のっちの情報は
意識しなくても、耳に入ってきた。
写真部の部員たち
担当してる2年生
職員室の先生たち・・・
一緒に過ごしてる時間は
放課後のほんのわずかな時間だけのはずなのに
どんどん、のっちについて詳しくなっていった。
先生たちが口を揃えて言う
「大本は、やればできるのになぁ」
最近、この意味するところがわかるような気がしてきた。
そして、それは
胸の奥にしまったままの
彼の記憶を揺さぶった。
やっぱ
どこか似てるところがあるから
惹かれてしまうのだろう、、か?
いやいや、そもそも
生徒じゃん・・・
それも、同性。
想いは
あっちへヒラヒラ
こっちへヒラヒラ
彼とのっちの狭間で揺れる。
けど、行き着く先がどちらでもないことは
逃れようのない事実。
来春には、結婚するんでしょ?
自分自身に投げかける。
はぁ・・・
考え出すと、どんどん深みにはまっていくのがわかる。
暑さで、さらにうまく思考回路は働いてくれない。
ココロを凍らせてしまった夏が
また、もうすぐそこまで、きていた。
あれ?
授業に向かう途中、だった。
のっちが、ふらっと
部室に入っていくのが見えた。
ほんと、
やればできる子、が
なにしてんだか。
頬が緩む。
同時に、頭の中のどっかがショートして
ココロの奥で、花びらが舞い散った。
そう、ずっとあたしは
サクラに囚われたまま、なんだ。
授業を終え、部室へと足を進める。
そっと、扉を開け
のっちがいることを確認。
ガチャリ
無意識に、鍵を閉めていた。
「なに撮ってんの?」
声をかけると、のっちはびっくりして振り返る。
のっちは
サクラの木を見ていた。
窓越し、のっちの隣で
サクラの木を眺める。
当たり前なんだけど
その姿は、出会った頃のそれとは
全く、様変わりしていて・・
けど、きらきらと
また別に輝きを放っていた。
そう、いつも
いつまでも同じ姿でいるわけではないのに…
変われないのは、ゆかだね。
うぅん、、変わろうとしても
季節は巡りめぐって
また、花びら舞い踊る風景に飲み込まれるんだ。
このままずっと
抜け出せない、のかな?
ぐるぐると思考をめぐらせながら
のっちと会話する。
「じゃ、一緒に食べようっか」
ココロのスイッチを切り替える。
お弁当を食べる、あたし。
パンをほうばる、のっち。
自然と呼び名が、のっち、となる。
油断しちゃうと、そう、だ。
“生徒”ならば、きちんと苗字で呼ばなきゃ・・
いや、それ以前に
ゆかにとって、
のっちは“生徒”、なんだろうか?・・・
新しいのっちの情報が更新。
両親は海外で、ただ今、一人暮らししているらしい。
ゆかの、野菜嫌いがバレた。
きっと
のっちの中の、ゆかに対する情報が一つ、更新された。
それは、とても自然な流れ、で。。
のっちが
「えっ、かわいいなぁって思って」
そう言ったのも
今の自分たちの関係じゃ、ある意味
“当たり前”の一言、で。
なのにあたしは、なんだか
ぎゅっと、心臓を掴まれてしまったかのように
身動きがとれなくなり
「もう、、、いつもいつも、なに言うんよ」
必死に、はぐらかし
のっちに、トマトを差し出す。
のっちは、ゆかの反応を
特に気に留めることなく
トマトを口にし、「おいしいじゃん」て。
一瞬の間。
絡み合う視線。
沈黙の刹那。
そして
同時に微笑みあう。
あ、ダメだ、やっぱ・・・
今日のゆかは、どっかおかしい。
手は自然と、のっちに向かって進んでく。
頬をかすめ
耳の後ろを通り過ぎる。
うなじから、後頭部をかけて
さらさらと、撫でる。
そっと瞳を閉じた
整った顔立ちはほんとキレイ、で。
ヒラヒラ、ヒラヒラ。
惑わされる。
「目、閉じちゃって・・・・
んな顔したら、、、キス、しちゃうよ?」
それでも、まだ
頭の芯は、どこかはっきりしてる。
「…うん」とだけ
答える、のっち。
あぁ、、、やっぱダメ
抗えない、や。
一呼吸の間をおいて
のっちの唇にそっと触れる。
ヤな暑さは、どっかへぶっ飛んでいった。
唇をそっと舌で撫で
薄く開かれて隙間を狙って
のっちの中に侵入。
のっちの体温が染み渡ってくる。
のっちからは太陽の匂いがした。
いつもそうだ。
それは
置き去りにした何かを思い出させるようで
なんだか、胸がきゅんとしてせつなくなる。
舌を絡ませる。
視線の先ののっちは
瞳を閉じたまま。
いったい、なにを想っているのだろう?
ふいに、ぐっと
のっちがゆかの舌を引き寄せようとする
でも
それは、ダメ。
どんなときだって、主導権は握っておきたい。
どこへ転がしていくも、ゆか次第。。
「残念でした。今日は、ここまで」
耳元で甘く意地悪く囁く。
でもほんとは
少しずつ、方向性を見失い始めている。
行き先が見えない不安を
ココロのどっかが、必死にごまかすんだ。
そっと、瞳を開いたのっちは
一瞬、まぶしそうな表情をし
「あぁ、、、もう、、、、、」
そう言って
机の上に突っ伏した。
うぅん、まだまだ大丈夫。
だって、まだ
のっちは、ゆかの手のひらの上、だ。
くすくすと笑いがこみ上げる。
ささっとお弁当箱を片付け
「じゃ、また放課後、ね。
あ、昼からはちゃんと授業受けるんだよ」
と、先生ぶる。
のっちも「・・はーい」と、生徒らしく。
ほら、ゆかはまだのっちの“先生”でいられる。
のそっと体を起こしたのっちが
「てか、先生…?
誰も、入ってこなくてよかったですね」
と、呟く。
「んー、、、そだねぇ・・・」
扉に向かっていく。
「なんて、ね」
ガチャッ
「あたしが、そんな危険なことするわけないでしょ?」
ほらやっぱ、
主導権は、ゆかの手の中、でしょ?
のっちは、髪の毛をくしゃくしゃして
まいったなぁ、、、て。
「じゃぁね、大本さん」
そう言って、部室を後にした。
一瞬にして、暑さがカラダにまとわりつく。
一気に、現実に戻ってくる。
急激に、あがる心拍数。
やっぱ、きょうのゆかは
どっかがおかしい。
ねぇ
もう夏はすぐそこだっていうのに
ヒラヒラ、ヒラヒラ
サクラの花びらが
舞い散っているよ。
まるで儚く散った
彼のように。
まるで行き場を見失った
ゆかのココロのように。
のっち?
あなたはいつもまっすぐだった。
だから、惹かれてきったんだ、きっと。
だから、上手に向き合えなかったんだ、きっと・・・
最終更新:2009年03月30日 18:52