳の匂い。
開かれた扉から吹き抜けていく風。
…彼女も。
彼女も、あの頃と変わらないのだろうか。
どこかフワフワと高揚した気持ちで、彼女の部屋の前に立つ。
…この障子の向こうに、彼女がいる。ごくり、と喉が鳴った。
「ゆ、ゆかちゃん」
「あ〜ちゃん…?」
スッ、と障子が左右に開かれた。
現れた彼女は、あの頃と変わらないようで、しかし変わっているようにも思う。
「久しぶりじゃね、あ〜ちゃん」
「うん。あれから何年かね」
「…積もる話は、ゆかの部屋に入ってから…ね?」
…にこり、と笑う彼女は、どこか妖艶に思えた。
最終更新:2009年03月30日 00:33