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その日も教室で、あ~ちゃんとのっちは、
いつもの言い合いをしていた。
「のっちなんか、もう知らん!」
「ふぇっ、あ~ちゃん、そんなぁ~」
「もっ、寄るな寄るな!」
「いやだぁ~」
(・・ん~っ、今日も平和じゃねぇ。。。)
かしゆかは、二人を眺めて、大きな伸びをする。
繰り返される、いつもの風景。
(・・ふふ、まるでペットが戯れてるみたい?)
思わず笑みがこぼれた、その瞬間、窓から差し込む強烈な光。
その直後、かしゆかは、激しい耳鳴りに襲われる。
引力に引きずり込まれるように、視界が、歪んでゆく。
(っ?なっ、なにが、起きとるん??)
世界がぐらぐら揺らいで、二人の輪郭が、ぼやけてゆく・・
「・・、ゆかちゃん?」
「・・かっし~?」
異常を察した、二人の声が、
だんだん、遠くなっ・・、て、
目の、前、が、
真っ暗に、な、っ、・・・・・。。。


「・・わんっ、わんわん」
「・・ニャア、ニャァ~」

(・・、んんっ・・?)
目を開けると、いつもの黒板。
かしゆかは、いつもの机から、むっくり起き上がった。
二人が、心配そうに覗き込んでくる。

    • いつもと違うことが、ひとつだけ。
「わぅぅ?」「ミャァ?」
二人の声が、鳴き声にしか、聞こえない。
(・・って、そんなことあるわけないじゃろ!
えーっと、ちょっと、落ち着こう・・)
「あのね、のっち?」
「わんっ?」
「・・。あ~ちゃん。」
「ニャ?」
「二人とも、からかっとるん?」
二人は顔をみあわせて、同時にしゃべり?だす。
「きゃんっ、きゃん!」
「ニャーアォ、ニャァ!」
(・・まだ、悪い夢、みとるんかな??)
かしゆかは、頬をつねってみる。
(痛っ!)
「わん、わんわんっ?」
(なっ・・、何言ってんだか、さっぱりわからん!!)


その時、教室を通りかかった先生が、ひょいと顔をだした。
「おまえたち、まだいたのか?そろそろ帰れよ。」
「ニャアォ!」
「そうか、西脇。じゃ、戸締まり頼んだからな。」
(先生にはわかるんだ・・、
っていうか、ゆかにだけ、ちゃんと聞こえてない・・ってこと、、、?)
顔が、青くなる。
頭の中が、疑問符で埋めつくされる。
(・・ゆ、ゆかの耳、一体どうしちゃったんっ!?)
思わず頭を抱え、机にへたりこむ。
「くぅぅん?」
「ミュウ~?」
「・・。静かにして。」
「わん、わぉぉ~!」
「ニャア、ミャァッ!」
「・・うるさい、二人ともうるさいよっ!
どっかにいっててよ!!」

(・・ぁっ!し、しまった!!)
もう遅い。
顔を上げたとき、二人の姿は、もうそこになかった。
慌てて立ち上がったけど、・・・足が、進まない。
(言葉もわからんのに、追ってどうする?)
幸い、こっちの言葉は伝わっとるみたいじゃけど、
それだけじゃ、会話にならんし。
でも、・・・こんなことぐらい?で、大切なもの失うなんて、、、
そんなの、絶っ対に、いや!
(・・なんとか、するしかなかろう!!)
かしゆかは、覚悟を決めて、教室の扉を開いた。


(・・まずは、ちびっこわんこからじゃね・・。)
性格上、そう遠くには行ってないはず。
予想通り、校庭の隅に、ぽつんとたたずむ丸い影。
    • 膝抱えて、土いじりしとる!
くしゅくしゅと鼻をぐずつかせながら、
草をちぎっては投げ、ちぎっては投げてる。
「のっち!」
びくっと顔を上げたのっちは、八の字眉で肩を縮めた。
「のっち、・・」
「ぐるるる・・っ!」
精一杯、虚勢を張っている(つもりらしい)。
「・・が、がうっ、がうっ!」
(・・?、「のっちは、悪くないもん!」とか、か???)
けれど、その漆黒の瞳の奥に、まだ、涙が凝っている・・・。
(・・ともかく、伝えて、みよう。)
「のっち。ゆかが、悪かったんよ。ごめんね。」
「・・ぐぅっ。」
予想外の謝罪に、言葉がつまった(らしい)。
どうしたものか、若葉をつかんだ手に、視線を落としている。
「・・のっち。許してくれない、かな・・?」
「・・・・。」
のっちは、、、顔を上げない。
(・・。やっぱり、言葉がわからんと、ダメなんじゃね・・。)
絶望的な沈黙に耐え切れず、後戻りしようとした、・・その時。

「・・ぅぅ、きゃんっ!きゃん、きゃんっ!」
「・・のっち?」
のっちが、慌てふためいたように、ゆかの視界に飛び込んできた!
爽やかな緑の香りが、胸いっぱいに広がる。
「きゅぅぅん、ふぅぅん!くぅ?」
「(・・これ、は、もういいよ・・ってことかな?)
のっち、、、ありがとぅ。」
「わんわんっ!」
「うふふ、くすぐったいよ、のっち!」
照れ隠しみたいに、ゆかに抱きついて、ほっぺをすりつけてくる。
ゆかだけの、あったかい、お日さま。
もっと近くに、いたくなる。。。

    • だけど・・、
「・・ね、のっちにお願いがあるんよ。。
ゆかのこと、待ってて、、くれるかな?」
「・・ぅぅ?」
のっちが、真っすぐな目をまんまるにして、見返してくる。
やさしく問い掛ける、吸い込まれそうな眼差し。
あたしも、瞳をそらさずに伝える。
「ゆかね、もう一匹・・じゃなかった、
もう一人、迎えにいかなくちゃいけないの。」
「・・。きゅぅ。。」
しょんぼりと俯くかわいい額に、小さなキスを。
とびっきりの愛をこめて。
「くぅぅん・・?」
のっちが、首をかしげて見つめてくる。
そのしぐさ、ゆかの心すべてを奪う、、強い、引力。
(・・ゆかの気持ち、伝えるけぇね・・)
唇に同じ体温を重ねると、
のっちの頬がほんのりピンクに染まり、涙の跡を消してゆく。。。

「・・お願い、いいコで待ってて。ね?」
おすわり、のっち。
すぐに、戻るけんね!
「・・。・・っ、くぅーん、くぅーん!」
校庭を走るかしゆかの背後から、
遥かに響く、せつない遠吠え。
それは、言葉よりもっと語り掛ける、
甘くやわらかい、ゆかを呼ぶ声。
    • お願いだから、そんな風に鳴かないで。
(。。。こんなん、ゆかの方が、泣きそうじゃ!)
後ろ髪を引かれる思いを、必死に断ち切る。。。!


「・・はぁはぁ、次は手強いけぇ・・。
気合い入れていかねば!」
散々探して、屋上のベンチにようやくみつけた。
ゆかの、大きなねこちゃん。
しらんふりで、ふて寝をしとる
片目をちらっとおくったきり、ぷいっとそっぽをむいている。
「あ~ちゃん?」
ぴくりともしない。
「・・あ~ちゃん。」
ゆかが一歩踏み出すと、
あ~ちゃんの髪が逆立った(ように見える)。
「フーッ、フーッ・・」
(うわぁ、怒っとるねぇ・・)
「あ~ちゃん・・」
「・・フニャアォォッ!」おおっ、目が釣り上がった(ように見える)!
これ以上近寄ると、危なそうじゃね。

    • 仕方ない、こういうときは。
「・・ねぇ。かわいい、あ~ちゃん?
    • ゆかの、お姫様?」
ぴくん・・。
「ゆかの、大事な、大事な、あ~ちゃん?
      • ゆかの、宝物の、あ~ちゃん?」
ほら、こっちを向いた・・!
「あ~ちゃん、、、ゆかのこと、・・嫌いになったん?」
とらえた瞳、離さないで。少しづつ、距離を縮める。
「・・あ~ちゃん、いつもみたいに、・・笑って、くれないの・・?」
戸惑う眼差しが、ゆれている。
「・・フーッ、ミュゥゥ・・」
「あ~ちゃん、、、触って、、いい・・?」
もう、あーちゃんしか、見えない、未来。

「・・!ッフニャアァッ!」
差し出した手が、大きく弾かれた。
(・・っ!!!)
あ~ちゃんが、涙をいっぱいにためた目を、そらした。


(・・・・・。
    • 、あぁ、そうだった。
最初から言葉なんか、
いらなかったんじゃね。。。)
ゆかは、あ~ちゃんの震える体を、ぎゅぅっと抱き締める。
固く、強ばるのが、わかる。
暴れる気持ちを、落ち着かせるように、
ゆっくりと、髪を撫でる。
ただ、静かに、気持ちを解してゆく・・。
「・・不安にさせて、ごめんね。」
「ミュゥ・・・・」
「本当に、ごめんね。」
「、キュゥッ・・」
「・・あ~ちゃん」
「あ~ちゃん。。。」
「・・・ゴロゴロ・・。」

まったく、この手のかかる、甘えん坊さんは!
ふと、あ~ちゃんが、潤んだ瞳で見つめている。
なにやら伝えたげに、もぞもぞしている。
(・・あ、ひょっとして、・・これ、かな?)
「・・じゃぁ、仲直りのキス、する?」
あ~ちゃんが、怒った顔で赤くなった。
「ミュゥン!」
その甘い鳴き声じゃ、気持ちは隠せない。
(・・ホントに可愛いったら、ないんだから!)
笑いをこらえて、
あ~ちゃんのぷるぷるした唇に、顔を寄せる。
想いと同じ位熱く、だけど、ちょっぴりしょっぱい、キス。

(・・うん。こーゆーのも、意外と悪くない、、、のかも・・。)


ベンチで肩を寄せあって微睡んでいると、
ぱたぱた、ぱたぱた足音が響いてくる。
「・・くうぅん。」
しびれをきらした、せっかちわんこが、
屋上の入り口で足踏みしている。
(探しに、来てくれたんじゃね・・?)
「フニャア、ニャァオ!!」
影に気付いたあーちゃんが、さっきまでよりやわらかい鳴き声で、呼び掛ける。
のっちが、うれしそうに駆け寄ってくる!
ゆかを挟んで、あ~ちゃんの反対側に腰をおろすと、
なにやら楽しそうに語り始める・・。
「きゃん、きゃんきゃんっ・・」

(・・ゆか、ね、ただ、見つめることしか、できん。
ただ、黙ってほほえむことしか、できん。
    • ごめんね、のっち、あ~ちゃん。
ゆか、、は、もう、・・。)
心配そうに見つめてくる、四つの瞳。
「・・なんでも、ないんよ。二人があんまり可愛いけぇ、
ちょっと静かに見てたい、だけなんよ・・。」

    • そうじゃ、本当に何かを知りたいなら、
このコ達の瞳をみればいい。
たとえ、言葉が聞こえなくても。
もう、言葉がかわせなくても。
瞳を見つめる、
それだけで。
    • つらいときも、うれしいときも、
ゆかなら、わかるはずだから・・。
ゆかの、スポンジの耳では聞こえないけれど、
できるのことならば、
閉じ込めた心のパーツ、すべて、
言葉にかえて、伝えてあげよう。
    • 愛してるよって。
何にも心配しなくて、いいよって・・。

空が眩しいから、涙が出そう。
あたしは、目をつぶったまま、両手を広げて天を仰ぐ。
泣きべそわんこと、気まぐれニャンコが、顔を見合わせる。
それから、・・あたしの腕に寄り添うように頭を寄せる。。
(もぉ、なんじゃ、こんな時だけ・・・両手に花、
じゃない、両手にペット?)
このふわふわした生きものたち、
そのうち、ホントに耳としっぽが見えちゃったりして・・。
そんなこと考え始めてる自分に、ぞっとする。
(・・ああーっ、もう、どうとでもなれっ!!)
やけくそな気持ちで、二つの頭をわしわし撫でる。
「くうぅん」「ゴロゴロ・・」
はいはい、わかりましたよ?
「・・ずっーと、二人のそばに、おるからね。。。」

その時、空から一筋の光。
また、引力に、引きずり込まれ、
かしゆかの、視界は、
真っ白に、染まっ、て、ゆく。。。


「・・ゆかちゃん?」
「かっし~、おきてよ?」
目を開くと、屋上のベンチ。
「のっち、・・あ~ちゃん?」
「ゆかちゃんが教室におらんけぇ、探しに来たんよ。
なんでこんなトコで居眠りしとるん?」
「・・えっ!ゆか、眠っとったん!?」
「なんかねぇ、わんわん、言っとったよ?」
「違う!ニャーニャー、言っとったんよ!」
そしてまた、いつもの言い合いが始まる!

(はぁ、ゆ、夢で、よかったぁ・・。)
でも、わんわんニャーニャー、不思議なこの風景、
さっきまでとあんまりかわらないような???
まあ、いいか。
この可愛い天使たちが、そばにいてくれれば、
ゆかは、何だって平気じゃもんね。

そう、これは女神の白昼夢。
もしかしたら、天使の愛に嫉妬した神様の、
ちょっとした悪戯、だったのかもね??

おしまい







最終更新:2008年10月10日 15:40