ゆかちゃんに手厳しく怒られて、あたしは一人、反省モードに入っていた。
「大事に出来んのんなら、あ~ちゃんはのっちに任せれん」
ゆかちゃんの最後の一言はずっしりと胃にのしかかってきた。(何せ、あ~ちゃんの守護天使の重い一言じゃけえ)
大事に…しとるつもりなんだけど。
時々、なんかセーブが効かなくなるだけで。
…なんか。やっと距離を縮められた気がしてたから。元々は、あ~ちゃんいわく、のっちがへたれなせいで、いらん遠回りをしてたけど。
あたしはずっとあ~ちゃんに憧れてた。あ~ちゃんはキラキラしてて、あたしを新しい世界に引っ張り出してくれて。
意地悪だったり、ワガママだったり、理不尽なことやムチャクチャなことを言っても、その全てが砂糖菓子みたいに甘い、そういう特別な存在。
手を伸ばしても届かない気がして、あたしにはあ~ちゃんを捕まえられない気がして、もたくさとまとわりついてたけど。
でも。あ~ちゃんが、手を伸ばしてくれた。
そして、その手を引き寄せたら。
あたしの手の中のあ~ちゃんは、余裕なんて無くて、すぐ耳まで真っ赤になって、じたばた無駄な抵抗をする、そういう…もろくて、愛おしい存在だった。
大事にする、ってことは距離と時間がキーなんだろうけど。なんか、難しい。
せっかく近づいたものを離したくなくて、強くつかみすぎたのかもしれない。あ~ちゃんの手首は、弱く震えてたのに。
あたしの欲しいものは、単純明快だから。なんか、暴走しちゃったんかも。
そんなのっちに、あ~ちゃんはウンザリしたんかな。重たくなったんかな。
…いらんくなったんかな。
考えてると、本来の暗い自分に支配されそうで。
あたしは気持ちを浮上させようと、屋上に向かった。
屋上へと出るドアを開きかけて、ガラス窓越に、二人の姿が見えた。
あ~ちゃんと、ゆかちゃん。
もちろん話し声は聞こえない。
二人は肩を寄せ合って。始めはよく見えなかったけど、花火をしてるんだ、と気づいた。
それは、不思議に穏やかな光景で。
とても密やかで、とても静かだった。
あ~ちゃんの花火にゆかちゃんがそっと火をつけてあげて。あ~ちゃんが、ゆかちゃんの髪に火花が散らないよう、そっとかき上げて。
あ~ちゃんは、ゆかちゃんにもたれかかった。
そして、ほんとに穏やかに、花のように笑った。
のっちが見たことが無い、そして、のっちが見たかった笑顔だった。
それは、静かで穏やかで。あ~ちゃんが完全に守られてる世界だった。
あたしは、ただ立ちつくして。
遠い憧れの世界のように、ただ見つめていた。
のっちが欲しいものは、もうずっと決まってる。もうずっと、憧れ続けているもの。
もし手に入らなかったら、なんて考えたことがないくらい、ただ憧れてた。
…そうだ、考えたことなかったんだ。手に入らない、なんて。
やっぱり、あ~ちゃんが言う通り、のっちはアホの子だ。
あ~ちゃんから、決定的なことを何も言われたこと無いのに。
たった、2文字の言葉を。
一度も、ちゃんと言われたことなんて、ないのに。
いつも。見えそうで見えない、あ~ちゃんの気持ち。真昼の花火みたいに、あ~ちゃんの光の下で、見えにくい気持ち。
あたしは、あ~ちゃんの気持ちなんて、大事にしてなかったのかもしれない。
ただ、小さな犬っころみたく、ご褒美を欲しがってただけのかもしれない。
あたしは明るい光に包まれた屋上に背を向けて、暗い階段を下りて行った。
終わり
最終更新:2008年10月10日 15:59