のっちと関係を持って1ヶ月くらい経った。
「お先、失礼します」
今日もバイトだった。
外に出たら小雨が降っていた。
バイト先に戻って、置き傘を取りに戻ろうかと迷ってたら声を掛けられた。
「有香!!」
「・・・あっ」
蛇みたいにしつこい彼だった。
「何で携帯出ないんだよ!俺、ずっと連絡してたんだけど!」
ちょっとと言うか、かなりの怒り口調で話しかけてきた。
あたしはのっちとの行為に夢中になってて、彼の存在をすっかり忘れていた。
「・・・ごめん、このところ、ちょっと忙しくて連絡するの忘れちゃってたw」
ならべく波を立てない様に答える。
「なんだよそれ!!メールくらい返せよ!!」
雨に濡れてるあたしに、傘を差し伸べない思いやりのない男に言われたくない。
「・・・嘘。実は好きな人が出来たの。別れて欲しい」
もう、めんどくさくなって別れ話を切り出した。
「はぁ!?何それ!?急に何言ってんだよ!!」
彼に腕を掴まれた。それもかなり強く。
殴られるかと思って、身体が固まってしまった。
「なんですか!!!」
突然、とても聞き覚えのある声がした。
その声の持ち主は、あたしの腕を掴んでる彼の腕を掴んでた。
その人が持っている傘で顔が隠れてたから確認するのが遅くなった。
やっぱり・・・のっちだった。
何で、のっちがここにいるの・・・。
あたしは驚いて声が出なかった。
「は?おめー誰だよ!!」
彼はのっちに食って掛かった。
「かっしーの友達ですけど!あなたは何なんですか!」
のっちも負けじと強気だ。
「は?俺は彼氏だよ!!」
「へ?かっしー、か、彼氏・・・いたの?」
強気だったのっちは一気にハノ字眉になって、あたしを見てきた。
「今、別れるの・・・」
のっちには彼氏の存在は知らせてなかった。
存在を知ってたら、あたしとあんな関係を持たなかったでしょ。
「おい!!有香何言ってんだよ!!」
「だから好きな人が出来たって言ったでしょ!!あなたのコトは最初から好きじゃなかったの!!」
あたしたちは、のっちを置き去りにして口論を始めた。
彼の手が傘を放り出し、あたしの胸ぐらを掴んだ。今度こそ殴られると思った。
「っちょ、ちょっと、何してんですか!?」
のっちがすかさず止めに入る。
止めに入った瞬間、彼の腕時計がのっちの頬に当たった。
「殴って別れてくれるなら、殴っていいよ・・・」
「なっ・・・かっしー、何言ってんの!?」
「・・・っ勝手にしろよ!!!」
彼は捨て台詞を言って手を放した。
あたしは二人を残して、駅に向かって走り出した。
修羅場から関係のないのっちを置いて逃げた。
小雨は本格的な雨に変わっていた。
あたしは途中で走り疲れて、その場にしゃがんでしまった。
全身は雨でびしょ濡れ。冬がすぐそこまで来てるから、この雨はかなり冷たい。
「そんなトコで、座ってると・・・風邪引くよ」
その声を聞いて、後ろを振り向いて見上げた。
のっちが息を切らして追いかけてくれてた。
あたしに傘を差しのべる、のっち。
あたしは立ち上がり、のっちに背を向けて歩き出そうとしたが、すぐのっちに腕を掴まれた。
「待って・・・」
待てないよ。
だって泣き顔は見られたくない。
ああ、でも雨のおかげで涙か雫かわからないか・・・。
のっちは傘を持っているのに、あたしに負けじとびしょ濡れ。
頬には傷があった。あの時に出来た傷だ。
あたしはその傷に触る。
のっちは痛そうに顔を歪ませる。
「ごめんね・・・」
今のあたしはこの言葉を言うので精一杯。
「ん、大丈夫よ〜」
「ごめんなさい・・・」
あたしは泣くのをずっと我慢してたけど、もう耐え切れなくなってのっちの胸で泣いてしまった。
のっちは何も訊かず、何も言わず、ただ傘を差しながらあたしの頭をなでてるだけだった。
頭をなでている手は冷たかった。のっちの身体も冷たくなってた。
だんだん雨が強まってきた。
あたしたちはずぶ濡れで電車に乗る。終電だった。
帰り道、のっちは一言も喋らなかった。ただ傘を差してくれているだけ。
のっちは家まで送ってくれた。
部屋に誘ったけど、断られた。
タオルを貸すって言ったけど、これも断られた。
「んじゃ、お風呂入って、暖まって寝るんだよ」
そう言ったのっちは、困ったように笑って自分の家へ帰った。
のっちは最後まで何も訊かず、優しかった。
あたしはのっちの言い付け通り湯船に浸かる。
さっきの出来事を思い出す。
腕、掴まれて怖かった・・・。
助けにきてくれたのっちがすごくかっこよかった・・・。
のっちに彼氏の存在を知られたくなかった・・・。
絶対軽蔑された・・・。
のっちに怪我させちゃった・・・。
のっちは何も訊いてこなかった・・・。
絶対嫌われた・・・。
のっちに嫌われたくなかった・・・。
部屋に上がってキスしてほしかった・・・。
抱きしめてほしかった・・・。
のっちで満たされたかった・・・。
いつの間にか、のっちの存在が大きくなっていた。
いつの間にか、あたしの中はのっちで埋め尽くされていた。
最終更新:2009年03月30日 00:54