カンカンカンカンカンカンカンカン…


踏切の音がする。

時刻は朝の7時45分
を過ぎたところ。


長い長い坂道を自転車で下ると、
見えてきた踏切にいつもの後ろ姿があった。



「ゆっかちゃーん」

少し後ろから声をかけると君は、サラサラの髪をなびかせ振り返った。

「あっ、おはよ。のっち」
「おはよw」

いつもと同じ、君の隣に止まる。
「乗ってく?」

おどけたように、自転車の後ろを指す。
「駅、すぐそこだよ?」

と真面目に応える君。

「だよねw」


ほぼ毎日繰り返される会話に彼女は呆れてないだろうか…。




電車が通り過ぎ、踏切が開く。
「じゃ、お先に」
私は彼女を追い越して、駅の駐輪場に向かう。
自転車を停めて、鍵をかけ、なるべくゆっくり歩き出す。
駅の改札でまた彼女と再開するために。



「また、会ったねw」
偶然を装って
改札でいつも通り再開をして
いつも通り同じホームに下りる。

「のっちのクラスは学際なにやるの?」
「うーん…なんか、体育館のステージの使用権が当たったんだって」
君はいつだって、私の話を聞いてくれる。


「へぇ…劇とかするん?」
「うん…」
「何するん?」
君はいつだって楽しそうで、
「ベタに、『ロミオとジュリエット』w」
「のっち何役?」
「…ロミオ」
「あはww男役ww」
些細な事で笑ってくれる。

「笑わんでよ」
「いやいや、はまり役だってw」

そんな君が…

「ジュリエットは?」
「うん…近藤って子」
「あの小さい子?」
「うん…演劇部の子」
「へぇ〜。楽しみだね」

好きなんだ。



「あっ、おった。のっち!」


お昼休み、屋上で独り昼食を食べていたら、珍しく声をかけられた。


「あ〜ちゃん」
「また先に食べよる」
少し膨れて、私の隣に座ると持っていたお弁当を広げだす。
「あれ?」

ゆかちゃんは?


「ゆかちゃんは委員会ですよ?」
口には出さなかった言葉を読み取ってくれる。
私の数少ない友達。

あ〜ちゃんとゆかちゃんとは中学校が一緒だった。
でも、クラスが一緒になったことがなくて…
唯一、あ〜ちゃんと一年間だけ一緒だったけど…正直仲良くなったのは高校生になってから。

高校生になって友達が出来ない私を見かねたのか、二人が声をかけてくれた。

それから急速に仲良くなり、今ではずーっと前から友達だったみたい。





「のっち、学際でロミオやるんじゃろ?」
「え!何でもう知ってるん!」
「学校中で噂になっとるよ」
「噂?なんで?」
「三組の大本さんがロミオなんて、、、」
「なんて、何よ」
「はぁ〜、ちょっとは自覚しんさいや」
「?」
「…似合いすぎるって」
「…あ〜、、、///」
「うわ!照れてる」
「あ〜ちゃん!」
「アハハハww」

二人と居る時間は凄く楽しい。
二人が友達で居てくれるなら、他に友達は要らないかなぁ…って思うくらいww


「そうそう、ゆかちゃんがさぁー…」
「ん?」
「一緒に帰ってくれないって嘆いてたよ?」
「あー…だって、ゆかちゃん委員会とかで忙しいじゃん」
「ほんまにそれだけ?」
「…」
「「…、一緒に居ると好きなことバレそうで、」」
「!」
「ハモったww」
ケラケラ笑うあ〜ちゃんはきっと超能力者だと思う。
「気にしすぎよ」
「でも…」
「朝も、待ち合わせしないんでしょ?」
「でも…毎朝会ってる」

あの踏切のおかげで。

「折角、家近いのになんで一緒に行こうっていえんの?」
「うん…なんでだろ」
「…今日、劇の練習あるんじゃろ?」
「うん」
「ゆかちゃんも委員会で遅くなるって」
「あ〜ちゃん」
「まぁ、頑張ってw」


5時過ぎの教室は薄暗くて、
差し込む夕焼けが切なかった。
てか、なんでこんなに緊張してるんだろ。

「のっち?」

「あっ、ゆかちゃん。お、お疲れ様」
「なにしてるん」

「うん…今日劇の練習で、、、遅くなったから、ゆかちゃんも委員会だし、、帰ろうかなぁ…って」

自分から誘うなんて久しぶりで上手く言えない。
「うん、一緒に帰ろ」
それでも、優しく微笑んでくれる君はオレンジ色にとても映えた。




「劇のほうはどう?」


電車の中
座っているゆかちゃんの前に私は立っている。
隣に座れば良いんだけど…
見上げているゆかちゃんが可愛いのでww
「うーん…まぁそれなりに」
正直、台詞噛み噛みだけど…
「本番見に行くね♪」
「いやー…恥ずかしいよ」
「大丈夫、期待してないからw」
「えぇー」


駅を出て、駐輪場に向かう。
鍵を外そうとするけれど、人を待たせてると思うと妙に焦ってしまう。
「お待たせ」
「ううん、大丈夫」

さっきまで辛うじて顔を見せていた太陽は、踏切につく頃にはすっかり沈んでしまっていた。


カンカンカンカンカンカンカンカンカン…


踏切のむこう…
ゆかちゃんは線路沿いの道に、
私はあの長い上り坂に、
別れてしまう。


この踏切が開かなければ良いなぁ…
赤いランプに照らされながら思った。


続く…






最終更新:2009年03月30日 18:44