• side A-


「ただいまー」

いつもなら授業後に友達とダラダラおしゃべりをして帰るけど、今日はそのおしゃべりも早めに終わらせて帰ってきた。

だって出かける時に「サボっちゃえば」とか「一緒に行く」って拗ねてたのち犬が少し心配だったから。
それに甘いなーとは思うけど、あんまり寂しい思いをさせるのもかわいそうかも、、なんてね。


ただいまーの声に反応して、勢いよく階段を駆け下りてくる姿を想像していたのだけど家の中は静まり返っている。

もしかして、お昼寝中かな?
あ、しかも勝手にベッドに潜り込んでたりしてね。
うわぁー超ありえる!!

そんなことを思いながら階段を上がる。

そういえば、ちゃあぽんもまだ帰ってないのかな?
試験期間で早く学校終わるって言ってた気がするけど。


「のっちー、あ〜ちゃん帰ってきたよー!!」


勢いよくドアを開けた。

「むぅぅ・・・」
って勝手にベッドに潜り込んで毛布にくるまってるのち犬。
そんな姿を想像、、というか今度は期待、していたけど、、


部屋の中は冷たく静かだった。


「のっち?」


部屋の中を見渡してもどこにものち犬の姿はなくて。
他の部屋も探して見たけど、どこにもいなかった。


なんで?どこ行ったん?


隠れてるわけでもなさそうだし、、だけどいないってことは。。
でも、のっちが出て行く原因なんて。。


・・・・あっ。。

もしかして、、昨日、思いっきり洗面器で殴ったことを怒ってる?
でもあれは、無理やり一緒にお風呂入ろうってのち犬が鼻息を荒くしながら迫ってきたから。
(あれはとても犬とは思えないほどの迫力だった・・・)


あっ!
それとも、夕飯がカレーだったのに、犬にはたまねぎアレルギーがあるからダメ!って食べさせてあげなかったことを怒ってる?


はっ!
それとも、またうっかりベランダに放置したことかも知れん。。


んん?
もしかしたら、のち犬が寝てる間に肉球をフニフニしまくったりとか、耳と尻尾をクイクイ引っ張ったりして遊んでたのがバレてたとか?


・・・・って、のっちはそんなことで怒らんよね。。
今までだって、どんなにゆかちゃんと二人でのっちをイジっても怒らなかったし。
たまに拗ねたりはするけど気が付けばいつの間にか、へにゃぁwって無邪気に笑ってて。。


じゃぁ、、なんでいないんよ。。
あ〜ちゃん、せっかく早く帰ってきたんに。。


ベッドの上に身を投げた。
お気に入りのワンピースに皺がついちゃう・・・そう思ったけど、なかなか身体を起こす気になれない。


静か、じゃねぇ。。
今まで、この部屋の静けさなんて気にしたことなかったのに。


特に、ここ数日は犬になったのっちとずっと一緒にいたから。
いつもなんだかんだギャーギャー騒いでて、寝るときでさえも常にのっちの息遣いや温もりを感じていた。
それがいつの間にか当たり前になってたんだ。


のっちとこの部屋で過ごしたのは、今までに比べればほんのわずかな時間なのに、、
どうしてだろう、のっちのいないこの部屋がとても寂しい。

まるで心が空っぽになってしまったみたい。



  • side N-


「たっだいまー!!」


・・・・ちゃあぽんのジェットコースター級の暴走自転車から無事帰還いたしました、のち犬れす。
うぅ・・また頭がぐわんぐわんしてましゅ。。


「ありゃ、おねーちゃん帰ってきとる」

宿題教えてもらおー!
そう言いながら、ちゃあぽんは自分の部屋まで走っていってしまった。

どこまで元気なんじゃ、あの子は。。


なんて思いつつも、のっちも階段を駆け上がってあ〜ちゃんの部屋を目指す。
自転車酔いももう平気らもんね!

「あ〜ちゃん、たらいまー」

少しだけ開いたドアの隙間に身体を滑り込ませて、あ〜ちゃんの部屋に入る。


ベッドから慌てて身を起こしたあ〜ちゃんがすごくびっくりした顔をする。

「ちゃあぽんと遊んできたーw」

あ〜ちゃんの足元までトテトテと歩いていく。
頭で摺りつこうとしたら、ふわりと抱き上げられ、そのままあ〜ちゃんの腕に抱きしめらた。

突然のあ〜ちゃんの匂いと柔らかい感触にびっくりドキドキ。
あ、もしや、これは噂のおかえりのチューですか?!

だけど、いくら待てど、あ〜ちゃんはのっちを抱いたまま動かなかった。

「あ〜ちゃん?」

そっとあ〜ちゃんの顔を見上げた。
潤んで少し赤くなった瞳があった。
その瞳からぽろっと零れた涙。

「えぇっ、、あ〜ちゃん、どうしたぁぁー?!」


涙もろいあ〜ちゃんの涙を見るのは初めてじゃないけれど、
理由も分からない突然の涙に心がぎゅっと苦しくなる。


「なんで、、いなくなるんよ」

あ〜ちゃんの抱きしめる力が強くなった。

「お留守番しとるって言うたじゃろ・・・」
「ぁ、ごめ・・・」
「もぅ、、あ〜ちゃんと一緒にいたくないんかと思った」

そう言ってあ〜ちゃんはのっちをぎゅっと抱きしめた。

「そ、そ、そんなわけないじゃろっ」

頭をぶんぶん横に振って全否定する。
垂れた耳が半瞬遅れてついてくる。

「のっちのばか、あほ・・・」



抱きしめてあげられる腕も、頭を撫でてあげられる手のひらも、今ののっちは持っていないくて。。
涙を拭ってあげることも、ふわふわの髪の毛に触れることもできない。、

あ〜ちゃんの涙を拭えないかわりに、頬を伝う涙をそっと舐めた。


「ごめん。。でもね、あ〜ちゃん、、
どこに行ってものっちはあ〜ちゃんのところに帰ってくるよ。
どんなに遠くに行っても、のっちが帰るんはあ〜ちゃんの所じゃ」

そう、のっちの帰る場所はいつだってあ〜ちゃんがいる場所。
あ〜ちゃんがいる場所がのっちの居場所だから。
今までも、これからも。
ずっと、ずっと。


ぺろぺろとあ〜ちゃんの顔を舐め続けていると、

「くすぐったいけぇ。。」

そう言って、やっとあ〜ちゃんが笑ってくれた。
うん、やっぱりあ〜ちゃんには笑顔が似合うよ。


あ〜ちゃんに抱きしめられるのもいいけど、やっぱり、抱きしめてあげたい。
あ〜ちゃんが泣いてるのに、ただ抱きしめてあげることすらできないなんて。

やっぱり、元に戻りたい!


って、あれ・・・?
のっち、何か大事なこと忘れてる気がする・・・ような?

えっと、、さっき、公園でー・・・


「あ、そうじゃ。今日ゆかちゃんが遊びに来るって。さっき電話あったんよ」


ああああああ!!!

そうだ!そうだよ!ゆかちゃんだよ。

さっきの公園でのゆかちゃんと短パン王子のツーショットが鮮明に脳内で再現された。

「あ〜ちゃん!ゆゆ、ゆかちゃんが!ゆかひゃんが!」
「ん?ゆかちゃんがどうかしたん?」
「ガシャコーン!って!」
「・・・意味分からんし」


ピンポーン

「あ、ゆかちゃんが来たみたいじゃ」


ええ、どうしよう。。
のっちまだ、心の準備が。。



  • 続く-








最終更新:2009年03月30日 01:23