数百の蛇からなる紅い川は————見えない手に塞き止められたかのように、分断され、弾き返された。中にはボールみたいに丸まったもの、天井や壁に貼り付いたものもあった。
「お見事、さすがはローラ」
その技巧に思わず称賛の声が漏れた。
ローラの繰り出した見えない手、彼女の能力——【陰陽双極、我ら蒼穹を舞う比翼たれ】(
センター・オブ・ジ・アース)は磁界生成と磁力付加を可能とする磁力操作能力、蛇の一匹一匹が強力な磁石と化し、さらにローラの意思で目まぐるしく磁極が逆転、1キログラムにも満たないであろう蛇の重量ではいとも容易く弾き返されてしまう。
それでもなお蛇達は突撃を、何度も何度も繰り返すが結果は変わらない。
それが意味するものは——紅い蛇を操る能力者(ヴァンパイア)は私達に手も足も出せないと言う純然たる事実。
「もう諦めて私達に投降しなさい、悪いようにはしないから」
私の呼び掛けに応じたのか廊下に敷かれた場違いなレッドカーペットは一瞬にして消え失せ、代わりに一糸纏わぬ赤髪の女性が現れた、女はよほど自分の身体に自信があるのか恥じる素振りを一切見せず、むしろもっと見ろと言わんばかりに豊満な胸を突き出している、その口許には邪悪な笑みを湛えて。
「くっははははははは、投降? する訳ないじゃない! やっと、やっと手に入れたたんだ、この力で私は!!! 邪魔者を一人残らずぶっ殺す、まずお前らからだぁぁぁぁ!!!
——zweit(ツヴァイト)
【紅蛇毒咬】(クリムゾンバイト)」
狂気と殺意に満ちた叫びが女を神話の怪物めいた異形の姿へと変貌させていく、女の繰り出す拳はすでに毒牙を備えた蛇の顎(アギト)だ、しかもさっきより確実に速い
「ほら、死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ」
「——っ、スピードもパワーも上がってるよ、このまま……じゃ……」
ローラと言えどこの変幻自在な蛇の軌道を読むことは難しいのか、ローラと女を交互に見やる。ローラは先程から攻撃を弾き返してはいるが、顔に疲弊の色が見えてきた。生体と磁力は相性が良くないのだろう、腕を多頭蛇へと変化させた女の連撃にジリジリ押されているように思えた。
一方女は攻撃の手を緩めない、鞭打ち刑に使われる九尾の猫鞭を思わせる蛇と化した両腕を激しく振り回す。
「蛇の怪物はね、英雄様に斃されるものよ、もっとも貴女がそれを望んでいると言うのなら」
「カミラ?」
「私が貴女を斃す! ローラは自分の身を守る事に専念して」
長引けば私達が不利になる、そう確信したから、それに私達が負けたら取り残されたクルースニクの戦闘班はどうなる? ゆえに変えねばならない————強行突破、危険だが戦況を変え、なおかつ、全員生きて帰るにはこれしかない。
「——anfang(アンファング)」
最終更新:2017年05月06日 13:18