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〔N〕

もう止められなかった。
いや、むしろ止めるつもりもなかったのかもしれない。もうどうなるかなんて自分でもわからなかった。



〔K〕

『ねぇ・・どうすればいい?』
のっちの言葉が頭を真っ白にさせる。
ゆかの髪に触れるのっちの指先が真っ白になった頭に熱だけを伝える。
(どうすればいい?って?)
なんて答えればいいの?
何も言えないで俯くゆかの髪をのっちが触る。
前みたいに。
ううん、前よりもっと、ずっと優しい。
(・・・ゆか期待していいの?かな?)
真っ白で熱いはずなのに、冷静に考えようとしだす脳みそ。
のっちが髪を触る。
(優しい触り方・・・)
久しぶりの感覚に嬉しくなる。
のっちが髪を触る。
(離れるなんて無理だよぉ・・・)
急に寂しくもなる。



『そばに・・おる?』
えっ??
『のっちのとこ・・くる?』
——はっ?????
意味がわかんない。
突然すぎて脳みそがついていけない。まったく意味がわかんない。


『ゆかちゃんだけは・・忘れられんのよ・・』
———はっ?????
だから、意味わかんないって!!!?
絶対あほな顔してるだろうゆかを見て、のっちは
ふって優しく笑いながら
『秘密だよ??』
髪をぱらぱらぱらって指先で遊びながら
いたずらする子供みたいに言う。
(秘密だよって、全然秘密にしてないじゃん!!ゆかに言ってんじゃん!!ゆかに秘密なの、本人に言ってんじゃん!!)
心の中でなんどもつっこむ。どうしてこの人はこんなに人の心を掴むのか?どうしてこんなに揺さ振るのか?ゆかの扱い方うますぎるよぉ。。
(わざと秘密な気持ち伝えないでよ〜・・。)
もう参りました。かないません。どうしよぅ。ドキドキ止まんないよ。




『ゆか・・・』
突然呼ばれた自分の名前。
顔だけあげて返事のかわりに。
目に入ったのは優しいのっちの大きな瞳。
(あ、だめだ。)




『・・・・・そばにおってよ』
照れもしないでサラッと言う。こうゆうとこ格好よすぎる。あぁ〜もぉぜんっぜん駄目だ。涙でそうなる。もぉなんも言えん。
『・・・・・・のっちぃ・・・』
精一杯の力で呼んだ愛しい人の名前。もう名前を呼ぶことくらいしか出来ん。
お願い、夢ならさめないで!!
お願い、夢じゃありませんように!!
お願い、、、
あ〜ちゃん・・・
まだ・・・・来ないで・・。


〔N〕



あ、もうだめだ。
わけ、わかんね。
ゆかちゃん見たら、わけわからんくなった。
なんだこれ?自分じゃないぞ?なんだこれ?



控え室に入ってくるなり、なんとも言えない色っぽい表情をするもんだから、
思わず口にしてしまった。
『儚い』
だなんて。
でもその言葉はゆかちゃんのために作られたみたいにぴったりだった。
照れ隠しをするゆかちゃんがあまりにも可愛くて、
自分でも驚くような言葉が出た。
『ん?綺麗だって言ってんだよ?』
途端に顔を真っ赤にするゆかちゃんに私は多分興奮したんだと思う。
『綺麗だよ』
本当に思ったから、もう一度言った。
その後はもうわけがわからなかった。
自分で自分が何を言ってるのかもわからなかったし、
何がしたいかもわからなかった。
だけど、、。
ゆかちゃんといる、この静かな空間は現実で、確実に私を興奮させた。
ただ触れていたかった。
『そばに・・おる?』
なに言ってんだ自分?そうさせなかったのは自分だろ?
『のっちのとこ・・くる?』
だから何言ってんだよ?そんなこと望んでないだろ?


(お、お、落ち着け!!落ち着け!!落ち着くんだのっち!!)



『ゆかちゃんだけは・・忘れられんのよ・・』




(だぁーーー!!!!もうなんだこれっ!!??)
どの口だ?どの口が言った?自分か?これか?この口か??
よし、落ち着け。本当に落ち着け。今ならまだ間に合う。冗談だよって、まだ間に合う。
よ〜し・・・

『秘密だよ??』
意地悪な顔して言えた、かな?いつもみたいにからかってるの伝わっ・・・
——!!!!?
あ、だめだ。外れた外れた。何か外れた。
だめだ。その顔だめだ。


『ゆか・・・』
あ、もう“ちゃん”をつけることも忘れてる。
『・・・・・そばにおってよ』

あ、言ってわかった。
急に心が軽くなった。
甘ったるい声で名前を呼んでくれる。
初めての感情に戸惑う。
この感情を『恋』と呼べばいいの?
多分違う。
だって、、、



そんな言葉ひとつじゃ物足りないくらいだ。



〔A〕

『・・・・・のっちぃ・・・』
薄くあいた控え室のドアから洩れた声は驚くほど可愛かった。声の主は嫌でもすぐわかる。
いつだって私の近くにいて、いつだって一緒に励ましあってきた大切な仲間。
だけど初めて聞いた甘くて切ない声。
のっちのことになるとそんな声が出るんだ・・。
のっちの前ではそんなふうなんだね・・。
聞きたくない。
聞きたくないよ。
だけどその声に金縛りにあったみたいに私はその場から動けなかった。
耳を塞ぐことも、
目を瞑ることも、
ここから走りだすことも、
何一つ出来なかった。
何一つ出来なくて、
甘い声の持ち主が、
潤んだ瞳で、
真っ赤な耳をして、
震えながら、
のっちに手を伸ばすのを
唇をかんで見てることしか出来なかった。


〔N〕

私は何をしていたんだろ?いったい今まで何をしていたんだろ?
何人も傷つけて。
何人も泣かせて。
無い物ねだり。
誰かに足りない部分は、
誰かで補う。
その繰り返しで。
何人も傷つけた。
こんなふうになるまで気付けないなんて、
のっちは馬鹿だ。
少し考えればわかることだった。
少し我慢すればわかることだった。


いつだってゆかちゃんだけだった。
いつだってそばにいてくれた。
いつだってそばにいたかった。


もう、、本当に、、
いつだってゆかちゃんだけだった。


私は初めて自分から
“本気で”
彼女を抱き寄せた。



何度も抱き締めたことなんてある。
何度も抱いたこともある。
なのに、
いつだって私は怖がっていたんだ。今ならそう思う。
だって、
ゆかちゃんの身体はこんなにも細い。
のっちが力を込めれば簡単に骨が折れそうだ。
だから、
のっちの心ごとぶつけたら、きっとゆかちゃんは受けとめられなくて崩れ、倒れてしまう。
そう思ってた。
いや、そう思うことによって自分の気持ちを隠してきたんだ。
私はいつだって独りだったから。だから、、
誰かに介入されることが怖かった。縛られることも。寄り添うことも。
共同体になるのが怖いんだ。だって、、
絶対に一つになんかなれないから。
二人で一つなんて嘘だよ。
一人で一つでしょ??
独りで一つ。
だから、、誰にも頼りたくなんてなかったんだ。
ずっとずっと独りだったから。。



だけど、、
のっちを抱き締め返すゆかちゃんの腕は、驚くほど強くて、簡単には振り払えないくらいに。
私に安心感を与えるその腕の強さ。

離れないでよ。
嫌わないでよ。
忘れないでよ。
独りにしないでよ。
何度も思ってた感情は、
全部全部全部、、
ゆかちゃんに対してだったんだ。



『・・・ごめん、、遠回りしちゃった、ね・・』
のっちの言葉に
ゆかちゃんは腕の力を強めて
『・・ううん、ゆかは・・・・いつだって待ってるよ??』
果てしなく続くゆかちゃんの優しさ。
『も、、もう、、待たせん・・もう、、』
口がうまくまわってくれない。いつもみたいに格好よく言えない。やっとの思いで、ずっとずっと誰かに言いたかった言葉を、誰かに想いたかった気持ちを、、



『・・もう、、離さん・・・』
静かな部屋に響いたその言葉は熱をおびて自分の心にもスッと入ってきた。
あぁ、これか。
これがのっちの一番深くて一番素直な部分。
やっと気付いた。
ゆかちゃんはのっちの不安を知ってるみたいに、
ずっと優しく抱き締めてくれた。


〔A〕

泣いたのは私だった。
別に泣きたいわけじゃない。知らぬ間に頬を涙が伝っただけ。
二人のやりとりを馬鹿みたいに口も出さずに一部始終見てしまった。
もし私が割り込んだら、
こんなことにはならなかった??
そんなこと言っても遅い。
それに、、
入り込む隙間なんかなかった。
泣いたのは私だった。
たくさんの人を傷つけて、
たくさん遠回りしてきた二人だって、
泣きたいくらいの気持ちがあるでしょ?
だけど、、泣いたのは私だった。
まったくの蚊帳の外。
まったくの部外者。
二人にとって私はまったく関係ない。
だけど、、
泣いたのは私だった。

それに、、意外だった。
のっちが、あののっちが、のっちから求めてた。
ゆかちゃんを。
ゆかちゃんだけを・・。
のっちのことなんも知らなかった。

のっちの顔はもう見れない。のっちのことはもう、、もう、、、。

——・・・・・・・。





どうしよう・・・・。
のっち、、。
あなたのことは、、
忘れ方すら知らない・・・。








最終更新:2009年03月30日 00:58