二日後。
「こんにちはー」
「いらっしゃい、あ〜ちゃん」
玄関に立つゆかちゃんの姿。
「今日はお母さんもおばあちゃんもおらんけぇ」
「そう、なんじゃ…」
ざわざわとした何かが胸の辺りで燻っている。
…まさか、…ね。
あたしはどこか浮ついたまま、ゆかちゃんについて家に入っていった。
彼女は部屋に入ると、テーブルの上に宿題を広げ始めた。
「今日はこんだけしようと思っとるんじゃけど」
ゆかちゃんがいつもと変わりない事に、あたしは安堵したと同時に肩の力を抜いた。
「そっか、じゃあちゃっちゃとやっちゃおう」
「…お手柔らかにお願いしまーす」
「だめ。今日のあ〜ちゃんはビシバシいくから」
「ぅえー…スパルタやだぁ」
とはいえ、なんだかんだとやるのがゆかちゃん。
コツを教えてあげると、すんなり飲み込んで自分のものにしてしまう。
あたしは、昔から彼女のこういう所にただ感心するばかりだ。
「できた!おわり!」
「ゆかちゃん、お疲れ様」
「あ〜ちゃんのおかげじゃん。教えるの上手だもん」
トントン、と宿題を纏めるゆかちゃん。その横顔は嬉しそうで、まるで子供みたいで可愛い。
「ゆかちゃんの飲み込みが早いけぇ、あっという間に済んだだけだよ」
「そっかな?」
照れてるのか、ちょっと頬が紅い。
「…じゃあ、ゆかはこっちの方も飲み込み早いかな…?」
…じゃ、ない。
また、あの甘い微笑みを浮かべたゆかちゃんは、躊躇なく手を伸ばしてくる。
あたしの頬をそっと包み込んで、距離を縮めてきた。
「あ〜ちゃん…」
薄桃色の唇が近づいてくるのを、浮ついたままのあたしは目を細めて見つめた。
耳の端に聞こえる蝉の声がリアリティを掻き消していく。
…ああ、これ…夢、なのかな…?
なんて、そんな訳もないのに。
しかし彼女の唇が、思った場所とは違う所に着地した。
「ん、」
瞼、おでこ、頬。
優しい、柔らかい感触に背中がじんわり熱くなっていく感じ。
あたしは目を閉じてそれを受け入れた。
「は、…あ〜ちゃん」
「…ん?」
「今日、は…拒まん、の?」
彼女の問い掛けに、薄く目を開く。
暑さのせいなのか、熱いせいなのか、あたしから見た彼女は輪郭がぼんやりとしていて、これまたリアリティを感じない。
でも、彼女の瞳が揺れているのは分かる。
「…拒んだら、やめるん?」
「………」
「ゆかちゃんがそうしたいんじゃろ…?」
あたしの言葉にゆっくり頷くゆかちゃん。
先程からあたしの頬を包んでいた掌が、しっとりと汗ばんでいる。
「あ〜ちゃん…」
…あたし、可笑しい事しとる。
分かってる。
だから、これはきっと夏の熱気のせい。
彼女の頬が紅く染まっているのも、あたしの背中に纏わり付く熱も、二人を包む空気が甘い熱を持っているのも。
きっと、夏という季節のせいなんだ。
そっと触れる唇。少し戸惑ったように。
「ん」
それから下唇をちろりと舌でなぞられる。
もう一度目を薄く開く。
すぐ目の前の彼女は、目を閉じてあたしの唇を味わっている。
睫毛が不安そうに揺れて、興奮からか頬が紅い。
「んぁ…?」
彼女の舌が口内に侵入しようと、唇を舌で割ろうするのを拒む。
「あ〜ちゃ、っ」
今度はあたしの番。
「ひゃ…っ」
さっき彼女がしたように下唇を舌でなぞると、小さな悲鳴が聞こえた。
それを聞いてないフリして、唇を合わせ舌で割って入る。
「ぁ…、っふ」
ゆかちゃんが敏感だと知ったのは、一昨日のあの出来事からだ。
そしてそれは今日も同じ。
上顎を優しく舌で撫でると、細い体はぴくんと反応する。
「は…っん、ぁ…」
ほら、力が抜けてきた。
知らない内にあたしの服の裾を掴んでいた手は、舌を絡め取ると拙い仕種に変わる。
それを見計らって、そっと唇を離した。
「ぁ……」
彼女の表情に、背中に溜まっていた熱が広がっていく。
ぞわぞわした何かは相変わらず背中に存在していて、変わらない勢力のままあたしを突き動かす。
「あ〜ちゃん…」
とろりと蕩けた瞳が、吐息が、肌が、訴えてくる。
「ゆかちゃん、ほんまに後悔せんの…?あ〜ちゃん、多分止まれんよ…?」
欲しい。
体が欲しがっている。
ゆかちゃんの全てで、そう訴えてくる。
「…止まらんくて、いいよ…」
細い腕が首に廻されて、促されるまま彼女を押し倒す。
…もう、後戻りは出来ない。
最終更新:2009年03月30日 01:19