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〔A〕

いつまでもこんなとこに立ってるわけには行かない。
むしろ今日は仕事だ。
そう思うことによって気持ちをおさえた。
頬を伝う涙を拭いた。
のっちへの気持ちにも強引に蓋をした。
でも、どうやって中に入ろう?
今控え室の中の二人は抱き合っているわけで、
他の何も寄せ付けないような空気を取り巻いていて、
もしかしたらこのままドアをあけても気付かないかもしれないくらいに二人は完全で完璧な二人の世界だった。
どうしよう。。
知らず知らず俯いて下を向いていた顔をあげ、中を覗く。
二人はお互いの温度や気持ち、距離を確認しあうかのように抱き合ったまま。

・・・・・はぁ、もう・・・・。
・・・・・・・・・・・・辛い・・・。
私の感情はそれしかなかった。




————ヤバッ!!!

目が合ってしまった。
目が合った、のに、
動けなかった。


————えっ!!?・・・・


そ、ら、、された??
目が合ったその人は、
何でもない顔をして目をそらした。
えっ!?てか、、
あ〜ちゃんに気付いてるのに、、、
なんで抱き締める腕をほどかないの・・・??


私の方を見もしないで、
私のことなんか気にもしないで、

———クスッ——

えっ?!今笑った??
私にだけ見える角度で笑ってる。私は自ら目をそむけようとした。


———あっ、、、

私の方を見もしないで、
私のことなんか気にもしないで、、
私が目をそらすより先に、



ゆかちゃんはのっちにキスをした。



〔N〕

ゆかちゃんに抱き締められてどんどん心に巻き付いていた鎖がはずれていくようだった。
私たちは何も言わず、
何も語らず、その場が控え室だってことも忘れて無心で抱き合った。
ただ無心でゆかちゃんの温度を感じていた
一体どのくらいの時間が流れたんだろう?
控え室のドアをあけ、ゆかちゃんが入ってきてから。
ゆかちゃんの髪に触れてから。ゆかちゃんと抱き合ってから。
一体どのくらいの時間が流れたんだろう?
そんなことを考えてたら、ゆかちゃんが少し笑った気がした。
(あ、心の声洩れてたかな?こんだけ近くにいたら心臓を通して聞こえたりするんかな?)
なんて思ってみたりした。
少し笑ったゆかちゃんが、私の唇に触れるまで
一体どのくらいの時間が流れたんだろう?



〔K〕

頭の中が真っ白だ。
だけどひどく熱い。
身体中から熱がでて、
まるで風邪をひいてるみたいだ。
何も考えられない。
何も考えられなかった。
ただのっちの腕の中はあったかくて心地よくて抜け出したくなかった。
ついこの間まで手のうえで転がしていたつもりだったのに、、。
つもりだったのに、、
こんなの想定外。
ゆかの計算機は壊れた。
のっちはまったく想定外のことをする。
結局手のうえに乗ってたのはゆかだった、ね?
でもそれはしょうがないこと。先に惚れた方の負けだもん。だから、どうあがいたって最初からゆかに勝ち目なんかなかったんよ。
でものっちがゆかを求めてきたのは、本当に想定外。
びっくりしたけど、それは嬉しい驚きだから。
だから、本当に、もう二度と、のっちがどっか行っちゃわないように強く強く抱き締めた。
もう絶対誰にも渡さない。
のっちは誰にもあげない。
もう体だけも、駄目。
体だってゆかだけのもの。
絶対に離さないんだから。


だけど、、どうして急にのっちは変わったの?
どうして急に皆に別れを告げたの?
のっちを抱き締めながら
そんなことを考える。
でもいんだ!
そんなことどうでもいい。
のっちが求めてくれたことの方が大事。
済んだことを掘り返すつもりもないし、
そんなことをしてまたのっちの気分が変わったら嫌だし。そんなことより、
私はこの目の前の
愛して愛して愛しまくってる愛しい人の腕に抱かれ顔をうずめ、幸せに浸っていたかった。
のっちの胸にうずめていた顔をあげ、のっちの首の横、肩の上に顔を移動させ、もっと体を密着させた。
目を瞑っているとのっちの心臓の音が聞こえる。
ドキドキが早い。
あれ?これどっちのドキドキ??ゆかの?のっちの?
なんて考えながら目をあける。
あ、控え室なんだった!!





————ヤバッ!!!


ドアの向こう。
うっすらとあいた隙間から目が合った。
すぐに気付いた。
あ〜ちゃんだ。
やばい!!
すぐ離れなくちゃ。





————ドクンッ!!!


あ・・・、、。



私はとっさに平気な顔して目をそらし、
離そうとしてた腕を
より一層強くしてのっちにしがみついた。
あ〜ちゃんが見てる。
(・・・離れなくちゃ)
だけどその考えとは別の、もう一つの考えが頭の中で大きくなる。
あ〜ちゃんが見てる。


ドアの隙間からあ〜ちゃんが見てる。
のっちからは見えてないけど。
仕方ない、ここは控え室なんだから。
あ〜ちゃんがくるのは当たり前。
あ〜ちゃんが見てる。
こんなやばい状況なのに私はどこか落ち着いて、冷静を取り戻した。
あ〜ちゃんが見てる。



だから!!
見てる、から!!
ゆかはのっちに回した腕を離さなかった。
あ〜ちゃんに見せつけたの。わざと。
あ〜ちゃんものっちのこと好きなの知ってるから。わざと。


———クスッ——



ゆかがどうしても手に入れたかったもの。
あ〜ちゃんがどうしても手に入れたかったもの。
ごめんね、あ〜ちゃん。
もう、ゆかのもの。
私は笑った。のっちには見えないようにこっそりと。
だけどあ〜ちゃんには見えるように。こっそりと。

あ〜ちゃんがのっちのことあきらめるように。
あ〜ちゃんがのっちに近づかないように。
あ〜ちゃんがのっちのこと好きなのも忘れるように。
そう願って、
あ〜ちゃんが見てる前で
のっちの唇に触れた。
これで完璧にあきらめてくれる?



あともう一つ、
のっちがゆかのとこから飛んでいかないように、、。
強く願った。







最終更新:2009年03月30日 01:04