(N)
あの日、ゆかちゃんの体温を感じたあの日から
のっちの中でゆかちゃんという存在は、より確かなものになった
肌を合わせて改めて気付くゆかちゃんの存在
のっちの事を好きなゆかちゃん
意識…しない方がおかしいでしょ?
「じゃー次向かい合って、のっちはかしゆかの肩に手置いてみて」
軽く促してくるカメラマンさん
でもこれは仕事じゃけえ…ちゃんとせな
ちっ近いんだよね…
いや、でもこれは仕事仕事……
「のっち、笑顔」
「はっはい!」
撮影が終わっての楽屋で
「のっち不調?」
とのあ〜ちゃんの問い掛けに、なんも答えられず曖昧な笑顔でかわす
…あ〜ちゃん、ごめんなさい
ゆかちゃんにどきどきしてたなんて、
口が裂けても言えん…
あの事でまたあ〜ちゃんに秘密ができて、なんだかスッキリしない日々が続く
スッキリさせたいのは山々なんだけど…けど
「のっち〜帰るよ」
ぼーっと考えとったらいつの間にやら置いてけぼりで
「あ、ちょ、待ってー!」
コートを掴んで皆に駆け寄った
(K)
帰りの車に乗り込む
あ〜ちゃんは助手席で、後部座席にゆかとのっち
のっちは少し俯き加減で、
窓に頭をつけて目をつむってる
寝た?疲れたんかな?
今日は外で撮影したりスタジオ行ったりで忙しかったもんね
窓からの光りを受けて暗闇にぽつんと浮かぶのっちの姿
手を伸ばせば触れる事のできる距離
本当は今すぐにでも伸ばしたい
のっちの体を深く知ったあの日から、
触れたいという衝動によくかられるようになった
それはふとした時でまさに衝動で、
自分を抑えるのに必死だった
今だって本当は…
のっちの組まれた腕を振りほどいてしまいたい
ぎゅっと手を繋ぎたい
ゆかのことを、見てほしい
「ゆかちゃん、こないだのあの人どうなったん?」
あ〜ちゃんの言葉に、のっちにやっていた視線をずらして前にやる
「こないだ…あぁ、別にどうもなっとらんよ?」
「そうなん?あ〜ちゃんてっきり、もうご飯でも行ったかと思っとった」
「ふふっゆか手、早いね」
バカな事をしでかす前に、
あ〜ちゃんの話しに気を取られてしまおう
(N)
うとうとしていると、とんでもない会話が耳に届いた
…こないだのあの人?
何それ何それ、のっち知らんよ?そんな人!
…ん?とんでもない?なんで?
自分の思考に自分でつっこみを入れてみる
何がとんでもないんじゃろうか…
自問自答に気をとられてる隙にも2人の話しは進むから、
とりあえず考えるのはやめて聞き耳をたてることにした
目をつむって、寝たふりをして、
2人の会話に神経を集中させる
「え〜でもやっぱ誘われたりしたん?」
「んん…まぁ、」
「やっぱゆかちゃん狙われとるね」
「でも今はそんな事してる場合じゃないけえ」
「のっちん時もめっちゃ怒っとったもんね〜ゆかちゃん」
「あっ!はは〜、ははは」
「何、その渇いた笑い」
「いや、ははは」
二人の談笑
いやいやいや、2人とも笑ってるけどさ
のっちだけなんも知らんのはなんで?
「メールはしてるん?」
「…うん、来るんよね毎日。無視する訳にもいかんし」
「そうじゃね…難しい所じゃね」
「う〜ん…」
「あれ?のっちおる?声全然せんけど」
「あっなんか寝とるみたい」
「今日は疲れたからね〜。あ〜ちゃんも寝よぉっと」
「うん、おやすみ」
ゆかちゃん…誰かに狙われてんだ
てか毎日メール!?
昔から携帯手放さないの知ってるけどさ
毎日誰としてるかなんて考えた事なかった…
そっか…そりゃそうだよね、モテるよね
うん、しょうがないよ
うん
……うん
部屋に入ってまずベッドの上に体をほる
ボフっと鈍い音が静かな部屋に響いた
手には携帯
メールかぁ…別にいいじゃん
ゆかちゃんメール好きだし、するのは当たり前だよ
可愛いからモテるんも当たり前
誘われるんも、当たり前
のっちだってたまに誘われるし…
ゆかちゃんにこん訳がないよね
じっと携帯を見つめた
のっちはメールとかせん方だし、来ても返さんし…
ゆかちゃんからメールこんのは当たり前
それで今までやってきたじゃん
何を今さら…
なんだろ、でも、やだな
誘われてるとか、ご飯とか
どこのどいつだ
でも無駄だもん絶対
ゆかちゃんはのっちの事が好きなん、
「あー…」
無意識に声が出る
胸騒ぎを抑えるための、声
でも…だめだモヤモヤする
とんでもないこと…だなこれは
自分に感じた違和感に気付く
なんていうか…嫌なんだ
ゆかちゃんが他の人となんかあるのが
「あー…そっか…」
これは独占欲だ
ゆかちゃんを独占したいんだ
そっか、そうなんだ
そうなんだ
ピカピカ光るランプ
カチカチ鳴るボタン音
サラサラ素早く動く、細い指
今日は全部に気が散る
昨日言ってた人としとんの…?
「ゆかちゃんメール好きだよね」
思わず出た言葉に自分で驚いた
わざわざ自分から話しふることないよな
「ん…?」
「何?あの人としとん?」
ひょいっと横からあ〜ちゃんの声
だから、あの人って誰よ
「ん…そうだよ」
返信に気を取られそっけない言葉のゆかちゃんに、胸がズンっと痛くなる
何?そのメール、そんな大事なん?
そもそもだから、あの人って誰なんよ
なんで当たり前みたいになってんのじゃ
のっちは知らんよ、そんな人
「あのさあの人って、誰なん?」
当然の疑問を投げかけてみた
「なんか大学の友達だって。だからのっちも知ってる人なんじゃない?」
「えっ!」
「…あ〜うん知ってるかも、」
「誰?」
「…なんか、パーマあててて茶髪の眼鏡の人」
「あ〜なんとなくわかるかも…メールしてんの?」
「うん、まぁ…」
「え〜いつから?のっち全然知らんかった」
「ちょっ、のっち遅れすぎじゃろ!」
「ふふっ、うん、遅れてるー」
「いやいやいや、のっち聞いとらんもん。」
「…だってあ〜ちゃんにしか言ってないもーん」
「えっそうなん?」
あ〜ちゃんは少し驚いたような、
なんだかばつが悪そうな、そんな表情をした
それを見て、咄嗟に空気を変えることを選択する
「ま、なんでもいいけどねぇ。それよりさ、今日どんな写真撮るんかなー?」
わざと明るく言い捨てた
のっちはなんも気にしとらんから、
教えてもらってないこともどうでもいいから
そんな風に思ってるよって、あ〜ちゃんにアピールする
「ん〜どんなんじゃろ?綺麗に撮ってもらえたらええね」
(K)
どうでもいい…かぁ
だからのっちには気付かれたくなかったんよ
気にもされない事がわかるのが怖かったから
ゆかの事には気にもとめず、あ〜ちゃんと楽しそうに話すのっちに
胸の奥が細い糸でぐるぐる巻きにされてるみたいに、痛くなった
こんな風な光景の中にいると、キスしたことも、
愛しいって言われたことも、全部夢だったんじゃないかと思う
ゆかの腕の中にいた可愛いのっちも、
全部幻だったんじゃないかなって…思う
またピカピカ光るランプ
ケラケラ笑う2人の声を遠くに感じながら
携帯の向こうの彼に返事を送った
ゆか、何しとんじゃろ
最終更新:2009年03月30日 01:16